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21-23.デートの目的

 私がカノンの元に転移すると、そこはカノンの私室らしき部屋だった。

多分部屋の作り的に王城内なのは間違いない。

出禁になってるはずなので、直ぐに退散する必要がありそうだ。


 部屋の中はアリアの部屋と違い、あまり華美な家具等は置かれていなかった。

お姫様の私室というより、執務室みたいに見える。

部屋の一角には書類の積まれた机が置かれており、他にある家具は本棚とベットくらいだ。

普段から寝て仕事しての繰り返しじゃないかと思える程、この部屋には少女らしさがない。



「驚かせてしまったかしら?」


「ええ。この部屋もだけど、それ以上にカノンに驚いたわ。

 やっぱり、とんでもない美人さんだったわね」


「そう?ありがとう。

 けれど、アルカは言うほど驚いている様には見えないわ。

 もしかしてバレてたの?」


「化粧のこと?

 それなら気付いてたけど、想像以上の可愛いさに驚いたのは事実よ。

 今日はしてなくて良いの?」


「ええ。折角のデートですもの。

 それに使えるものは使わなくちゃ」


「何でそこまで?

 この前はそんな素振り無かったじゃない」


「私一目惚れしてしまったの」


「え?」


「アルカの子供姿が私の好みなのよ」


『アルカのどうるい』


「あら?ハルちゃんは一緒なのね?

 一人で来て欲しいと頼んだのに。酷いわ」


「ハルちゃんは私の一部だから。

 ちなみに、ニクスも見ているわよ。

 今は別のところにいるから、カノンと会話は無理だけど」


「なんだか羨ましいわ。

 そうやって常に一緒にいられるのね」


「ともかく、今日はカノンが私にアタックしてくれるという事なのね?」


「ええ。

 折角ならまた子供の姿になってくれても良いのよ?」


「今の私には興味がないの?」


「そんな事は無いわ。

 この一週間、いっぱい考えてきたのだもの。

 今はどっちのアルカにも夢中よ?」


『ちょろいんず』


「他のメンバーはハルちゃん、セレネ、ニクス、レーネあたりかしら」


『私も含めるの?』


『あら?ニクスおはよう。

 今は見ていたのね』


『デートが気になってね!』


『そう怒らないで。今度行く約束しているじゃない』


『その約束をほっぽり出して、他の女の子とデートしている現状については、どのようにお考えでしょうか?』


『悪かったわニクス。そうカリカリしないで。

 今日は突発的なものだったのだもの仕方ないじゃない』


『別に怒ってなんか無いよ!』


『アルカ』

『ニクスはむし』

『カノンほうち』

『だめ』


『そうだね!アルカはデート楽しんできて!

 私はアルカの為に頑張って調査を続けるから!』


 ニクスの気配が遠ざかる。

今は何を言ってもダメそうだ。

後でどうにかして仲直りしよう。



「ニクスとの話し合いは終わったかしら?」


「ごめんね。ちょっと機嫌をそこねちゃって。

 それにしても良くわかったわね」


「だってハルちゃんなら私にも聞こえるように喋ってくれるのでしょう?

 アルカが変な所で黙るのだもの。ならニクスと話していると思うわよ。

 さっき"私は"ニクスと会話できないって言っていたのだし」


「それもそうね。

 待たせて悪かったわ。

 仕切り直しましょう。

 さあ、今日は何をするの?

 一応言っておくけど、今の私はこのお城には立入禁止なの。

 出来れば外にいきましょう」


「いえ、それについては少しだけ違うわ。

 後で詳しく説明するけれど、今日だけはアルカの入城許可を貰っているの。

 でもその話は置いておいて、先にデートに行きましょう。今回は私に任せておいてね」


 私はカノンに手を引かれて部屋を出る。

そのまま誰ともすれ違うことも無く城門近くまで辿り着く。


 城門を守る門番に呼び止められる事も無く、脇を通り抜けて町に繰り出す。



「驚いた?」


「ええ。お姫様なのに良いの?」


「ふふ。私はちゃんと許可を貰っているもの。

 門以外から出ていってしまう方が問題だわ」


「誰かそんな人がいるみたいな口ぶりね」


「昔は少しだけやんちゃしていたの」


「それを繰り返していたから門から出ることを条件に見逃されているの?」


「ふふ。さてどうでしょう」


「とんだお転婆姫様ね。

 うちのレーネみたいだわ」


「むう!デートの最中に婚約者の話をするなんて!

