22-4.曖昧
「カノンはこれからどうするの?
城は出る事になったけど、流石に今直ぐにってわけでもないのでしょう?」
「ええ。私は城でも仕事をしていたから引き継ぎも必要なの。少なくとも向こう一ヶ月位は通わないとだわ」
「毎日送り届けてあげるね」
「うん。お願いね。
私の部屋もまだそのままだから」
「引っ越しも手伝ってあげるから」
「収納魔法って便利よね。
私も使えるようにならないかしら」
「自力で使うのはちょっと難しいかも。
私はインチキして使っているだけで、本当はとっても難しい魔法なの。
ハルちゃん以外に私と同等に扱っている人を見たことがないくらいよ。
けれど、例外はあるわ。
グリアが誰でも扱える仕組みを編み出したの。
今度詳しく聞いてみると良いわ」
「それは凄いわね!
グリアさんには好きなように研究してほしいってことだったけど、それ程の技術を持っているのなら納得だわ!」
「まあ、うん。それもあるんだけどね。
グリアにはいっぱいお世話になっているから恩を返したいのもあるし、出来れば身近な所に居て欲しいっていうのもあるのよ」
「グリアさんも口説くの?」
「いいえ。そんな事しないわよ。
グリアは、クレアもだけど、二人は私の友人なの。
お互いにそんな感情は持っていないわ」
「そうは言っても私とはたった数時間で結ばれたじゃない。
同じように急激な関係の変化が起こることもありえるんじゃないの?」
「流石にないと思うんだけど」
「まあ、良いわ。別に積極的に増やして欲しいわけじゃないもの。
それより、アルカはどうして私を好きになってくれたの?」
「改めて聞かれしまうと難しいわね。
最初にカノンを見かけた時は、この子隠してるけど絶対にとんでもない美少女だわ!って思ったの。
アリアとルカの事を話す様子も好感が持てたし、それで思わず呼び止めてしまったんじゃないかしら
その後は、アリアとルカと最初に念話した時に、涙を浮かべて笑っていたのが印象的だったの。
それを見て、この子絶対良い子だって思ったのよ」
「恥ずかしいわ……」
「照れている姿も最高ね。
やっぱキスして良い?」
「ダメよ!恥ずかしくて思い出せなくなってしまうわ!」
「なるほど。何度も思い返せるシチュエーションがお望みなのね。参考にしておくわ」
「そういうの言わなくていいから!!」
「ごめんごめん。
続きはもう止めておく?」
「……聞かせて」
「わかったわ。
それでえっと、ニクスのお陰でカノンも私達の計画に巻き込むことになって、色々話をしたのよね。
その後は一週間程間をおいて準備を進めたわね。
その間も何度もカノンの事を思い出していたわ。
それで、当日の朝早くに堪えきれなくて連絡したのよ」
「あの時は驚いたわ。
今日はやっとアルカと会えるんだって思っていた所にアルカの声が聞こえたんだもの。
タイミングが良すぎて覗いていたんじゃないかと思ってしまったほどよ」
「そういう使い方はしていないから安心して。
まあ、過去にやったことが無いわけじゃないけれど」
「誰に使ったの?」
「セレネよ。最初に分かれて暮らす事になった時に我慢できなくてね。
殆ど毎日こっそりと覗いていたのだけど、セレネは最初の方から気付いていたの。
けれど、セレネはむしろ覗いてくれなんて言うのよ。
私のために頑張るから見ててくれなんて言ってくれてね」
「何だかモヤモヤしてしまうわ。
自分で聞いておいてなんだけど、アルカもセレネの事が大好きなんだって口調でわかってしまうもの」
「これからはカノンにも大好きって気持ちを沢山向けていくわ」
「じゃあ続きを話してくれる?」
「うん!
とはいえ、そこからはカノンの思惑通りだったのではないの?
入城許可の事と言い、あの話し合いの席と言い、もっと前から準備していたのでしょう?」
「ええ。まあそうね。
先週、城に帰った時点から計画はしていたわ。
それに、実をいうとね。
私がアルカと出会ったのも完全な偶然ではないの」
「え!?」
「突然いなくなってしまったアリア達の事が知りたくて、けれどお祖父様も宰相も何も教えてはくれなかったの。
城のメイド達からあの日アルカが来ていたことを聞いて、唯一の目撃情報があったあの店に通っていたのよ。
あの時は偶然声が聞こえてしまったなんて言ったけど、実はアルカだと殆ど知っていて声をかけたの。
それまで見たことはなかったけれど、アルカの特徴はわかりやすいからね」
「そういえば、私ってこのあたりでは見ない顔立ちだものね」
「そうね。正直驚いたわ。
聞いていた以上に綺麗な人だったのだもの」
「そんな事無いわよ。カノンの方がずっと綺麗で可愛いじゃない。やっぱりキスしたいわ。カノンの全てを私のものにしてしまいたい」
「もう!」
真っ赤になって私の胸に顔を埋めるカノン。
「歯の浮くような言葉はもう少し抑えて!
