25-5.心配
私は理事長さんに改めて自己紹介をした後に、グリアとの出会いから、どんな事に巻き込んできたのかを説明していく。
グリアには本当に沢山お世話になった。
最初は、魔王討伐に向けて動いていた時に、転移魔法を手に入れようとしたのがキッカケだ。
手がかりを求めてこの大学を訪れた。
そして、転移の研究をしていたグリアと出会ったのだ。
紆余曲折あってグリアも魔王討伐に協力してくれる事になった。
魔王討伐後は、セレネと共にニクスの信仰を集めるために教会に潜入した。
更には地下の町でも協力してもらったのだ。
実質的に中心となって、導いてくれた。
今は私達の家で好きに研究をしてもらっている。
ハルちゃんとお姉ちゃんがいるお陰で転移に限らず空間魔法の研究も大きく進んだのだろう。
これからも好きなように研究を続けて欲しい。
その辺りの事を話せる事だけに絞って、グリアと二人で話していった。
「それで、グリアちゃんの事も貰って下さるのかしら。
話しを聞いた限り、一生養うつもりなのでしょう?
なら母親としてはちゃんと幸せにして頂きたいのだけど。
この子の好きにさせてしまったら、一生他の人とは関わらずに生きていく事になってしまうわ。
愛される幸せくらいは知ってもらいたいのだけど」
「やめてください。母様。
アルカ君は既に十人もの伴侶を抱えているのです。
今更私が入る余地などありません」
?その言い方は満更でもないの?
違う?私の事を悪く言わないように気を使っただけ?
そうすか……
「なら尚の事じゃない。
もう十人もいるのなら一人くらい増えても良いのではないかしら。
お互いにそこまでして尽くすくらいだもの。
憎からず思っているのは間違いないのでしょう?」
「それは……」
おっと?言い淀んだぞ?
もしかして脈アリなの?
『アルカ』
『なんでたのしんでる?』
『あるじ酷いわ!
グリアの反応を面白がってるだけじゃない!
そういうの茶化すのは良くないと思うの!』
『はい……すみません……』
「お母様。グリアも困っていますのでどうかそこまでに。
私も今後の事は少し考えます。
私が自分で幸せに出来ないようであれば、外部の人との交流の場も作っていきますので。
どうかもう暫くお時間を下さい」
「そうは言ってもねぇ。
グリアちゃんはこう見えてもいい歳だから。
あまり時間は無いと思うのだけど」
「年齢の事を母様には言われたくないです!」
実際、いくつなのかしら。
グリアの実年齢から言ったら、五十以上は確実よね。
見た目も言動も二十代にしか見えないんだけど。
「もう出奔した身なのだから子を残せとまでは言わないわ。
せめて幸せになってくれればそれだけで安心なのよ」
「ぐっ……」
親を安心させてくれないのかとまで言われては、流石のグリアも反論出来なかったらしい。
ところで出奔って?家を逃げ出したの?
親のコネで教授になってたんじゃなかったの?
でもさっき、研究室はコネで用意したみたいな話ししてたわよ?
私達に付いてきた時に出奔したの?
グリアはその辺り教えてくれないから全然知らない。
お母様に聞いてみても良いのかしら。
「お母様、出奔とは?
聞いても宜しいですか?」
「良いわけ無いだろうが!」
「グリアちゃん。そんな乱暴な言葉遣いダメよ。
アルカちゃん、この子は研究一筋で生きたいからって家を飛び出したのだけど、知っての通り生活能力が皆無なの。
だから、まあ、予想通りすぐに立ち行かなくなってね。
それで家を出てからも世話を焼いていたのよ」
「……ドン引きだわ。グリア。
今までよく私に説教できたわね」
「君こそ散々私の世話になっておいてよく言えたな!」
ごもっとも。
そうね。向き不向きの問題ね。
そう考えると私とグリアってよっぽど相性が良いのかしら。
まあ、最近のグリアの世話はほぼノアちゃんの役割だけど。
「ごめん。その通りね。
言い過ぎたわ」
「いや、私こそ言葉が過ぎた」
「グリアちゃんは本気で、アルカちゃんの恩返しって言葉に一生甘え続けるつもりなの?
流石に他所様にそこまでしてもらうのは親として認められないわ」
「うぐ……
けれど!研究成果で十分な見返りは払えます!」
「見返りとして提示するのなら、仕事と割り切るべきだわ。
恩返しを受け取っておいて、好意で日々のお世話までしてもらっておいて、見返りを払うなんて言い草はダメよ。
そんな関係なら尚の事、お互いに尊重しあわなければいつか破綻するわよ」
「はい……」
「お母様のご心配は最もです。
私達も改めて関係を見直すとお約束します。
ですから、どうかそのへんで」
「アルカちゃんは優しいのね。
けれど、あまりこの子を甘やかし過ぎないでね。
私が言えたことでも無いのだけど」
「すみません。それは少し難しいかもしれません。
私はグリアにお世話になり過ぎてしまったので、どうしても贔屓目に見てしまいます。
けれど、私の伴侶は皆しっかりしていますので、私とグリアがやりすぎても必ず誰かが止めてくれます。
どうかご安心ください」
「それはどう答えて良いのか困ってしまうわね。
けれど、あなた達と一緒に暮らしている人達だもの。
きっと良い人なのでしょうね」
「はい!」
「グリアちゃんとアルカちゃんの事はわかったわ。
それで、お願いの内容を聞かせてもらえるかしら」
理事長さんの言葉を聞いて、私はアリア、ルカ、リヴィ、ラピスを学園に通わせたいと相談した。
リヴィはまだ三歳だけど、ルカに合わせて成長してもらう事にしよう。
精神年齢的には問題ないだろう。きっとたぶん。
『何でラピスもなの!?
嫌よ!あるじから離れたりなんてしないわ!』
『お願いラピス。
アリア達の事を側で守っていて欲しいの。
あなただけが頼りなのよ』
『わかったわ!任せておいて!』
ちょろ、優しい子だな~
本当は私が子供モードで付いていこうかとも思ったけれど、流石に無理がある。
カノンに付いてパンドラルカの方も進めたいし。
『サナとナノハ』
『でもいいはず』
『ラピスくらいでしょ。教育が必要そうなの』
『あるじ!?』
『冗談よ。
ナノハは居眠りの常習犯になるだろうし、サナは出向してもらう必要があるかもしれないから』
『出向?』
『にじゅうけいやく』
『じっけん』
『頑張るのです……』
『ラピス代わる?』
『嫌よ!あるじ以外と契約するつもりはないわ!』
『なら決まりね』
『仕方ないわね!』
理事長さんとの話し合いの結果、来年度からアリア達を編入させてもらえる事になった。
あと三ヶ月くらいか。
ノアちゃんにも相談して、そこまでに最低限身を守れるようにしておきたい。
最悪、お姉ちゃんも教師として採用してもらえないかしら。




