21-17.観戦
私はクレアと向かい合う。
最初はハルちゃんの力は借りずに私一人でやることにした。
クレアもノアちゃんとセレネの参加は少し待てと言いおいて一人で立っている。
私は闇魔法の鎧に神力を混ぜ込んで発現し、バフもかけて戦いの準備を整える。
「クレアさん相手に接近戦を挑むつもりですか?
流石に舐め過ぎでは?」
「いえ。そうじゃないわ。
本当に舐めてるのならあそこまで手間かけないで神力だけで十分なはずよ。
アルカも反省して他の戦い方を試すつもりなんじゃない?
ニクスにはこっ酷くやられたらしいし」
「え?どういう事です?
アルカがニクスとパスを繋ごうとした時の話ですよね?
戦いの様子までは詳しく聞いてませんよ?
ニクス何があったんですか?」
「後で話すからちゃんと観戦に集中しなよ。
もう始まってるよ」
「あれだけルネルさんに鍛えられたのに、クレアさんの攻撃には全然反応できてないわね。
クレアさんがおかしいのもあるけど、アルカもアルカでサボりすぎよ。
ここ最近は模擬戦も全然してなかったし、だいぶ鈍ってるみたいね」
「セレネがクレアさんの動きを追えている事に驚きです。
三年前とは剣速が段違いです」
「私はアルカの反応を見ているだけで、クレアさんの動きが完全に追えているわけじゃないわ。
流石にノア程ではないでしょうけど、それでもノアとまともに切り合えるんじゃない?」
「そうですね。速さだけでも私とそう大差はありません。
セレネ並の硬さと私並の速度を持っている上に、私達より遥かに一撃の威力が重いので正直勝てる気はしませんね」
「でもアルカは普通に耐えてるわね。殆ど滅多打ちなのに」
「あれが何の障害にもならないルネルさんって・・・」
「考えてもしょうがないでしょ。
ともかく、あのクレアさんの攻撃でもびくともしないアルカを神力も持たないルネルさんが、素手でボコボコにしてるのを考えると、あの人がいる限り力さえあれば強いとは言えないのがよく分かるわね」
「ルネルの挙動はこの世界の法則とは違うと思ったほうが良いと思うよ。
多分真面目に考えても無駄だと思う」
「ニクスもわかってないのですか?」
「うん。正直何してるのか未だに分からない。
ほんとに何であの人アルカの神力障壁無視してくるの?」
「私達に聞かれても尚の事わからないわよ」
「アルカの反応が少しずつ良くなってきてますね」
「ハルがアドバイスでもしてるのかしら」
「もしくは、ルネルさんとの訓練を体が思い出しているのかもしれません」
「クレアさんの攻撃も段々鋭くなってきてない?
なんか音が凄いんだけど」
「こんな時間に近所迷惑ですね。
周囲には魔物しかいませんが」
「子供達が寝てからじゃなくて良かったわね」
「でも、ルカが怖がってます。
そういえば、ここまで派手な模擬戦を見せたのは初めてですね。
前回のアルカと戦ったやつは観戦させてませんでしたし」
「アリアは目を輝かせてるわ。
あの子はノア達と同類の気があるわね」
「なにか問題でも?」
「いえ。度胸があって良いと思うわ」
「まあ、良いです。
リヴィは眠そうですね」
「レーネの胸に寄りかかってればそうなるわよ」
「まさかまた手を出してはいませんよね?」
「……話は良いから観戦に集中しましょう。
アルカが動き出したわよ」
「後で憶えておいてください。
そろそろこちらも反撃しておくべきですね。
アルカと二人でイジメてあげます。
もう前回のような遠慮はしませんからね」
「やりすぎたらまた調子崩すわよ。
私のメンタルはそんなに強くないもの」
「散々好き放題やっておいて、それを盾にするのは卑怯です!
セレネは本当に攻められると弱いので洒落になってません!」
「セレネって質が悪いよね。自分は攻めるの好きなのに仕返しされると直ぐに弱音吐くし」
「ニクスとは相性良いんじゃない?
やたらと頑丈でいくらでも受けてくれる上に、攻めに回れるタイプじゃないし」
「ニクスの事は嫌いなんじゃなかったんですか?」
「それはそうなんだけど、アルカがニクスの事であんまりにも浮かれてるから馬鹿らしくなってきたわ。
ノアも似たような気持ちじゃない」
「まあ、そうなんですけど」
「ほらもう!話は終わり!
観戦に集中しようよ!」
「アルカのあれは何?
黒い霧?クレアさんの攻撃が全部貫通してるわよ?」
「転移じゃなさそうですね?」
「ハルの力だ。クレアの攻撃を防ぎきれなくなったから、一緒に戦う事にしたみたいだよ」
「それズルくない?
私達も参戦する?」
「クレアさんの許可も無くそれはダメです」
「そもそも、今のアルカに攻撃を通す手段は思いつくの?
今は観戦に集中して弱点でも探したら?」
「それもそうね。あれ結界で止められるのかしら」
「そもそも結界で囲い込むのが無理そうですよ?