 って言いたいところだけど、アルカのそういう所は受け入れないとやっていけないものね。

 なにせ、既に八人も囲っているのだし。

 だから、敢えて聞いてあげるわ!

 レーネはどんな事をしていたの?

 私にもアルカの家族の事を教えてくれる?

 アルカに関わる全てを知りたいわ」


「レーネと初めて会った時にね、」


 私はカノンの求めるままに家族の話しをしていく。

カノンは会話を続けるのがとても上手い。

私に話をさせるように仕向けて、どんどん場を盛り上げていく。

乗せられた私は良い気分になって益々口が軽くなっていく。


 途中で何度かハルちゃんに止められたりもしながら、会話を続けつつ、カノンの持つ店を次々に紹介されていく。

カノンは本気で自分を売り込むつもりのようだ。

持てる全ての手札を使っているようにすら見える。

まあ、わざとそう思わせているだけかもしれないけれど。


 カノンはレストラン以外にも様々な分野に手を出していた。

商会も各種専門店も一通り揃っていそうな程だ。

正直、ここまでとは思ってもみなかった。


 いくらお姫様とは言え、十五歳でどうやってここまで築き上げたのだろうか。

あの私室を見れば、何となく生活環境が想像できるような気はするけれど。


 本当のカノンは普段の姿から受ける印象とは全然違うのかもしれない。

表では明るく楽しく振る舞いながら、裏では必死に努力を続けてきたのかもしれない。


 何だか私の周りは皆そんな子ばかりだ。

自分の幼稚さが恥ずかしくなってくる。


 ノアちゃんは幼い頃から必死に努力して生き延びてきた。

今も家事も訓練も手を抜かない。


 セレネは私の為だけに数年で教会を乗っ取ってみせた。

私を愛する気持ちは誰より強いと信じられるほど想ってくれている。


 ニクスはたった一人で何千年も世界を守り続けてきた。

その間起きた悲しい出来事を全て忘れずに抱え続けている。


 レーネは一月程度で一から歩いてみせた。

普段はあまり私と会えなくとも文句一つ言わずに待っていてくれる。


 アリアとルカはたった二人で互いを守り続けてきた。

二人の境遇を考えれば信じられない程の素直で綺麗な心を維持している。


 リヴィは無邪気で真っ直ぐだ。

誰よりも幼いのに、聡明で気遣いまでできる良い子だ。


 ハルちゃんはたった一人で母との思い出の魔法を鍛え続けてきた。

どれだけ寂しくて怖くても誰かを巻き込むこともなく、孤独に耐えてきた。



『アルカも』

『いっぱいがんばった』


『ひとりで』

『ほうりだされて』

『それでも』

『いっぱいたすけて』


『わたしたち』

『わらえてる』

『アルカのおかげ』


『うん。ありがとう。ハルちゃん』


 きっと、私がカノンを少ない時間で気に入ったのはそんなところがあるからだ。

カノンは私が大好きな家族と良く似ているのだ。



 カノンは城の前まで戻ってきたところで、私を振り返る。



「アルカ!今日は付き合ってくれてありがとう!

 いっぱい私を知ってもらえて嬉しかったわ!

 アルカは何処が気に入ってくれた?

 少しでも私の事が気になってくれてたらもっと嬉しいわ!」


「私はカノンの部屋が好きね。

 カノンが頑張ってきたんだなって一番よく分かるもの」


「……」


「どうしてカノンがそこまで頑張ってきたのか、いつか教えてほしいな。

 もしかしたら聞くべきじゃないのかもしれないけれど、私がカノンの事で一番気になったのはそんな所かな。

 だから、もっと仲良くなりましょう。

 そうしてもっとカノンの事を教えてくれる?」


「うん!」


私は飛びついてきたカノンを受け止めて抱きしめる。


「嬉しいわ!アルカ!

 今のはすっごく嬉しかったわ!

 益々好きになっちゃったじゃない!

 絶対に責任取ってもらうからね!」


「そんな事言ったらカノンの事貰っちゃうわよ」


「その為にも今から話して欲しい人がいるの!

 準備はできているわ!行きましょう!」


「え?」


 私の手を引いて、カノンは城内に向かって駆け出した。

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