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20-30.顛末①

 あれから、セレネが私の部屋を出たのに続いて、ニクスとハルちゃん以外の全員が出ていった。

ちゃんと皆に心配をかけた埋め合わせを考えておかなきゃ。


 その後すぐに、ハルちゃんは私の中に戻った。

もう、戻ったという表現がしっくり来る程、ハルちゃんとの融合状態が馴染んでいる。

 正直、今ではハルちゃんが中に居ないほうが落ち着かないくらいだ。



『ハルも』

『アルカのなかすき』


『けど、抱き締め合ったりキスしたりもしたいな。

 折角皆にも関係を認めてもらえたのだし』


『ハルも』

『けどダメ』

『いまはニクス』

『ハルはあとで』


『ありがとう。ハルちゃん』



 ハルちゃんの言うとおりだ。

今はニクスの事を優先するべきだろう。


 私は結局、ニクスの心を癒やすことなど出来なかった。

今の私では力が全く足りていなかったのだ。


 ニクスの心は悲しみと後悔に満ち溢れていた。

私にはそれを受け止めるだけの力がないのだ。

何れは、その力をつけるつもりだけど、今すぐにどうにかなる話ではない。


 だからせめて、今は少しでも長く抱き締めていよう。

ニクスの悲しみを癒せなくても、ニクスに安心と喜びを与え続けよう。

私はニクスの事が大好きなのだと伝え続けよう。

いつかきっと、心の奥底に届けてみせよう。


 今はまだ無理だけど、必ず救い出してみせるから。

そう伝え続けよう。

ニクスが私の元から離れないように繋ぎ止め続けよう。

一人にさせないように側に居続けよう。


 私はニクスを抱き締めて横になる。

ニクスは何も言わない。

今は何を考えているのだろう。

とても気になるけれど、もうむやみに聞いたりはしない。


 私がこれ以上ニクスを傷つけるなど許されない。

そうしないためにも、もっと良く考えよう。


 そうして、こうなった経緯を思い出しながら、ニクスを抱きしめる腕に力を込める。




 最近のニクスの事で印象に残っているのは、やはり私が使徒になっていた件だ。

ニクスは私を自らの眷属にしてくれた。


 ハルちゃんが言うには、私とニクスのパスを繋ぐ際に、その神と使徒の繋がりを利用したそうだ。


 私達には神が使徒に司令を下したり、力を分け与えたりするのが目的の繋がりがあった。

 そこにハルちゃんは、こちらからアクセスできる専用のケーブルを増設して、逆に辿れるようにした。


 ハッキング?で良いのかしら。

ハルちゃんは今回の件だけでなく、以前ニクスの助けがあったとはいえ、神の座にまでアクセスしていた。

ハルちゃんはやはり魔法使いとして、相当な腕の持ち主のようだ。

正直私には何をしているのか全然わからない。

一応これでも、人間の中では最上位の魔法使いのハズなのに・・・


 けれど、人間としては強いなど、最早何の意味も無い。


 私はニクスの使徒になった事もあってか、ノアちゃんとセレネを圧倒する程の力を身に着けたはずだった。

しかしそれは、より上位のニクスには全く通じないものだった。


 ルネルの、ノアちゃんの言うとおりだ。

力に頼り切ってしまえば、もっと大きな力には碌な反撃すら出来ないのだ。


 ここ数ヶ月で急激に力を得たことと、久々の冒険者活動で格下相手に無双する事が多かったので、また力押しの戦いをするようになってしまっていたのだろう。

折角ルネルに性根を叩き直して貰ったばかりだと言うのに。

こんなんじゃ、またルネルにどやされてしまう。

最近ご無沙汰だったノアちゃん達との模擬戦も再開して、修練に励むとしよう。




 ハルちゃんは私に同化する能力も持っていた。

同化というか憑依?融合?