ハルが助力してからクレアさんの攻撃も見切り始めました。
多分、ハルの接近戦の技量自体も私達と同レベルかそれ以上です。
アルカの弱点を完璧に補ってます」
「もうハルが直接戦えば良いんじゃない?」
「多分無理だと思う。
ハル自身の性格が戦いには向いてないんだ。
アルカの中でアルカの為にって状況だからこそ、ハルの能力がフルに活かされているんだと思う」
「なんかズルいです」
「ちょっとハルともゆっくり話す必要がありそうね」
「ノアはリヴィと契約すれば出力不足の問題も解消するんじゃない?
あの契約は配下から力を貰うこともできるはずだよ」
「リヴィを利用するみたいで嫌です」
「そもそもパスも繋がってしまうのでしょう?」
「あれはそういうものじゃないよ。
ノアとセレネの間にあるものや、私とアルカに繋がったのとは別物なんだ。
精々感情の起伏が分かる程度で完全に心を繋ぐものじゃない。配下の状態を管理できる程度の効果しかないんだ」
「どの道リヴィはアルカと契約したがっています。
私は止めておきます」
「ならいっそ、セレネから力を流してもらえば?
二人が力を合わせればアルカにも勝てると思う。
パスを通じてセレネからは力をノアからは感知能力を提供し合えば、今よりずっと強くなれるよ」
「そんな方法があるのですか?」
「うん。今度教えてあげるよ」
「権能云々は大丈夫なの?」
「これは大丈夫。伝え方については考えがあるんだ」
「ニクスも随分と変わりましたね」
「まさか、自分からそこまでしてくれるなんてね」
「二人にも受け入れてもらいたいと思ってるんだよ」
「なら今晩部屋に来なさい。そっちの方が手っ取り早いわ」
「本気でセレネが必要だって言うなら行くけど……」
「セレネにそんな意図は無いので、ニクスも本気で検討しないでください」
「バラさないでよ」
「セレネはなんで直ぐにそっちの話に繋いじゃうの……」
「あ!アルカが勝ちました」
「今の何?なんかいきなりクレアさんの力が抜けたように見えたけど」
「アルカっていうか、ハルの勝ちだね。
クレアの力を死なない程度に吸い尽くしたんだ」
「アルカ途中から何もしてなくない?」
「やっぱり良くないです。
アルカはもう少し手段を選ぶべきです。
他人の力で調子に乗っている姿は見ていられません」
「一応、本人も思う所はあるみたいだから、もう少しだけ見守っていてあげて。
ああやってハルの技術を学んでいる部分もあるから……」
「ニクスにコテンパンにやられたって言っていたものね」
「ニクスってそんなに強いんですね」
「これでも何千年も生きてるからね。
それなりに修練は積んでるよ」
「今度私とも戦ってください」
「条件さえ揃えば良いよ。
多分なんとかなると思うし」
「私は遠慮しておくわ」
「でもパスを利用した二人の強化の時に相手するのが手っ取り早そうだし、セレネも強制参加になりそうだよ?」
「仕方ないわね。なら付き合うわ」
「楽しみです」
「ともかく、今日はもう寝ましょう。
クレアさんももう戦えないでしょうし」
「ノアちゃん!勝ったわよ!」
「アルカ……」
「なんであんな無邪気な笑顔ができるのかしら。
ハルの力で勝てたって本人が一番わかってるでしょうに」
「アルカはハルを自分の一部として認識してるから……」
「依存しすぎですね」
「再教育が必要そうね」
「寝る前に返してね」
「ニクスのじゃないでしょ!」
「今晩は皆で寝ましょう。たまにはそれも良いでしょう」
「もっと大きな部屋が欲しいわね」
「とりあえずリビングにでもベット集めてみる?」
「クレアさんは良いんですか?まだ転がってますよ?」
「手を貸そうとしても怒ちゃって……
悪いけど、ノアちゃんにお願いして良い?」
「また何か煽ったんじゃないの?」
「そんな事するわけないじゃない」
「さっきは何話してたの?
決着付いてからこっちに来るまで何か話してたよね?」
「ハルちゃんの事を自慢してたの」
「煽ってんじゃない!」
「クレアさんはまた暫く滞在する事になりそうですね。
かなりの負けず嫌いですから、勝つまでやるはずです」
「どんどん人が集まってくるね。
エイミーとルネルが来るのも時間の問題かも?」
「エイミーには断られちゃったけど、いつか来て欲しいわね。
ルネルにも声かけてみましょうか。
クレアにも訓練つけてくれないかしら」
「一人であれだけ強くなっていたんですから、ルネルさんに師事したら、あっという間に引き離されてしまうでしょうね」
「けど、必要だと思わない?
私達がもっと強くなるためには、クレアが丁度良い相手だと思うの。
だからもう少しだけ強くなってもらいましょう」
「自力で勝てなかったくせによく言うわ」
「まあ、思う所はありますが、クレアさんとも訓練できるのなら私に否はありません」
「とりあえず、クレアを回収して家に戻ろう。
もう子供達も寝かさなきゃ」
「「「は~い」」」




