23-5.触れ合い
「お姉ちゃんはハルちゃん以外の誰かと一緒に暮らしていたことはある?」
「……無いわ」
「そっか……
ごめんね。私のせいで」
「違うわ。あなたが悪いことなんて一つもないのよ」
「……ごめん」
「小春……」
「お姉ちゃん!!!」
「っはい!」
「私は今幸せだよ!
だからそれを伝えていくからね!
お姉ちゃんが私を救ったんだって自信を持てるまで!」
「……うん」
「という事で膝枕して!」
「うん……ん?」
「ハルちゃんカモン!」
『うん』
ハルちゃんは私から出てくるなり、お姉ちゃんを転移で動かして、足を伸ばすように座らせ直す。
そうして、私達はお姉ちゃんの足に頭を乗せて寝転がる。
「ついでにお姉ちゃんにも触れ合う事の良さを思い出してもらうわ。
とりあえず頭撫でて!」
「ママ」
「ごめんなさい」
「ばかっていって」
「小春……
ハル……」
「お姉ちゃん!」
「ママ!」
私達に見上げられて、恐る恐る手を伸ばすお姉ちゃん。
「「ふふ」」
「何処がついでなの?」
「私達が笑顔でいれば幸せだって伝わるでしょ?」
「なでなで」
「しあわせ」
「……ふふ。そうね」
「したくなったらいつでもキスして良いからね?」
「ハルも」
「しないわよ。調子に乗らないの」
「「え~」」
「もう……」
「お姉ちゃんはなにかして欲しいことは無い?」
「……抱き締めて良い?」
「喜んで!」
私とハルちゃんは起き上がって、お姉ちゃんに抱きつく。
「これじゃあ逆よ……」
「そのまま好きに抱き締めて良いよ?
痛いくらいにしてくれたら嬉しい」
「ハルも」
「くるしくして」
「なんでよ……」
お姉ちゃんは私達二人纏めて抱きしめて腕に力を込める。
「「しあわせ~」」
「……そうね」
「他にしたいことはある?」
「いいえ。暫くこうしていて」
「「うん!」」
それから長い事そうして抱き合っていた。
とっくに寝る時間になっていたけれど、ニクスは現れなかった。
気を使ってくれたらしい。
もしくは、消化不良のセレネにでも捕まったのかしら。
私達はそのまま三人で横になる。
全員子供モードだ。
お姉ちゃんは十六歳の頃、私は十五歳の頃、ハルちゃんは六歳くらいだ。
とはいえ、私とお姉ちゃんはその時点で頭一つ分以上の身長差があるのだけど。
私達はお姉ちゃんの腕を抱き締めて、眠くなるまで話し続けた。
少しずつ、お姉ちゃんも口調が柔らかくなっていく。
「マーキング?」
「ええ。対象に危険が及ぶとわかるようになっているの。
転移先にも指定できるから便利なのよ」
「ハルしらない」
「おしえて」
「また明日ね」
「やくそく」
「今は付けてないの?」
「ある程度の力量があればバレてしまうからね。
高ランクになる頃には外してしまったわ」
「心配じゃなかった?」
「もちろん心配したわよ。
けれど、いつまでも干渉してはいけなかったの。
本当ならそれでも遅すぎたくらいだわ。
最初に保護して最低限の知識を教えた所で終わりにするつもりだったのよ。
そっちも、小春が気付きかけるまでズルズルと続けてしまったのだけど」
「その理由は聞かないほうが良いんだよね?」
「うん。ごめんね」
「ううん。ありがとう。お姉ちゃん」
「まあ、ハルの事を考えると、結果的にはそれ以上に干渉してしまっていたのよね。
正直完全に予想外だったわ。
お陰でニクスにも殆ど見破られてしまったみたいだし」
「お姉ちゃん。ニクスの事はどう思ってる?」
「それはどういう意味で?」
「私はニクスを救い出したいの。
方舟計画は、パンドラルカはその為のものでもあるの」
「え?」
「お姉ちゃんには伝えてなかった意味もあるの。
パンドラの箱は災の箱。
開けてしまえば災厄が降りかかる。
けれど、箱の中には最後に希望が残されている。
方舟は希望の込められた箱なの。
そして、災厄を封じ込める箱でもある。
ニクスから溢れ出して抑え込めなくなってしまった時に、代わりに受け止められる箱になりたいの。
私一人ではニクスの助けになれなくても、皆で助けてあげたいの。
皆も私の意見に賛同してくれた。
パンドラルカの集める情報はニクスの目にもなるの。
お姉ちゃんはそれを知っても、協力してくれる?」
「……どうして今それを言ったの?」
「私は誰の事も恨んでないんだよって念を押したいから。
今の私は心の底からニクスの幸せを願っているの。
一度お姉ちゃんにも言ったことだけど改めて念を押すよ。
私はハルちゃんのお陰でそう思えたの。
ハルちゃんのお陰で私はニクスの悲しみに触れたの。
ハルちゃんを生み出して、私に会わせてくれたお姉ちゃんのお陰で私はニクスへの憎しみを完全に断ち切れたの。
だからありがとう。お姉ちゃん。
私の為に頑張ってくれてありがとう。お疲れ様。
あとは自分で、皆で頑張るから。
もう一人で頑張ろうとはしないでね?
そして、出来ればニクスの事も許してあげてね」
「……うん。わかった」
「ありがとう。おやすみ。お姉ちゃん」
私はお姉ちゃんの頬にキスをする。
お姉ちゃんは今度は嫌がらずに受け入れてくれた。
ハルちゃんも同じタイミングで反対側からキスしていた。
私は少しだけ体を起こして、ハルちゃんともキスを交わす。
「眼の前ではしないんじゃなかったの?」
「軽いキスくらいは見逃して。
皆ともしょっちゅうしているから隠し切れないよ」
「……もう」




