23-15.吸血姫の趣味
一通り寝る支度を済ませてから私はカノンと話を始める。
「お願いしたい事は二つあってね。
まずここ最近、依頼が無くて冒険者活動が出来てないの。
ハルちゃん曰く私の力が強すぎて、普段活動している町の周辺に魔物が近づいてこないからじゃないかって話なのよ。
だから、まだ当面は依頼が無い可能性もあるわ。
それと今の所、他の地区に移ってまで冒険者を続けるつもりはないの。
だから今後の活動は、最低限地下の町の件で牽制を続けるのと、お世話になった支部への恩返しだけに絞ってしまおうと思うの」
「ともかくそれで、今までより暇になるから、カノンの側で手伝いをさせてくれないかしら。
転移も収納も側でいつでも使えるなら便利でしょ?
それに身辺警護も任せておいて!
訓練と組織活動の割合をどうするかもあるだろうから、無理にとは言わないけれど、選択肢の一つくらいに考えておいて欲しいの」
「嬉しいわ!是非そうしましょう!
それなら組織作りを始めるのも私が転移とか覚えるまで待つ必要も無いものね!
それで!もう一つは?」
「もう一つは服作りをしたいの。
その為に協力して欲しいの」
私は収納空間から昔ノアちゃんが来ていたメイド服を取り出し、カノンに手渡す。
元はノアちゃんの私物だけど、今は私の宝物だ。
なにせ、私がノアちゃんと奴隷商館で初めて出会った時に着ていたものなのだ。
最初の頃はこれで家事をしてくれていたけど、いつの間にか着てくれなくなった。
奴隷商館に入手経路を聞こうと思っていたけど、いっそのことカノンに頼んでしまうことにした。
「これと同じような物を作りたいの。
他にも私が元いた世界の服を伝えるから再現してくれる人が欲しいのよ。
どう?良い人に心当たりはある?」
「ええ。私のところで作れると思うわ。
再現の方も掛け合ってみるわね」
「ありがとう。お願いね。
必要な経費は払うから。
それと、私の元の世界の服の方は、もし売れそうなら権利とかは好きにして構わないわ」
「それは物次第だけど十分可能性はありそうね!
この世界の服とは全然違うの?」
「いえ。それ程大きな違いがあるわけじゃないわ。
けれど、そもそもの種類は豊富だし、向こうの世界だけにある職業服とかも多いの。
それに、この前着た着物とかももっと沢山種類があるのよ」
「着物!そうね!あれは良いわよね!」
『ハルがさいげん』
『みせる』
私の中から着物姿のハルちゃんが出現した。
「これはいけるわね!
他のも見せてくれる!?」
ハルちゃんは私の記憶の中から様々な服装を再現してファッションショーを始めてくれた。
しかも服装毎に成長段階も調整するという芸細仕様だ。
着物、ミニスカ浴衣、巫女服、袴ブーツ、割烹着、ゴスロリ、チャイナドレス、スチュワーデス、ナース、文字ティー、ブレザー、セーラー服、体操服、スクール水着、バニー、ボンテージ、ミニスカサンタ、プリ◯ュア、その他コスプレ衣装、大トリに仮◯ラ◯ダーオ◯ズ◯ジャ◯ルコ◯ボ。
半分以上おかしな物が混ざっていたけど、とにかく色々見せてくれた。
なんで特撮まで混ぜたの?しかも物凄い再現度だったよ?ノリノリで変身から再現してたよ?ベルトの声はどうやって再現してるの?不思議な歌はどこから?流石にメダルのヒビまで再現するのは拘り過ぎじゃない?ハルちゃん好きなの?やり遂げたって顔してたよ?
ともかく、私自身すら忘れていたものでも、記憶を掘り起こして見つけ出してくれた。
今回は全部コスプレだけだった気もするから、今度普通の服も出してもらおう。
お姉ちゃんがお洒落さんだったからストックはいっぱいあるはずだ。
私?ジャージとか?
あっ!でも、久しぶりにジャージ欲しいかも!
ハルちゃんショーにはカノンも大興奮だった。色んな意味で。
お陰でカノンも益々張り切ってくれそうだ。
後はノアちゃんにどうやってまたメイド服を着てもらうか考えるだけだ。
リヴィ十二歳Verとセレネに着て貰って眼の前で褒めまくってみれば良いのかしら。
負けず嫌いだからそのまま上手く乗せられるんじゃない?
そんなこんなで楽しんでいると、待ちきれなくなったセレネが突撃してきた。
私を押し倒すセレネを見て、カノンは即座に逃げ出した。
そのままセレネとイチャイチャしていると、途中からハルちゃんが参加し、約束通り思いっきり抱きしめる。
更に呑気に入ってきたニクスもセレネの犠牲になった。
そうして明け方まで楽しみ続けた。
翌朝、眠い目を擦りながら、予定通りノアちゃん&ハルちゃんとダンジョンにやってきた。
今日はお姉ちゃんとニクスが子供達の保護者兼教官役だ。
早めに攻略して帰る事にしよう。眠いし。
今回は効率最優先で、ノアハルコンビが探知して、探知範囲ギリギリの安全の確認できた所までの転移を繰り返す。
それでも結構な時間をかけて、ようやく最深部まで到達した。
私達は最深部の部屋の入口から中を覗き込む。
「なんか可愛い女の子が立ってるんだけど」
真っ赤な髪に真っ赤なドレスの幼女だ。既視感。
「あの子も欲しいんですか?」
『せっそうなし』
「ハルちゃんは私がそんな事考えてないの知ってるよね!?」
『かわいい』
『ほんきで』
『おもってる』
「うぐっ……」
「冗談はともかく、この後はどうしましょうか。
あれダンジョンボスですよね?
アルカに行かせると口説きそうなので私が一人で行っても良いですか?」
「しんじてよ……」
『むり』
「ひどい……」
『ノアまかせた』
「行ってきます」
ノアちゃんの姿が掻き消えた次の瞬間にはボスの首が飛んでいた。
容赦ねえ……
しかし、ボスの体と首は黒い霧に変化して再度集まる。
そこには無傷のボスが立っていた。
「あれおかしくない?
ハルちゃんはお姉ちゃんから教わったんだよね?
お姉ちゃんが関わってないのに、なんでこんな所に同じことする子がいるの?」
『……』
『なんで?』
「……困ったわね」
「ごめんなさい。あれ無理です」
いつの間にか側に戻ってきたノアちゃん。
あれからも何度か切り刻んでいたけど倒しきれなかったようだ。
ボスは最初の位置で何事も無かったかのように立っている。
「とりあえず行ってみましょうか」
『うん』
今度は私が近づいていく。
側まで来てもボスは何も反応しない。
「これハルちゃんと同じように敵意も無いんじゃない?」
『なるほど』
『そういう』
「何かわかったの?」
『たぶん』
『このダンジョン』
『ハルのさいげん』
「再現?」
『どこかの』
『タイミング』
『コアかいして』
『ハルのじょうほう』
『とられた』
『だんじょん』
『うみだされたとき』
『さいげんした』
「それで敵意無しの設定も再現されちゃったの?」
「なるほど。そういう事なのですね」
「え!?」
突然、眼の前のボスっ娘が喋りだした。
『ちのうたかい』
『さいげん』
「あなたはボクの母になるのでしょうか。
ボクはあなたを再現して生み出されたのですね?」
ボクっ娘?なんで?
『そう』
『けど』
『ママより』
『クローンちかい』
「クローン?」
『つくられた』
『おなじそんざい』
「同じ……」
「どうするハルちゃん?」
 




