21-19.叔母と姪
「悪いけど、私は何も知らないんだ。
少なくとも、私が異世界から招いた人の中に彼女はいなかった」
「そうよね。ごめんなさい。
ニクスを疑うつもりはないわ。
どう考えても時系列がおかしいものね」
「少なくとも、私の記憶にお姉ちゃんが行方不明になったなんて出来事は無い。
いくら向こうの世界と時間の進みが違っても、こっちの世界で数百年は昔の話しだもの。向こうの世界でも数日くらいは経っているのでしょう?
私の召喚とタイムラグがあったって、流石に変よね」
「ハルの記憶を覗いて顔も見ていたけど、アルカの姉だとは想像もしてなかったよ」
「それは仕方が無いでしょう。
本当にアルカとは全然似ていませんから。
ともかく、今ハルが見せてくれた二人の姿を見比べた限り、アルカのお姉さんとハルのお母さんが別人という事はなさそうに感じます」
「そうすると、ハルちゃんの名前の由来って……」
「そう」
「たぶんちがう」
「はりつく」
「じゃない」
「アルカの」
「ほんとうのなまえから」
「つけてくれた」
「アルカの本当の名前?」
「元の世界での名前って事ですか?
結局教えてもらっていませんね」
「うん。まあ何となくね。
口にすると未練を感じてしまいそうだったから。
けど、もう大丈夫。
皆に呼んでもらったアルカって名前も大事なものだから。
私の前の世界での名前は小春。篠宮 小春っていうの」
「こはる……何だか可愛らしい響きですね」
「ハルの名前はこはるから取ったって事なのね」
「うん。お姉ちゃん。深雪お姉ちゃんが本当にハルちゃんのお母さんなら、それが本当の理由だと思う」
「みゆき?さんはどうなったのでしょうか。
ハルのお母さんとなった時点で、アルカが最後に見た時から十年以上は経っていそうです」
「まあ、普通に考えたらとっくに・・・
もしかしたら元の世界にでも帰ったのかな」
「アルカ」
「ごめんなさい」
「ハルおぼえてない」
「ママさいご」
「きおくない」
「じぶんのきおく」
「たどれない」
「話してくれてありがとう。ハルちゃん。
けれど、ずっと昔の事だもの仕方がないわ」
「ちがう」
「そこだけない」
「たぶん」
「まほうでけした」
「ハルちゃんが自分で?」
「わからない」
「たぶんちがう」
「きがする」
「無理はしないでね。
誰かがそこまでしたのなら、きっと思い出さないほうが良いのよ。
深雪お姉ちゃんなら、きっと必要だからしたんだと思う。
ハルちゃんのお母さんは優しかったでしょ?」
「うん」
「すっごくやさし」
「だった」
「ならそっとしておきましょう。
どの道、今思い出してもあまり意味は無いもの。
それよりも、ハルちゃんは私の姪みたいなものなのね。
やっぱり出会ったのは運命だったんだわ!
それを知れてとっても嬉しいわ!」
「ハルもうれし」
「神ニクス。アルカ君はああ言っているが、この件には大きな問題がある。
あなたの意図しない異世界転移が発生するのはあり得ることなのかね?」
「……無いよ。あり得ない。
世界の仕組みの問題で不可能だ。
そもそも、私ですら簡単にできることではないんだよ。
特定の姉妹を呼び出すことも容易では無いし、
何より、アルカの言う通り、時系列が不自然だ。
少なくとも、私がアルカ以前に最後に呼び寄せたのは六百年前だ。それ以来一度も道は開いていないはずだ」
「ならばあなた以外の存在が関与している事を疑わねばなるまい。それも、あなた以上に神としての力を持つ存在だ」
「……これについては私も詳しく調べてみるよ」
「それが良いだろうね。
何らかの脅威となり得るのであれば備えが必要だ」
「次から次へと脅威だけは増えていくわね。
一向に減る気配は無いのに」
「幸い、この件はまだ脅威と決まったわけではありません」
「ところで、何でハルの名前に違う理由をつけたのかしら。
数百年前の人がアルカにバレないようにでもしたの?
何のために?」
「いずれ、アルカ君が転移してくる事を知っていた?」
「神だってそんな先までは……
未来から来たから?」
「そんな事が可能なのかね?」
「……いや、そんなわけが……でも……彼女の……」
「ニクスが考え込んでしまいました」
「相変わらず、考え込むと独り言多いわね」
「とりあえず動きましょう。
色々気になりますが、それはそれです。
各自やるべきことをやりましょう」
「そうね……行かなきゃダメ?」
「セレネの往生際の悪さはアルカみたいですね」
「愛娘でお嫁さんだもの。
似てきて当然よ」
「嬉しい気持ちはわかりますが、本当にそれで良いんですか?
アルカに似てきたという事は、ダメ人間になってきたということですよ?」
「仕事行ってきます……」




