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22-8.過去

 それから少しずつ、深雪お姉ちゃんは話を続けた。



「ある時、私達の世界で小春が突然姿を消してしまったの。

 私は必死に探し回ったわ。何日も。何ヶ月も。何年も。

 けれど、どうやっても見つけられなかった。

 そんな時にある人に呼び出されたの」


「その人から話を聞いて、小春を救うためにこの世界に来る事を決意した」


「私は今から約六百年前にこの世界に来たの。

 どうして六百年前だったかと言うと、小春が来た時以前にこの世界に繋がるのがその時だけだったから。

 小春が転移した時ではニクスの力が弱すぎてダメだった。

 六百年前という条件でなら過去に遡ることが出来たから。

 もう、その時点でただ異世界転移したのでは手遅れだったの。

 私達の世界での数年間で、この世界では数千年以上経過していたの。

 もうとっくに私の会いたい小春には会えなくなっていたの」


「私はまず、小春が来るまでの六百年を生き延びるための方法を探し回った。

 ハルを生み出したのもそんな時だった。

 吸血鬼なら私の事も吸血鬼化出来るんじゃないかって思ったの。

 まあ、この世界の吸血鬼にそんな力は無かったのだけど」


「私はそんな事も知らずにハルを生み出したわ。

 その少し前に、とあるドワーフに協力する代わりに、様々な魔道具を作ってもらっていたの。

 あのダンジョン制御の魔道具もその内の一つよ」


「コアの力で生み出せる最高の素質を持った吸血鬼に私は教育を施した。

 けれど、ハルは私を吸血鬼にする事はできなかった。

 だから、コアを与えて放りだしたの。

 私の目的のために必要ないからって切り捨てたの。

 ハル。ごめんなさい。

 謝って済むとは思っていないわ。

 貴方の望むようにしてください」


「また」

「ママって」

「よんでいい?」


「え?」


「それだけ」

「それでゆるす」


「ハルのママ」

「またなってくれる?」


「……ハル!ええ!もちろん!

 ごめなさい!ハル!」


「ママ」

「だいすき」


 お姉ちゃんは泣きながらハルちゃんと抱き合う。

お姉ちゃんはあんな言い方をしたけど、きっと本当はハルちゃんの事をちゃんと愛していたはずだ。

もしかしたら何かに巻き込まないためだったのかもしれない。

あんな言い方をしたという事は、何か理由があったのだとしても、今の時点では話す気がないのだろう。



「ニクスは気付かなかったの?

 さっきのお姉ちゃんの話にあった、この世界に繋がるってニクスが魔王を転移させた時の話よね」


「うん。ごめん。

 私には気づけなかった。

 それが見落としなのか、改変による影響なのかはわからないけど」


「改変って?」



「過去改変の事。

 誰かが深雪を過去のこの世界に送り込んだ。

 その時に私の空けた世界の穴を利用した。

 どうしてそんな事が可能だったのかは、私も深雪もまだアルカには説明できないけれど、ともかく方法はあるんだ」


「見落としでは無いかもしれない理由は、その改変が私の主観上では起きていなかったのかもしれないから。

 ある時突然、その過去が挟まれたのかもしれない。

 私は完全にはこの世界の存在ではないから、改変の影響を受けにくいんだ。

 それが仇になって気付けなかったのかもしれない。

 少なくとも、深雪自身はこの六百年の間、あれ以外に大きな改変を起こしていないのかもしれない」


「あのダンジョン制御の魔道具は、お姉ちゃんがいたから生まれたんじゃないの?」


「それについては説明がつくでしょ。

 あの魔道具を利用した事件は、アルカとノアが出会った頃に発生したあの氾濫事件までは存在しなかった。

 あれだけの被害規模を起こせる道具だ。

 もっと前に事件が起きていてもおかしくはないよ。

 つまりそれまで、あの魔道具はこの世界の歴史上に存在しなかったのかもしれないんだよ」


「そっか。ニクスは事件も起きていないのに一魔道具の存在までは認識できないのね」


「うん。そうだよ。

 力不足で申し訳ないけれど、今の私の認識に不自然な点は無かったんだよ。

 今この時までは」


「お姉ちゃんの存在が改変の裏付けになっているのね」


「ニクス。それ以上は止めて。

 その話はダメ。

 小春にだけは教えられないの」


「つまりそういう事なんだね」


「おそらく貴方の想像している通りよ。

 だからわかるでしょう?

 それを小春に伝える事の危険が」


「そうかな?

 もう心配はいらないと思うけど」


「お願い。ニクス。

 何かあれば貴方だって危険なのよ」


「そうだね。そうなるよね。

 まあ、自分の事はどうでも良いけどアルカを悲しませたくは無いからね。

 わかった。今は言わないよ」


「結局話してはくれないのね。

 そんな風に堂々と目の前で内緒話なんてしておいて」


「お願い。わかって小春。

 私にとっては貴方を守ることが何より大切なの」


「うん。信じてるよ。お姉ちゃん。

 なにせ、私の為に六百年も頑張ってくれたんだものね。

 意地悪言ってごめんね。

 お姉ちゃん。大好きだよ」


「小春!」


 今度は私に抱きついて泣き出すお姉ちゃん。

私は既に救われたのだろうか。

だからお姉ちゃんは姿を消そうとしたのだろうか。

それとも、まだ何かから守る必要があるのだろうか。

その為に姿を消そうとしたのだろうか。


 結局なにもわからない。

少なくとも、今回姿を消したキッカケは私達がお姉ちゃんに踏み込んだからだ。

私は子供の姿で迫って一緒に暮らそうと頼んだ。

ニクスとハルちゃんはお姉ちゃんの何かを見抜いた。

けれど結局、こうして捕まえて無理やり問い詰めた。


 もうお姉ちゃんは逃げずに側にいてくれるのだろうか。

またいつか姿を消してしまうのだろうか。


そんなの嫌だ。

絶対に手放したりするもんか!

お姉ちゃんが嫌がったって絶対に離れてたまるもんか!

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