25-4.理事長
「久しぶりにまともな発言を聞いた気がするよ。
良いとも。
そういう事なら勿論協力しようじゃあないか」
「ありがとう。少し引っかかるけれど、助かるわ」
翌朝私は、グリアにアリア達の通える学園に心当たりがないかと聞いてみた。
あの魔法大学には年少向けの学園も併設しているらしい。
理事長とは旧知だと言うので、早速紹介してもらえる事になった。
「本気で今日行くの?
流石にアポとかいるんじゃないの?」
「かまわんよ。
私が赴くならば気にしないとも」
「そんなに親しい人なの?その理事長さん」
「まあな。その辺りの事は会えばわかる」
「まあ、そういうなら」
私はグリアと共に魔法大学のグリアの研究室に転移した。
グリアが大丈夫だと言うので転移したけれど、本当に研究室はそのまま残っていた。
なんだったら、ちゃんと維持されていた。
明らかに定期的な清掃がされている。
グリアはもう五年近く帰っていない筈なのに。
理事長と知り合いだと言うからコネパワーでも発揮したのだろうか。
私はグリアの案内で理事長室に向かう。
今から会う理事長はこの大学だけでなく、学園も含めた全体で一番偉い人らしい。
大学長と学園長が別にいるそうだ。
というか、この大学って国が運営しているんじゃないの?
こんな王都のど真ん中に大規模な敷地を有しているくらいだし。
もしかして理事長ってお偉い貴族様?
その理事長と繋がりがあるって、グリアももしかして良いところの生まれなの?
でも、自分は貴族じゃないみたいな事を言っていたわよね。
風呂に入るの拒否する口実かもしれないけど。
グリアは迷いなく理事長室に辿り着きノックする。
「どうぞ~」
中からは若い女性の声が聞こえてきた。
秘書さんでもいるのかな。
グリアが扉を開けて中に入っていくのに、私も続く。
理事長のものと思われる立派な机の向こうには、二十代くらいの若い女性が腰掛けていた。
部屋の中に他の人はいないようだ。
「グリアちゃん!!
やっと帰ってきてくれたのね!!!!!」
グリアに気が付くなり、大興奮で飛びついてきた。
「母様。落ち着いてください。
客人もいるのです」
「グリアが敬語で喋ってる!?」
あ、間違えた。
つい本音が。
「母様?グリアのお母さん?
え?でも、グリアの実年齢って確か三十……」
「やめたまえ!」
え?気にしてるの?
やっぱり不老魔術使う?
「グリアちゃんがお友達まで連れてきたのね!初めてよ!
今日はお祝いだわ!いっそ記念日にしましょう!
こうしてはいられないわ!早速手配しなきゃ!」
「落ち着いてください。何処に行くつもりですか。
祝宴など必要ありません。
紹介が済んだら帰りますので」
「そんなぁ!?」
「大丈夫ですよ。お母様。
私がいないとグリアは帰れませんので」
「何時の話をしているのだね?
もう帰還くらいなら可能だとも」
「そういえば、ハルちゃんとお姉ちゃんが協力してたんだったものね。
転移だって使えるようになってるわよね」
「転移!もしかしてグリアちゃん!やり遂げたの!?
流石私の娘よ!」
「良く言いますね。
大して研究費用も出してくれなかったではないですか」
「仕方ないでしょ。
いくらグリアちゃんの為だからってそこまで出来ないわ。
研究室を用意しただけでも相当無茶したんだから」
「流石に図々しいわね。
私と会うまで転移研究は殆ど夢物語だったじゃない」
「うるさい!
くだらない話しを続けるなら帰る!」
「ごめんって。言い過ぎたわ。
ちゃんと紹介してくれる?」
「母様、この者は私のパトロンです。
名はアルカ」
「簡潔すぎない?」
「アルカ君、この方はこの学園の理事長だ。
アリア君達の事は自分で頼みたまえ」
私のツッコミを無視して続けるグリア。
「お母様、グリアさんには大変お世話になっております。
私はアルカと申します。以後お見知りおきを」
「似合わない喋り方はやめたまえ。
そこまでする必要はない。
というか、何故母呼びなのだね!
私は君の嫁になった覚えはない!」
「あらあら。ご丁寧にどうも。
Sランク冒険者のアルカさんよね。
以前、娘を訪ねてきてそのまま拐っていった方ね。
良く覚えているわ」
あれ?お母様トゲトゲしくない?
娘に初めて出来たお友達よ?
もう少し優しくしてくれないの?
「申し訳ございません。
娘さんを何時までも連れ回していたのに、ご挨拶が遅れてしまいました。
娘さんには公私ともにお世話になっております。
是非、お母様とも仲良くさせて頂けると嬉しいです」
「やめたまえ!
君は何を言っているんだ!」
「え!?グリアちゃん遂にいい人が出来たの!?
もうこの際だから女の子だって構わないわ!
それにこの子とっても綺麗じゃない!」
「そんなわけ無いでしょう!
アルカ君!いい加減にしたまえよ!」
「冗談はこの辺にしておきましょうか。
このままではグリアちゃんが帰ってしまうわ」
「そうですね。
本日はお願いがあって参りました。
突然で申し訳ございませんが、少しばかりお時間を頂けないでしょうか。
グリアさんの事も色々話したいですし」
「良いわよ!
先ずはアルカさんの事を聞かせてもらいましょう。
そのついでにグリアちゃんの事もね。
お願いとやらはその後に聞きましょうか」
「ありがとうございます」
「私の役目は終わったな。では帰るとしよう」
「「ダメよ」」




