21-11.ご機嫌伺い
私は地下の町とルスケア領に顔を出してから、教会に転移した。
「久しぶりね。グリア。調子はどう?」
「いい加減セレネ君を帰したまえ。
聖女の不在など何時までも続けるべきではない」
「聖女の代わりに女神連れてきたんだけど」
「アルカ!?」
私はニクスをグリアの前に押し出してみる。
うん。グリアの方が僅かに小さいわね。
ちょっと気になってたのよ。
「その方が女神ニクスだと?
そうか。体を取り戻したのだね」
「グリアも良かったらこっちに顔出さない?
ニクスともゆっくり話したいでしょ?
流石に貸出は出来ないけど、家に来てくれる分には歓迎するわ。
正直、私とセレネの為にここまでしてくれているのに、放置しすぎて申し訳ないと思っていたのよ」
「自覚があったとは驚きだね。
残念だ。実に残念だ。
いい加減放りだして研究に戻ろうかと考えていたのに」
「それは良かったわ。ギリギリ間に合ったようね。
それであと、グリアにもう一人会わせたい人がいるの。
私より遥かに空間魔術の扱いに長けた専門家よ。
きっとグリアの研究の手助けをしてくれるわ」
「なんだと!?」
『ハルちゃんお願い』
『がってん』
私の体から大人モードのハルちゃんが出現する。
何故か無言で見つめ合うハルちゃんとグリア。
「良いだろう。君のご機嫌取りを受けてやろうとも」
グリアはハルちゃんから私に視線を戻してそう言った。
さっきのお見合いは何だったのだろう。
何か研究者同士でわかりあったのだろうか。
別にハルちゃんは研究者ではないけど。
多分、本人的には趣味の延長だし。
まあ、ともかく物凄い知識量を持っているのは間違いない。
「少し待っていたまえ」
そう言って、グリアも外出の準備を始める。
「びっくりしたよ。
セレネの代わりに売り飛ばされたのかと思ったんだよ」
「そんな事するわけ無いでしょ?
ニクスは私のよ。教会にあげたりしないわ」
「グリアさんのご機嫌取りには使うつもりですけどね。
結局、今回も私に事前相談もありませんでしたし。
アルカは折角少しは成長したと思っても、すぐに元に戻ってしまうんですから」
「ノアちゃん!ごめんなさい!」
「まあ、良いです。確かに必要な事です。
これまでお世話になりっぱなしですからね。
ハルとニクスには接待を頑張ってもらいましょう。
代わりに明日からはセレネに出勤してもらいましょう。
最近殆ど仕事もしていませんからね」
「レーネの訓練を見ているんじゃないの?」
「今は殆どリヴィの役目です。
セレネは別に魔法の造詣が深いわけじゃありません。
最初こそ魔力の使い方を覚視で見て指摘を入れていましたが、既にレーネは基本的な魔力操作の部分を抜けて、魔法の習熟に入っています。
今のレーネにセレネは必要ありません」
ノアちゃん辛辣・・・
最近のセレネは少しやりたい放題し過ぎだものね。
まあ、殆ど私のせいなのだけど。
そっか~セレネってニート扱いされてたんだ・・・
でもそれもそうね。
むしろ、魔法も神力も使えるリヴィが凄いだけだもの。
『ハルもつかえる』
『りょうほう』
え!?もう!?
私との契約で聖獣化(仮)してから、まだ数日しか経ってないのに。
『うん』
『アルカのみてた』
『そっか。魔法も覚視もあれだけ干渉できるのだから、神力だって見取るくらいは簡単よね。流石私のハルちゃんだわ』
『ふへ』
『そうそう。折角だから、今のハルちゃんがどうなっているのかも一緒に調べて貰いましょう。
結局、聖獣と言って良いのかもよくわからないのよね。
リヴィとは違うみたいだけど、ニクスも上手く説明出来ないみたいだし、私は見ても良くわからないしで気になってたのよ』
ハルちゃんは使徒である私との隷属契約で、純粋な吸血鬼からなにか別の存在に変化したそうだ。
正直、私は神力を纏っている事くらいしか、外見からは読み取れない。
実は肝心の隷属契約についても殆どわかっていない。
私とハルちゃんの間には繋がりが存在し、私からハルちゃんへ常に力を送り込んでいる。
だから、実は今のハルちゃんは吸血の必要がない。
せいぜい快楽を得る用途に使うくらいだ。
後、やろうと思えば私はハルちゃんにどんな命令でも聞かせられるらしい。
けれど、私にはハルちゃんに命令する意思がない。
出来るのはお願い止まりだ。
だから、実際の効果の程がわからないのだ。
『なんでもいい』
『ためしにめいれい』
『よるでもいいよ』
『なんでもしたい』
それはそれは・・・
ちょっと真剣に考えておくとしよう。
『たのしみ』
「痛っ!」
突然、私の足を踏みにじるノアちゃん。
「どうしたの!?
なんで急にそんな事するの?」
「知りません!」
『ノアみてた』
『アルカのはつじょう』
『きづいた』
『先に言ってよ!』
『アルカすきおおい』
『つねにけいかい』
『くせつけて』
『はい・・・』
「ノアちゃん。今晩部屋に来てくれる?」
「・・・わかりました」
「私は!?
というかセレネとの約束は!?」
「・・・忘れてたわ」
「仕方がありません。今日は四人でという事で」
『ハルもさんかする』
「では、五人で」
「ノアちゃんは良いの?」
「別に私はニクスにもハルにも手は出しませんし」
「なるほど」
「私は嫌だよ!!」
「大丈夫よニクス。私が一緒にいてあげるからね」
「全員で挑めばセレネも撃退できるはずです」
「そもそもセレネに対してするつもりが無いよ!
私の体はアルカだけのものだよ!」
『あとハルの』
「君達は何の話をしているのだね?
場をわきまえたまえ」
「「「はい・・・すみません」」」




