24-1.不自然
レーネとの婚約式典はつつがなく進行していく。
まあ進行とは言いつつ、王様の話が終わった後は様々な催し物が続いているだけだ。
国中がお祭りみたいになっていて、王城前の広場でイベントがある以外は、誰も彼もが好きに食べて飲んでの大騒ぎをしている。
差し入れたお酒も、早速人魚達に受け入れられたようだ。
今は私達も席で飲食を楽しんでいる。
私達のやるべき事は意外と少ない。
今日だけ、もう少ししたら闘技大会があり、その後にレーネが主役の儀式があるくらいだ。
それ以降は特別なイベントは予定されておらず、希望者が好きに歌や芸を披露するそうだ。
それ以外の者たちは大量に用意した食料が無くなるまで飲み食いする事になる。
人間の国では考えられない程おおらか?なイベントだ。
警備も何もなく、王様一家も国民と一緒になって楽しむ事になる。
ぶっちゃけ、姫の婚約すら国を挙げて宴会するための口実にされているようにすら思う。
それでも一応、私のことを知らしめるために闘技大会を計画したりと、人魚達なりに必要な事は考えられているようだ。
人魚達は強い力を持つ者に従うらしい。
だからか、私が国民達の前でスピーチしたりはしない。
求められているのは闘技大会での優勝だけだろう。
王様もかなりの実力者だと思う。
力の総量とかじゃなくて、気配が違う。
しかも闘技大会にも参加するそうだ。
只でさえ水中なのに、ルールのある競技では大きすぎる力を十全に発揮できない私には厄介な相手かもしれない。
『だいじょうぶ』
『ハルがいる』
『ボクもいるのです!ますたー!』
『ラピスもいるわ!あるじ!』
『…………ナノハも。ママ』
『みんなありがとうね!
けれど、今回だけは自分で頑張るわ!
娘さんを貰う大事な儀式みたいなものだからね!』
『『『『は~い』』』』
まあ、そもそも本戦はトーナメント形式だから当たらない可能性もあるのだけど。
クレア辺りは普通に勝てそうだし。
ノアちゃんはどうかしら。
戦い方と水中というフィールドが噛み合わなすぎて難しいかもしれない。
あとうちからは、アリア、ルカ、リヴィ、レーネも参加する事になった。
セレネ、ニクス、お姉ちゃん、カノンは不参加だ。
ハルちゃんは私の一部として中から観戦していてもらおう。
お姉ちゃんなら良いところまでいけそうだけど、残念ながら参加してくれなかった。
クレアはお姉ちゃんの不参加を大層残念がっていた。
どうやら、先日お姉ちゃんと模擬戦をして負けてしまったらしい。
お姉ちゃんは無効化能力を全開で発動して、クレアの神力を全て無力化した上で、素の体術だけで圧倒したそうだ。
その日帰宅すると、興奮したアリアが物凄い熱意で教えてくれた。
アリアはすっかりお姉ちゃんの格闘技術に魅了されてしまったようだ。
最近では中途半端に真似しようとして、ノアちゃんに怒られている事も多いようだ。
ノアちゃんもお姉ちゃんも言っていたが、今はまだ基礎的な体の動かし方を身に着けている最中だ。
技に拘るなどまだ早い。という事らしい。
きっとこれも、ルネルの力に頼るなという教えの延長線なのだろう。
『アルカ様。必ず勝って下さいませ』
『もちろん。勝って憂いなくレーネを貰い受けるわ』
『はい!信じております!』
『ちなみにクレアが優勝したらクレアに嫁いでしまうの?』
『意地悪言わないで下さいませ!』
『もちろん冗談よ』
『面白くありません!』
『ごめんね。大丈夫よ。絶対に勝つから』
『負けたら結婚までお預けですからね』
『あと一年半くらいあるじゃない!』
『そんな心配はいらないのでしょう?』
『もちろんよ!』
『ふふ。
勝って下されば今晩はお好きになさって構いません』
『ふっふっふ!燃えてきたわ!』
それから数時間後、遂に闘技大会本戦が始まった。
うちの家族は全員が予選を突破した。
レーネも随分と強くなったようだ。
さっきは聞かなかったけどレーネが優勝したらどうなるの?
私、レーネに貰われて人魚の国に嫁ぐの?
というか、本戦は殆ど全員うちの子だわ。
まあ、七人も参加しているんだから当然なのだけど。
私、レーネ、ノアちゃん、アリア、ルカ、リヴィ、クレア、
そこに王様を加えた計八名が本戦出場者だ。
もう少し遠慮して人数減らしておくべきだったかしら……
まあ、今更言っても仕方あるまい。
正直アリアとルカが予選を突破するとは思わなかった。
いくら訓練しているとはいえ、たった数ヶ月で人魚の兵に水中で勝つなんて流石におかしいだろう。
忖度でもあったのかしら……
『てきおうまほうのせい』
『やりすぎた』
……え?
『みずといっしょ』
『てきのこうげき』
『はじいた』
……不正じゃん!
もっと早く言ってよ!
そう言えば今濡れないVerのやつだったわね!
そんな問題になるとは思わなかったわ!
『アルカなんで』
『きづかない?』
『ごめんなさい……』
そうですね。同じもの見てたものね……
でも、予選はバトルロイヤル形式だったし……
何か娘達の可愛さに見惚れてる内に終わってたし……
どうしようかしら……
王様に言う?
適応魔法かけ直す?
でも、もう一戦目始まるわよ?
ルカとレーネがリングの中央で立ち会ってるわよ?
今手を出すの?
流石に距離があるから中断させないと無理よ?
けどレーネには使ってないから不公平よ?
今更だけど!
あ~も~
『私に任せて!』
『ラピス?どういう事?』
『良いから!あるじから出る許可を頂戴!』
『良くわからんが任せた!』
『任されたわ!』
私の中からラピスが抜けた感覚があった。
けれど、眼の前にラピスは映らない。
覚視で視た事でその理由に気づく。
どうやら、ラピスは水になったようだ。
ハルちゃんが黒い霧になるのと同じように、ラピスは水に変化できるらしい。
ところでサナは炎?
あれ?でも初めて見た時はサナも霧になってたわよ?
『こだわった』
『ハルちゃんが新しい魔法作ったの?』
『そう』
『そっか~』
ちなみにナノハは?
『…………かぜ』
風?
◯ギアなの?
もしかして、ハルちゃんみたいに私ごと変化できるの?
『できるのです』
『きょういくずみ』
流石ハルちゃんとその教え子達……
『ながしこんだ』
『苦しかったのです』
『…………きもちよかった』
……そうすか。
なんか、ごめん。
ラピスはルカの側に寄って、ハルちゃんが即興で用意した調整版適応魔法をかけ直す。
相変わらず濡れはしないらしいけど、攻撃は通すようになったそうだ。
『アルカ、ルカに何をしているんです?』
『ごめんノアちゃん……
適応魔法のかけ直しをしたいの。
ラピスが行くから受け入れてくれる?』
『ああ。やっぱりアリア達のあれはアルカの仕業だったのですね』
『わざとじゃないの……』
『でしょうね。
まあ、良いです。
アリアとリヴィにも伝えておきます。
クレアさんにはアルカから伝えて下さい』
『ありがと~』
私はノアちゃんとの念話を終わらせて、クレアにも事情を伝える。
これでラピスが間違って斬られる事はないだろう。
まあ、ハルちゃんの事も斬れないのだから心配無いかもだけど。
『ゆだんたいてき』
『ラピスまだみじゅく』
『それに』
『クレアすごい』
『すぐきれるようなる』
『……』




