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22-7.記憶

 私は黙して語らない深雪お姉ちゃんを連れて自宅に移動する。

エイミーは深雪お姉ちゃんだった。

とにかく場所を移してちゃんと話がしたい。


 お姉ちゃんの側では魔法どころか、神術すら発動しなかった。

そのため、転移は使わずに歩いて向かっている。

一体どうやっているのだろうか。

私の抱き寄せ魔法は何故使えるのだろう。

気になることが湧き出して止まらない。



 自宅に到着し、リビングのソファにお姉ちゃんを座らせると、ハルちゃんが私の中から飛び出してきた。

ここまで我慢してくれていたようだ。


 お姉ちゃんに抱きついたハルちゃんは大声で泣き出した。

お姉ちゃんは、そんなハルちゃんの姿に恐る恐る手を伸ばして、背中をなで始めた。


 私はカノンにこの場を任せて、キッチンに移動してお茶を入れながら、ギルド長への報告を済ませてから、ノアちゃんにも念話を繋ぐ。



『状況はわかりました。

 暫く連絡が取れない可能性があるのですね。

 私もそちらに行きましょうか?』


『ううん。大丈夫。

 もう少し落ち着くまでは人が少ないほうが良いだろうし』


『わかりました。アルカも無理しないでくださいね』


『うん。ありがとう』


 私はノアちゃんとの念話を終わらせる。

いつもの調子で話せていたつもりだったけど、ノアちゃんには気付かれてしまったのだろうか。

単に状況から推察したのかもしれないけど。


 私も正直ギリギリだ。

エイミーが行方不明と聞いた所に、深雪お姉ちゃんが現れて、普段は頼りになるハルちゃんも今は私の中に居ない。

そもそも、ハルちゃんだって私以上に衝撃を受けているだろう。

数百年前に別れた大好きなお母さんにこんな形で再開したのだ。

こんな時まで頼るなんて論外だ。


 カノンにも悪いことをしてしまった。

折角のデート気分だった所だったのに、こんな事態に巻き込んでしまった。後で余裕ができたら色々と説明しなくちゃ。



 私は全員分のお茶を並べて、お姉ちゃんに向き合う。

目を離している間に逃げ出したりはしなかったようだ。

ハルちゃんもまだお姉ちゃんに縋り付いて泣いてはいるけど、先程までのような大声ではない。少しだけ落ち着いたようだ。



「お姉ちゃん。久しぶり?で良いのかな」


「……」


「何も話せないの?

 お姉ちゃんはエイミーだったんだよね?

 私達、エイミーがいなくなったって聞いてとっても心配したんだよ?

 何も言ってくれないの?」


「……ごめんなさい」


「何について?

 黙っていなくなったこと?

 深雪お姉ちゃんだと教えてくれなかったこと?

 ハルちゃんを泣かせたこと?」


「……」


『アルカ。

 私が説明するから、私を降臨させて』


「ニクス。でも今は……」


「ハル」

「だいじょうぶ」

「ニクスよぶ」

「でしょ?」


「ハルちゃん……ありがとう」


 ハルちゃんは私の呟きで全て察したようだ。

私とハルちゃんの力でニクスを再度降臨させた。


「ありがとう。アルカ。ハル。

 私も大体のことは調べがついたよ。

 まさか、先に本人を抑えてしまうとは思っても見なかったけど」


「私だってこんな状況は想像してなかったわ」


「さて、エイミー、いや篠宮 深雪。

 私が話してしまうけど構わない?

 君が話せない理由も理解できるけれど、私が知った以上はその理由も無いようなものだ。

 殆どの事は君の口から説明しても問題ないと思うけどどうする?」


「やめて……」


「アルカには知らせたくない事?

 残念ながらその理由までは私にも調べが付かなかった。

 けれど大体の予測は立てた。

 たぶん殆ど真相に近いところまで迫れていると思うよ」


「やめて!話さないで!」


「なら君の口から話せる事だけ話すんだ。

 それならこちらは邪魔しないから。

 何も話さないのは認めないよ。

 君はアルカにとって大切な人だ。

 このまま見逃すわけにはいかないんだよ」


「……ハル。小春。ごめんね。

 …………どこから話したら良いのかしら。

 いっぱいありすぎて困ってしまうわね。

 ハル。一人にしてごめんね。

 勝手に生み出して、勝手に置いていって、一人ぼっちにしてごめんね。

 小春。正体を明かさなくてごめんなさい。

 そして、小春の記憶から家族の事を消したのは私なの。

 ごめんなさい。小春」


「ハルちゃんを生み出したって、やっぱりお姉ちゃんは何百年も生きているの?

 私の記憶を消したってどういう事?

 私はお母さんの事もお父さんの事もお姉ちゃんの事も覚えているわよ?全員顔は思い出せなかったけど」


「本当は全部消したつもりだったの。

 けれど、完全には消えなかったのね。

 それだけ小春が私達家族の事を大好きだったのね。

 なのに私は……

 本当にごめんなさい。

 それに家族の事だけじゃないわ。

 小春はこの世界で最初に旅に出た時の事は憶えてる?」


「?そんなの……あれ?」


「それも私が原因なの。

 私が小春を旅に送り出したのよ。

 小春は記憶を無くしても、私が姿を変えていても、お姉ちゃんって慕ってくれた。

 ある時、小春は些細なことで私の正体に気付きかけた。

 このままそんな生活を続けていれば、いつか絶対にバレてしまうと思ったの。

 だから、理由を植え付けて旅に出てもらったの」


「でも理由って……え!?

 小さい子と仲良くなりたいって……

 でも、私は元々……」


「だって小春の事なら何でも知っているもの。

 本人が納得できる理由なんていくらでも思いつくわ」


「なんでよりによってその理由選んだの!?」


「私の事を気にして中々旅立ちを決断してくれなかったから、少しだけ干渉してその気持を強くしたの。

 この世界には小春の好きなアニメや漫画は無いから代替手段も無いし、思っていた以上に上手くいったわ」


「それは聞きたくなかった!!」


「ごめんなさい……」


「一々落ち込まないで!

 いつものエイミーの時の感じでいいから!

 というか、数百年も生きている割には深雪お姉ちゃんの時から変わらなすぎでしょ!?」


「そうかしら?結構変わっていると思うのだけど」


「そうね。もっと私の事大好きって態度を出していたわね」


「そうではなくて……」


「なんだったら、よく暴走していたものね。

 私が成長してしまったからかしら。

 この前子供モードで会った時に中々離してくれなかったのも、深雪お姉ちゃんだったからと思えば大人しいくらいだったわね」


「何を言っているの?」


 私は子供モードに変身して、お姉ちゃんの向かい側から、横に移動する。

お姉ちゃんにもたれ掛かりながら、話を再開する。



「それで?

 後は何を話してくれるの?

 この程度じゃまだ逃さないからね?

 いえ。違うわ。もう絶対に逃さないからね。

 このまま一緒に暮らすわ。

 そのつもりで全て話してもらうからね」

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