3-10.転移魔法
「「アルカ!」」
私が目覚めると既に夕方だった。
どうやら魔力を使いすぎて一日寝ていたようだ。
ここは大学の保健室かな?
「ごめんね。二人共。心配かけたよね
魔力を使いすぎただけだから安心してね。もう回復したよ。」
私に抱きついて大泣きする二人を撫でながら伝える。
二人と会話ができるようになったのは、
それからさらにしばらくたった後だった。
「「もう絶対に無茶しないで!わかった!?」」
「はい。誠に申し訳ございませんでした。
二度と無茶は致しません。」
落ち着いた二人に改めて説明すると、
状況を理解した二人に叱られた。
まあ、あんなに泣かせてしまったんだ。
仕方がない。私が悪いのだ。
「グリア教授は?」
ノアちゃんが不機嫌な表情になる。
「あの人はこの部屋までアルカを運んだら
すぐに戻っていきました。」
魔法の成功に興奮していたようだったし、
結果をまとめたりいろいろ忙しいのだろう。
「そろそろ起きる頃だと思ってね。
少し話をしたいのだが良いかね?」
噂をすればなんとやらだ。
グリア教授がそんな事を言いながら現れた。
私を守る様に立ちはだかるノアちゃんとセレネ。
もう完全に警戒モードだ。
「大丈夫よ二人共。
どの道話しはしないといけないのだから。」
私の言葉に渋々引き下がる二人。
「すっかり嫌われてしまったね。ただの魔力欠乏だ。
安静にさえしていれば死にはしないよ。」
「あの本、どこから?」
「うん?ああ、あれは隣の部屋に設置していたものだよ。
まだ遠距離からの転移は魔力消費量の問題で実用化できていないのだよ。
だがこれで私の研究も認められる事だろう。そうなれば研究費用も増えるはずだ!
君には感謝してもしきれない」
まじかよ・・・
そんな短距離であの魔力消費って益々使い物にならないじゃない!
「あんなので成功したと言えるの?
私の魔力量で隣の部屋の本一冊って、
実質的に誰にも使えないわよ?
こんなざまじゃ認められなくてあたりまえね」
思わず口調が粗くなっている。
というか素が出ている。
やっぱりノアちゃんの言う通り私は余裕がなくなると
コミュ障が解除されるようだ。
今回は半分キレてるだけな気もしなくもないけど。
いかん、これは流石に八つ当たりだ。
ちょっとモルモット扱いされただけで、
転移魔法の事自体はこちらの頼みでもあるのだ。
一端、落ち着こう。
私の魔力量は膨大だ。
この世界の普通の人間とは比べ物にならない。
グリア教授は自分には魔法の才能が無いから使えないなんて
言っていたけど、こんな魔法は誰にだって使えない。
私だから辛うじて発動しただけだ。
本一冊転移させて気絶するのが成功といえば成功なのだろう。
単純に、魔力の電池みいたなものか、
複数人で一つの魔法を使うような技術があれば、
今のままでも使えないわけじゃない。
国に売り込めば目をつけられる可能性もある。
コストパフォーマンスの問題が解決するなら。
「君の言う通りだとも。ついては、
是非研究に協力してくれないかね?
君の力があれば研究は格段に進むだろう。
そうすれば効率の良い転移魔法の開発も夢ではない!」
今のところ夢にしか思えないんですけど・・・
「なにか魔力を溜め込む仕組みも考えてみたらどう?
電池みたいなやつ。」
うっかりこの世界にない言葉を使ってしまう。
「でんち?なんだねそれは!
詳しく教えてくれたまえ!
こんなところではなんだ、
早速、私の研究室に行こうではないか!」
相変わらずまくしたてるように喋る人だ。
特に興奮すると顕著だ。
こんなところとは言うが、あんたの研究室が
保健室のベットより落ち着けることはあり得ないわ!断じて!
「今日はもうダメです!
帰りますよアルカ!セレネ!」
遂に我慢できなくなったノアちゃんが割って入る。
たしかにもう良い時間だ。
明日また来ることにしよう。
正直もうあんまり来たくはないけど、
転移魔法自体は見つかったのだから。
少なくとも一般に知られている範囲では
誰にも成し遂げられなかった転移魔法の開発をやってのけたのだ。
グリア教授は確かに優秀なのだろう。
ちょっと人格面には不安が残るが、
今は手段を選んでいる場合でもない。
「明日また来るから。」
「う~む。まあ仕方がないな。
良かろう。待っているから何時でも来たまえ」
そう言ってグリア教授は去っていった。
私達もホテルに戻ろう。