22-6.緊急事態
あれから数週間が経過した。
カノンはその間、休みなく城に通い続けた。
週休制度とか無いのかしら。
どうやら城の仕事だけではなく、個人的な商人活動の方も取り纏めて代役を用意していたようだ。
私達と自由にやるためというのもあるけれど、降嫁した影響もあるのだろう。
流石にあの国で大っぴらに商人活動を続けるのはやり辛いだろう。
ともかくこの数週間、カノンは忙しく働き続けていたため、まだ指輪製作の依頼にすら行けていなかった。
今日は久々に休みを取って、一緒に買い物に行くことにしたのだ。
私はカノンを連れて自宅に転移する。
「まずはドワーフのへパス爺さんの店に行きましょう」
「ドワーフって初めてお会いするわ」
「そういえば、なんでドワーフの事知っているの?
この世界の人達大体そうだけど、ドワーフなんて身近に居ないのに、爺さんの事初めて見ても聞いても大して驚かないのよね」
「有名なおとぎ話があるからじゃない?
七人のドワーフが森の館で眠る事になる美女と暮らす話。
アルカは聞いたこと無い?」
何だか聞き覚えがあるわよ?
白雪姫なの?
それにしてはなんだか細部が違うけど。
ドワーフじゃなくて小人じゃなかった?
森で暮らすのは同じだけど館なんて出てきたかしら。
『ハルのこと?』
『確かに森の館で眠る美女と言ったらハルちゃんの事よね』
『ふへ』
美女って言われたのが嬉しかったの?
ハルちゃん可愛い。
まさか深雪お姉ちゃんなの?
ハルちゃんとドワーフの事を伝えようとしたとか?
深雪お姉ちゃんは名前繋がりなのか、白雪姫の話を気に入っていた。
私にもよく語り聞かせてくれた覚えがある。
『ハルもきいた』
『カノンのと』
『すこしちがうけど』
『ハルちゃんってお姉ちゃんと生活していた時から寝坊助さんだったの?』
『うん』
ハルちゃんは私の中でも良く寝ているようだし。
寂しさを紛らわせるだけじゃなくて、元々寝るのも好きなのだろう。
『お姉ちゃんにまた会いたいな。
やっぱり、元の世界に行く方法も考えてみようかしら。
けど、戻ってもお姉ちゃんは居ないのかしら』
『わからない』
『アルカのせかい』
『むずかしい』
『はざまのむこう』
『みちとどかない』
『どこにでるかも』
『わからない』
『どういう事?』
『うむむ』
『せつめい』
『むずかし』
『がんばって』
『かんがえとく』
『ありがとう!ハルちゃん!』
『アルカよろこぶ』
『ハルうれし』
『ハルちゃんは可愛いなぁ!もう!』
『ふへ』
もし仮に、この話が深雪お姉ちゃんの広めたものなら、お姉ちゃんはハルちゃんと別れた後も生きていた事になる。
それにドワーフを絡めたと言う事は、爺さんと同じように、ドワーフを忘れさせたく無かったのかもしれない。
なら、滅びたあの国とも親交があったのだろうか。
ついでに爺さんにも聞いてみる事にしよう。
私はカノンと共に、爺さんの店に辿り着いた。
扉を開けて爺さんに声をかけようとしたところで、爺さんから話しかけてきた。
「待っとったぞ。
今直ぐギルドに行って来い。
先日、ギルド長が慌てて伝言を寄越してきおった」
「緊急依頼でもあったの?」
「儂は知らん。
とにかくアルカが来たら直ぐに来るように伝えてくれとだけ言っておった」
「わかったわ。行ってくる。
また後で来るから」
「おう」
「カノンも悪いけど緊急事態みたいなの」
「私の事は気にしないで。
急いで行きましょう」
「ありがとう」
私は直ぐに店を出て、ギルドに向かう。
道中でギルド長に小型転移門を繋ぐ。
「アルカ!良かった!連絡を待ってたぞ
エイミーが失踪した!お前なら探せるだろ!?」
「は!?一体どういう事なの!?」
「わからん。
先日アルカ達と会った翌日から、突然無断欠勤していたんだ。
それで念の為自宅にも様子を見に行ったんだが、どこにも居ない。置き手紙も伝言も無かった」
「わかった。こっちでも探してみる」
「頼んだぞ!」
私はエイミーに向かって小型転移門を繋ごうとする。
しかし、魔法は発動しなかった。
一気に背筋が冷えていく。
まさか!まさか!まさか!
転移門が繋がらないという事は、もう相手が存在しないからなんじゃ!
『ちがう』
『これなにか』
『ふせがれた』
『エイミーか』
『ほかのだれか』
『わからないけど』
『たぶんいま』
『エイミーのまわり』
『まほうはつどう』
『しない』
どういう事!?
エイミー自身がなにかしているの!?
それとも、誰かに捕まってるの!?
『とにかくいきてる』
『かのうせいたかい』
『そうね……』
『おちついて』
『ほかのほうほう』
『ためしてみる』
『ええ』
行き先指定自体はできている。
直接転移して乗り込めばいけるかしら……
いえ、むしろそれより!
私はエイミーに向かって抱き寄せる魔法を使った。
この魔法には、相手の状態を無力化してから転移させる効果がある。
無力化自体出来ない可能性もあったけど、どうやら上手くいったようだ。
私の腕の中には一人の女性が現れていた。
「お姉ちゃん?
なんで?私、今エイミーを呼び寄せたはずなのに。
なんで深雪お姉ちゃんがここにいるの?」