まあともかく、私の体と心の中に入り込んで、力になってくれるのだ。

その状態でも、ハルちゃん自身が私の意思とは別に魔法を使う事もできるし、探知や覚視で得た情報をリアルタイムで共有してくれたりもする。

更には私の魔法を改良までしてくれた。


 ハルちゃんは本当に凄い。

グリアとルネルにも会わせてみたい。

きっと二人もこの子の事が気に入るだろう。


 まあ、ハルちゃんは魔物なので、ルネルとは一悶着あるかもしれないけど。

けれど、それでもきっと大丈夫だ。

ハルちゃんはとっても優しい子なんだもの。



『ふへ』


 ハルちゃんはその力で私を子供化してくれた事もあった。

皆で可愛い可愛いとチヤホヤしてくれるのは満更でもなかった。

あんな可愛い子たちがそんな風にしてくれるなんて、私の事がよっぽど好きなのだろう。素直に嬉しい。



 私はハルちゃんと一緒に醤油を生産しているという、島国を探しにも向かった。

島自体は見つかったのだけど、何故か江戸時代の日本の様な場所だった。


 現地の人達は着物姿だったため、普段の格好では目立ちすぎて満足に出歩くことも出来ないと判断し、私は最初に服屋もとい、呉服屋を探すことにしたのだ。

結局その途中でニクスに呼び戻されたのだけど。


 今度再挑戦して、醤油を買いに行かねば。

あの町自体も、ノアちゃんとのデートで行けるように下調べもしておきたい。


 全員分の着物を購入するのも良いだろう。

最低限あの町の事がわかったら、仕立てを依頼しても良い。



「ニクス。なんでこの世界に江戸時代の町みたいなのがあるの?」


「言えな・・・あえて言うなら趣味かな」


 ニクスはいつも通りの言葉で終わらせずに、伝えられる言葉で答えてくれた。

私は嬉しくて、思わずニクスを抱きしめる手に力を込める


「つまりニクスの差し金だったのね」


「まあ・・・うん。そんなところ」


「何だか歯切れが悪わね。けれど良いわ。

 もう聞いたりしない。

 その代わりに一緒に遊びに行きましょう。

 ニクスは着物、じゃなくて、浴衣ならきっと好きよね。

 半纏も探してみましょう。

 どう?一緒に来てくれる?」


「うん。喜んで」


「良かった!嬉しいわニクス!」


「そこまで気を使わなくても大丈夫だよ。

 普通に話そうよ。アルカと距離ができたみたいで嫌だよ」


「うん。ごめんね。もう意識しないようにするから。

 ニクス。大好きよ。絶対にいなくならないでね」


「そんなの当たり前だよ。

 私だってアルカがいなきゃもう生きていけないんだから。

 アルカこそ、無茶していなくなっちゃ嫌だよ」


「うん。約束する。もう絶対に馬鹿なことはしない。

 ニクスの事を一人になんてさせない」


「うん。信じるよ。

 期待してるよ。アルカ」


「ニクス!」


 私は堪らず、ニクスに覆いかぶさってキスをする。

気持ちは溢れんばかりだけど、ニクスの好きな優しいキスを意識して少しずつ、ついばむように繰り返す。


「アルカ。優しくしてくれてありがとう。

 けれど、今だけはもっと激しくして欲しい。

 アルカの気持ちをもっとぶつけて欲しい。

 私の事を精一杯求めて欲しい」


「うん。喜んで」


 私はニクスの言う通り、私の気持ちを開放する。

感情に突き動かされるままに、ニクスを蹂躙する。


 再び落ち着く頃には、お互い息も絶え絶えになっていた。





 それから暫くして、私は隣で眠るニクスを見つめながら、再び考えていた。


 私はニクスとハルちゃん以外の全員に指輪を受け取ってもらえた。

ニクスの分も既に私が持っているが、デートの時に渡そうと思っている。


 ハルちゃんの分は明日、作成依頼に行くとしよう。

どんな思いを込めるのか考えておかなきゃ。


 ところで私の指には既に、

ノアちゃんとセレネで一つ、

レーネとで一つ、

