21-25.出張家族会議
「お父様、まずはご紹介を。
この方がアルカ様です。
Sランク冒険者であり、この国の英雄です」
カノンの紹介で私とカノンのお父様はお互いに挨拶を交わす。
そこで衝撃の事実が判明する。
何と、カノンのお父様はこの国の皇太子だった。
しかもカノンはその長女だった。
いや、それは無茶でしょ。
いくらお母様の身分が低いからって、皇太子、つまり継承権第一位であり、次期王様の長女が国を捨てて出て行きますなんて通るわけがない。
只でさえカノンの叔母であり、アリア達の母親であるお姫様が過去に駆け落ちという形で出奔しているのに、カノンまで冒険者に惚れて国を飛び出しましたなんて、外聞も最悪だ。認められるわけが無い。
「それで例の件と、彼女はどういう関係があるんだい?
既に何度も伝えたはずだが、カノンの出奔は認められないよ?
カノンがこれまでどれだけ頑張ってきたのかも知っているし、カノンがどんな気持ちで頑張ってきたのかもわかっている。
けれど、それでもだ。
カノンには生まれの不利を覆すだけの実力がある。
周囲の者も何れは認めてくれる。
この国にはカノンが必要だ」
お父様は猛反対しているようだ。
王様とお母様はどう考えているのだろうか。
「もう一つアルカ様についてご紹介したい事がございます。
私はアルカ様をお慕い申しております
どうかこの方との関係を認めて頂きたいのです」
「……は!?」
意味がわからないと、唖然とするお義父様。
何故かニヤリとする王様。
頭を抱える宰相さん。
無表情を貫くお義母様
お義父様が復活する前に畳み掛けるカノン。
「お父様はお母様との愛を貫き通されました。
その過程には数え切れない程の障害が立ち塞がったはずです。
ですが、例えどの様な状況でも諦めなかったはずです。
私も同じ気持ちなのです。
アルカ様との愛を貫くために、どの様な障害も越えていく所存です。
お父様の立場上、祝福するのが難しい事は承知しております。
なれば、せめて皇太子としての立場ではなく、お父様として娘のこの想いを認めては頂けないでしょうか。
勝手な事を申し上げている事は承知しております。
ここまで育てて頂いた御恩に不義理を働く行為である事もわかっております。
ですがそれでも、私は姫としての立場を捨てでもこの想いを貫き通したいのです。
お父様ならば私の気持ちを良くおわかりになって頂けると信じております」
「……」
エグい……
お義父様何も言い返せなくなちゃった。
え?まさかさっきまでの私に対する態度は演技で、だしに使われたわけじゃないよね?
いや、それはないか。
本当にそのつもりなら先にそう言っておくだろう。
この土壇場で私がカノンを疑って裏切れば意味がなくなってしまう。
なら、先に演技だと伝えておいて協力を仰いだほうがリスクは少ないはずだ。
静止を続けるお義父様に代わって、宰相さんが口を開く。
「口を挟むご無礼をお許し下さい。
ですが言わせて頂きます。
アルカ殿。これは一体どういうことですかな?
カノン様はこの国にとって無くてはならない御方なのです。
アリア様達の件だけに飽き足らず、カノン様にまでこの様な真似をするなど、事の重大さを理解しておいでですか?
この国と敵対するおつもりなのですか?」
「宰相。言葉が過ぎますよ。
この方は私がお連れしたのです。
話があるのならば私に仰って下さいませ。
そもそも、この国単独でこの方に勝てる等と思い上がらないことです。
敵対などすれば滅びるのは我々の方なのですよ?」
「カノン様!貴方様こそ言葉が過ぎます!
それは我々への脅しと取られてもおかしくないのですよ!」
「そうですね。申し訳ございません。
その様な意図はございません。
ですがどうか、この方を愚弄するような発言はお止め下さい。
全ての責は私にあります。
この方は本来この国とは関係の無い御方なのです。
それを無理にとお連れしたのは私なのです」
「ですが!」
「宰相。もう下がってくれ。
不甲斐ない姿を見せて済まなかった。
カノン。その気持に嘘偽りはないのかい?」
「誓って偽りなどございません。
私はアルカ様を心の底からお慕い申しております」
「そうか……」
再び考え込むお義父様。
「アルカ殿も我が娘を真に愛していると誓えますか?」
「誓います。
どうかカノンさんとの関係を認めて頂けないでしょうか」
「……どう思う?」
メイドさんに振り向いて質問するお義父様。
何も言わずに頷いて返すお義母様。
「そうか……」
またも考え込むお義父様。
「アリアとルカは元気にしてるかね?」
ここでようやく口を開いた王様。
「はい。日々笑顔で過ごしてくれていると自信を持ってお伝えできます」
「例の件は考えてくれたのかね?」
……性格悪いわね!
このタイミングで刺してくるの!?
もしかして王様面白がってない?
さっきの意味深な笑みはなんだったの?
けれど、ここで嘘をつくのは悪手だ。
アリア達をこの国から完全に切り離すならともかく、里帰りを憂いなくさせてあげるためには、ここで嘘をつくのはダメだ。
素直に答えるしかあるまい……
「アリアとルカとは、先日婚約を交わしました。
ご報告が遅くなり申し訳ございません」
再び表情が固まるお義父様。
吹き出しそうになる王様。
憤怒の表情を浮かべる宰相さん。
相変わらず無表情を貫くメイドさん。
やっぱりあの王様楽しんでるわね!
息子一家の一大事に何やってんのあの爺さん!
前回のアリア達の時のアドリブと言い、いくら何でも悪ノリしすぎじゃない?
「当然、この件は私も承知しております。
その上で私は想いを告げたのです。
どうか認めて頂けないでしょうか」
しれっとした態度で私に続くカノン。
流石にこの流れは無理がない?