もっと手加減してってば!」
「カノンなら慣れているんじゃないの?
沢山言われてきたでしょ?」
「そう見られないように隠していたんじゃない」
「なるほど」
「それに、お世辞で言われるのとアルカに言われるのじゃ全然違うものだわ!
こんなにドキドキするだなんて知らなかった」
「ふふ。カノン可愛い」
私の胸に顔を埋めて隠し、思いっきり抱きつくカノン。
「後の流れはカノンにも殆ど言ってしまったと思うけど、あの部屋とカノンの綺麗さに驚いて、益々気になって。
カノンがいっぱい頑張ってきたのを見せてもらって、一生懸命に私に良いところを見せようとしている所が可愛くて。
正直、あの話し合いの途中までは覚悟が決まっていたわけでもないのだけど、なんだかいつの間にかカノンを貰う気になっていたわ」
「肝心なところが曖昧じゃない!
まあ、自分でもかなり強引に既成事実化しようとしたのは自覚しているけれど。
でも、そうやって流されやすいから九人も囲い込んでいるのね!」
「あと一人で区切りが良さそうね」
「ダメよ!阻止してみせるわ!」
「ノアちゃん達が何度も失敗してきた事だけど、カノンにできるかしら?」
「何で他人事なのよ!?
開き直りすぎでしょ!!」
「ごめんなさい……」
「まあ、おかげで私も受け入れて貰えたのだけれど」
「正直自分でも調子に乗りすぎだとは思っているわ。
ノアちゃんとセレネに指輪を贈って、二人だけの為に生きると誓ってから、まだ半年も経っていないのだもの。
まあ、色々あって私の体感時間だけ数年経過しているのだけど」
「どういう事?」
「その辺は少しだけ刺激が強いから追々話すわ」
「そう。わかったわ。
正直、今日だけでも色々と詰め込みすぎているものね。
アルカの判断に任せるわ」
「ありがとう。
他に聞きたいことはある?」
「じゃあ、あの首輪について教えて?
あれにはなにか意味を込めているの?
全員が付けているみたいだけど。
みんな別に奴隷ではないのよね?
アルカの所有物って証なの?」
「元々は勘違いだったの。
私が元々いた国では奴隷制度が無かったから、首輪ではなく、チョーカーって呼ばれる装身具の一種だったの。
それを偶々店で見つけてノアちゃんとリヴィに贈ったの。
そうしたら次はセレネが欲しがって、それを見たルカも欲しがってって感じで全員に行き渡ったのよ。
カノンも欲しいのなら贈らせてもらうけど」
「欲しい。
けど、あまり付けられないわね。
暫くは城通いだし、それ以降も組織運営の為に動き回ることになるだろうし。
この家族では違うのでしょうけど、外では奴隷の証だもの。
付けていては舐められてしまうわ。
場に相応しい姿で行かなければ誰も話なんて聞いてくれないしね。
この家にいる間だけ着けようかしら。
けれど、あまり付け外しはしたくないわね。
折角アルカの付けてくれるものなのに」
「なら魔法を教えてあげる。
とはいえ、まだ私には使えないのだけど。
今日の話し合いの時だけ私の指輪消えていたでしょう?
あれは外していたのではなくて、ハルちゃんの魔法で消していたのよ。
本来は変身魔法なんだけどね。
私は子供になるくらいしか出来ないけれど、ハルちゃんは細かく制御できるから変装だけとか、指輪だけ隠したりとかもできるのよ。
カノンにもいつか不老魔術を使って成長を止めさせてもらうから、表に出ることになるカノンには変身魔術の習得は必須になるの」
「是非お願いするわ!
なんて素敵な魔術なの!
成長停止に成長段階を調整できる変身魔術ですって!
そんな素敵な組み合わせ誰が思いついたの!?
理想のアルカも永遠に楽しめるのね!
ところで私にはいつかけるの?
今直ぐかけてみる?」
「カノンはもう少し成長してからの方が良いんじゃない?
完全に成長が止まるまではそのままにしておいた方が、都合がいいと思うわ。
変身魔法で姿を変えるにしても、自分のイメージできる姿が多いに越したことはないのだし。
けれど、最終的にはあなた自身の判断に任せる。
他の子達とは違ってもう成人しているのだから、カノンの判断は信頼するわ」
「うん。じゃあ少し考えてみる!」




