23-20.我慢
ハルちゃんと話していると、レーネから念話が届いた。
私にも来て欲しいようだ。
私はレーネの部屋を出て、王の間に向かう。
いつもの様に、王様夫妻とレーネだけの……あれ?
もう一人いるっぽい?
小さな気配を感じる。
辿り着くと、笑顔のレーネが振り返って手招きしていた。
レーネの腕には赤ん坊が抱かれている。
レーネに似た可愛らしい顔立ちだ。
人魚の赤ちゃんって人間とあまり変わらないのね。
もちろん下半身は魚だけど、もっと違う姿もありえるのかと思っていた。
話を聞くと、この子はレーネの妹なのだという。
名前はセーレイン。愛称はセーレ。
セーレは私を見るなり手を伸ばしてきた。
めっちゃ可愛い。
ところでどうして二人合わせるとセレネになるの?
『アルカ様!いくら何でもセーレは早すぎます!』
『何言ってるのよ……』
『すみません。取り乱しました』
王様笑ってるわよ。
セーレまで連れて行かれたらって……あんたもか!?
連れてかないわよ!なんですぐそっちに繋げるのよ!?
その後は王様から直々に式典の流れを説明された。
闘技大会にも良ければ私の家族も参加してはどうかと言ってくれた。
ノアちゃん辺りは喜んで出るだろう。
アリアも興味あるかしら。
先に少し水の中での動き方も体感させてあげた方が良いかも?
というか、もう式典直前なのに今更増やしていいの?
そこまで厳格じゃないの?そっか……
まあ、元々数日がかりとは聞いているし。
そう言えば、エルフの宴もそんな感じだった。
メインステージみたいなのは大雑把に何やるかだけの計画はあるけど、それ以外は全部適当だ。
進行もなにもあったもんじゃない。
結局、殆どの人は数日間どんちゃん大騒ぎするだけだった。
二ヶ月近い準備期間も食材の調達の為に必要だっただけのようだ。
どうやら深海には酒が無く、豪華な食事だけで騒ぐらしい。
数日間、国中で宴会できる程の量を集めるなら納得だ。
ならばと、私は王様に酒を差し入れる事を提案する。
いきなり持ってきてもここは水中だ。
空気を扱う技術はあるけど、大量の飲み物を受け入れるには準備が必要なはずだ。
どのみち数日前に提案する事ではない。
私が試しに収納空間から一瓶差し出すと、早速試飲する王様。
王妃様と二人であっという間に一本空けてしまった。
どうやら大層気に入ったようだ。
いくらでも持ってきてくれと言われた。
早まったかしら?
飲みすぎて暴れる人が出たらどうしましょう。
酒がなくてもそういう者は出るから気にする必要はない?
そうですか。
一通りの話が終わり、私はレーネを連れて一旦自宅に転移した。
『カノン。今良いかしら』
『どうぞ~』
私はカノンに酒の差し入れをする事になった件を伝える。
その結果、明日はカノンと行動する事になった。
カノンも協力してくれるそうだ。
とりあえず今日の所は買い集めに行かない事になった。
買い出しに行くつもりで自宅の方に転移したけど、必要なくなってしまった。
私はレーネを抱き締めて別荘の自室に転移する。
別に毎回抱きしめる必要はないけど、折角だしね。
「アルカ様。まだ我慢するのでは無かったのですか?」
私に押し倒されたレーネが真っ赤な顔で見上げてくる。
「そうよ~
だから今日の所は少しだけよ~」
「本当にそれで済むのですか?」
「むりかも?」
「もう少しの辛抱でございますよ?」
「そうよね~」
「真剣に考えていますか?」
「ぐぬぬ」
私はレーネに軽くキスしてから抱き起こしてベットに腰掛ける。
「うん。我慢した!」
「もう!」
真っ赤なレーネ可愛い。
「レーネはどうする?
私は少し出かけてくるけど、訓練に戻る?
それとも一緒に出かける?」
「ご一緒します」
「即決ね」
「折角二人きりでいられるのですから」
「ごめんね。私のせいで」
「いいえ。
アルカ様は私の為に我慢してくださっているのです。
我慢が必要な程に求められる事も嬉しいのですよ」
「レーネ~」
「それでどちらに行かれるのですか?」
「ハルちゃんがダンジョンに行きたいんだって」
「そうですか……」
「ごめん!そうだよね!落ち込むよね!
レーネは私と二人でいられるから喜んでくれてたんだものね!」
「冗談でございます。
さあ、行きましょう。
お供致します!」
「レーネ!わかった!行きましょう!」
私はレーネの手を握って、ハルちゃんから指定された地点に転移した。




