22-17.報告
ハルちゃんの夜の営み公開事件のお陰で、お姉ちゃんは少しだけ元気を取り戻した。
いや、別に映像のお陰で何かが元気になったわけじゃなくて、私を叱るために落ち込んでる場合じゃなかっただけなんだけど。
「さて、そろそろ帰りましょう。
と言いたいところだけど、せめてギルドには顔出しておかない?
エイミーとしてギルド長にくらいは謝っておきたいでしょ?」
「うぐ……」
「いい歳して怖気付いてるの?
無断欠勤したくせに」
「ニクス!いい加減にしなさい!
お姉ちゃんをイジメたら怒るって言ったわよ!」
「ごめんなさい……」
「ニクス」
「がくしゅうしない」
「おばか?」
「そうなのよ。
どうしたら直るのかしらね」
「もう相当なお歳だから……」
「カノン!?
そういうの良くないよ!」
「ニクスが言えることじゃないでしょ!
反省しなさい!」
「はい……」
「ごめんなさい。
私も言葉が過ぎたわ」
「ニクスから悪い影響は受けないでね」
「うん。気をつける」
「ともかく、いつまでも脱線している時間は無いわ。
早く済ませないとセレネの迎えに間に合わなくなっちゃうもの。
どうするのお姉ちゃん?
私が代わりに行ってこようか?」
「……行くわ」
「今後はどうするの?
まだ受付嬢は続けるの?」
「それは……」
「辞めても構わないよ?
うちの子供達の教育もお願いしたいし。
私とカノンがいればお金だって困らないし。
私としてはずっと側にいて欲しいから正直その方が嬉しいし」
「うぐ……」
「まあ、ともかくギルド長に話して許してもらってからよね。
あのギルド長だから、捜索に冒険者達を派遣したりもしていたかもよ?
前回私達が行ってから、一月近くは経っているのでしょ?
攫われたとかでもないんだから、クビになるかもよ?」
「うっ……」
「なにか適当な良いわけでも考える?」
「いえ……ちゃんと正直に話すわ」
「そっか。まあ、とにかく行こう。
どうせなら、一度謝ってから少し考える時間も貰えば良いよ。
どうせ迷惑は沢山かけたんだからもう少しだけ甘えちゃおう。
もちろんギルド長が許してくれたらだけど」
「……そうね」
「じゃあ、カノンとニクスは一度別荘に送るからね」
「わかったわ。帰って来るのを待ってるね」
「私も今回は流石に空気を読むよ。
後はアルカに任せるよ」
「ありがとう。二人とも」
私はカノンとニクスを別荘に送り届ける。
ハルちゃんはまた私の中だ。
お姉ちゃんはエイミーの姿に変身した。
私はギルド長に小型転移門を繋いで、部屋を用意してもらう。
それから、お姉ちゃんを連れて転移した。
私とお姉ちゃんはギルド長の正面に並んで座り、お姉ちゃんの口から自分の意志で失踪した事を伝えた。
ギルド長には異世界云々の話はしていないので、少しだけ内容を変えて説明した。
お姉ちゃんと私は実の姉妹であること。
お姉ちゃんは私にそれを隠していたこと。
エイミーの姿は変身魔法で作り出した仮の姿であること。
私達がお姉ちゃんの正体に気付きそうになった為に、慌てて
逃げ出したこと。
今回の件で私に全てバレてしまったこと。
「話はわかった。
いや、正直意味がわからない事ばかりだが。
まあ、無事で何よりだ。
本当に心配したんだぞ」
「すみませんでした」
「せめて一言くらいあればなぁ」
「重ね重ね、すみません……」
「ギルド長。今回の件でギルドが負担した分は私に補填させて欲しいの。捜索に冒険者を派遣したりとかもしたのでしょう?その費用とかは出させてもらえる?」
「いや。それは必要ない。
確かに捜索は出したが、この業界じゃ別に珍しいことでもないからな。
その辺りはギルドで負担するから気にするな。
言うなれば福利厚生の一環だ。
まあ、流石に本当の理由を話せば通らんけどな。
その辺りは俺の方で上手くやっておく。
それでどうするんだ?
お前はこれからもギルド職員を続けるのか?
それともアルカに付いて行くのか?
正直、続けてもらえるとありがたいがな。
何せ、お前は優秀だからな。
いないと困ることも多いんだ」
「それは……」
「まあ、すぐに答えなくてもかまわん。
たまには長めの休暇を取ると思ってゆっくりして来い。
またいつ戻ってきても良いからな
やり辛いなら、また別の姿で一からやり直しても構わんしな。
新しい身分は何とでもしてやる」
「至れり尽くせりね」
「なんせ十五年近くも真面目に仕事に取り組んできたんだ。
俺はエイミーを信頼しているからな」
「良かったね。お姉ちゃん」
「でもまさか、本当に姉だとはな。
たまにふざけてそう呼んでいた事は知っていたが」
「私も本当に驚いたわ。
まさか会えるなんて夢にも思っていなかったもの。
まあ、エイミーの事をお姉ちゃんだと思っていたのは冗談でもないし、呼び方の方は違和感とかもないんだけどさ」
「元の姿はやっぱりアルカに似ているのか?」
お姉ちゃんは変身を解除して、二十代後半くらいの姿になる。
「本当に姉妹なのか?
全然似てないぞ?」
「そうなのよ。
私はお姉ちゃんみたいになりたいってずっと思ってたのに、全然似てないんだもの。悲しいわ」
「私は両親とも似ていないので……」
「なんか隔世遺伝?なのかな。
少し前の先祖に外国の人がいたらしくて、その人の影響が強く出たみたい。
けれど、ちゃんと血の繋がった実の姉よ。
少なくとも両親はそう言っていたわ」
「えっとエイミーで良いのか?
本名も聞いたほうが良いのか?
ともかく、その姿でもこの辺りの者とあまり変わらんな。
アルカは別の国の人間だと一目でわかるが」
「お姉ちゃんの本名は深雪っていうの」
「ミユキ?あまり馴染みの無い響きだな。
ということは、アルカも違うのか?」
「うん。私は小春よ」
「コハル?
まあ、聞いといて何だが、面倒だ。
アルカとエイミーで通させてもらおう」
「ええ。それで良いわ。
とりあえず、色々ごめんね。
今日の所はお姉ちゃんも連れて帰るから。
近いうちにお姉ちゃんの覚悟が決まったら、また来るようにするからね」
「ああ。それでいい」