アリアとルカとで一つ、

リヴィとで一つ、


計、四つが着いている。


あと二つ・・・・

無理よねどう見ても・・・


 元々頑丈さを優先してもらっているから、リングが特別細いわけでもない。

加えて私の指は長い方ではないのだ。

まだ唯一左手薬指に拘りの無いリヴィとの指輪を他の指に付けさせてもらおう。



『ハルもいい』

『どこでも』


『ありがとう。ハルちゃん』


 リヴィとハルちゃんのは右手薬指に着けさせてもらおう。

こっちだとどういう意味があるんだっけ?

なんか昔聞いたことはあった気がするけど、憶えていない。


 そういえば、爺さんに作ってもらった指輪を受け取りに行った帰りに、ハルちゃんの首輪も購入したのだった。


 ハルちゃんとニクスには、私のイメージに近い魔女の帽子と箒の装飾が付いた首輪を贈った

そして、その時、ニクスには・・・・



 私は眠っているニクスに再び優しく口づけする。



「どうしたの?」


「あ!ごめんね!起こしちゃったね!

 ううん!何でも無いの!ちょっと我慢できなくて!」


「テンパり過ぎだよ。

 それじゃあ何かあるって言ってる様なものだよ」


「・・・その、ね。

 ニクスに首輪を贈った時の事を思い出してね。

 ニクスに酷いことをしたって思ってね。

 けど、ニクスはそんな事言われたいわけじゃないだろうなって・・・ごめんなさい!そんなつもりじゃ!」


「アルカ。大丈夫だから落ち着いて。

 アルカが気にしてくれているのなら、今度のデートの時にやり直してくれる?

 私はそうしてくれると嬉しいよ」


「うん!ありがとう!

 今度こそニクスを幸せにしてみせるから!」


「張り切りすぎないでね。

 何だか不安になってきちゃうよ」


「そうね!冷静になるわ!」


「ふふ。全然冷静じゃないよ。

 大丈夫。アルカが何をしても私は逃げたりしないよ。

 だから安心して好きなようにしてね」


「うん。頑張る」


「ふふ。もう。そうじゃないでしょ」


「絶対に満足させて見せるから楽しみにしててね!」


「うん。期待しているよ。アルカ」


「うん!」


「アルカ。大好きだよ」


「私もよ。ニクス」


「アルカは・・・

 アルカは何で私を嫌いにならないの?

 あんなものを見て怖いとは思わないの?

 人間とは全然違うんだよ。

 心の底から醜い化け物なんだよ」


「ニクス。違うわニクス。そうじゃないのよ。

 あなたの心は醜くなんてないの。化け物なんかじゃない。

 あれはニクスの優しさと不器用さの証拠だわ。

 私にはそれが愛しくてたまらない。

 ノアちゃんも言っていたでしょう?素直に尊敬するって。

 何千年もニクスが頑張ってきた証なのよ。

 ニクスがどれだけ追い詰められても、自分のやった事から逃げなかった証なの。

 どんな悲しい思い出も捨てずに抱き締めてきたの。

 大切に大切に守ってきたの。

 けれど、きっとこのままではニクスが壊れてしまうわ。

 神が強いと言っても限度があるでしょう?

 だからいつか、私が飲み干してあげる。

 ニクスの全てを受け止めてあげる。

 ニクスの悲しみを一緒に守ってあげる。

 あなたが手放せないものを手放したくないものを私が一緒に抱き締めていてあげるから。

 だからいつまでも側にいてね

 まだ私には力が足りないから、信じてくれなんて言わないし、話してくれとも言わないから。

 ただ側にいてくれるだけで良いから。

 私の目の届く所にいてくれればいいから。

 そうすれば、ニクスが泣いていても抱き締めてあげられるから」


「・・・うん」


 私はまた、ニクスにキスをする。

少しだけ溢れてきた涙にも口づけする。

今度は嗜虐心ではなく、愛しさだけを込めて。

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