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20-28.女神と使徒

『アルカ。め、さめる』


「「「「「「アルカ!」」」」」」


 私は気が付くと、ニクスに頭を抱え込まれるようにして、膝枕されていた。

 両手はセレネとノアちゃんが握りしめ、周囲には家族全員が揃っていて、私の体中に縋り付いている。

 どうやら、いつの間にか心の中から出されて現実の世界にいたようだ。

 ハルちゃんは私の中にいるのを感じる。最初に聞こえた声はハルちゃんが皆に向かって告げた言葉だったらしい。



「・・・」


 ニクスは歯を食いしばって、必死に嗚咽を押し殺しているように見える。さっきも私の名前を呼んでいなかった気がする。

 今も悲しみと不安と恐怖の入り混じった様な苦しげな顔で私を覗き込んでいる。

正確な感情がわからないという事は、既にパスは無くなっているようだ。



『とじてるだけ』

『いちどつながった』

『もうきえない』


『そっか。良かった』


『・・・』


 私が手を動かそうとすると、ノアちゃんとセレネは察して手を離してくれる。

 そのまま持ち上げた手をニクスの頬に持っていき、両頬を摘んで引っ張る。



「あにするお・・・」


「そんな顔をしていてはダメよ。折角の可愛い顔が台無しだわ」


「あえのえいえ!」


「ふふ。何を言っているのか全然わからないわ」


 ニクスは私の手を振りほどいて言い直す。


「誰のせいで!

 私がどれだけ心配したと思ってるの!?」


「ニクス。ごめんなさい。

 私の言った事はとんだ見当違いだったわ・・・」


「何でアルカが泣くの!?泣きたいのは私の方だよ!!」


「そうよね・・・そのとおりだわ。

 私は思い込みでニクスに酷いことを言ったの。

 あなたの心の一端を見てそれがわかったの。

 あんな悲しみを説明しろって言われても不可能よね。

 あなたはそれをずっと抱えて生きてきたのよね。

 私の為に、私にそれを見せたくなかったのよね」


「違うんだよ。

 アルカの言ったことは間違ってなんかいないんだよ。

 私はアルカを言葉で説得するのは無理だってすぐに諦めちゃったんだよ。

 アルカの言うように、相手はわからず屋の子供だからって見下していたんだよ」


「そんなの当然よ。

 だって、私が分からず屋の子供そのものだったんだもの。

 勝手な思い込みで捲し立てて話を聞かなかったの。

 あなたは何度も止めてくれと頼んでいたのに。

 ちゃんと言葉を尽くしてくれていたのに。

 私がその言葉を素直に受け止めていなかったの。

 勝手に疑ってあなたを裏切ったの」


「そう思うなら今話してることも聞いてよ。

 アルカの言っていた事は何一つ間違ってないんだよ。

 私は本当にあなた達を見下していたんだよ。

 話してもどうにもならないからって黙っていたんだよ。

 アルカはそんな私を心配してくれていただけなんだよ。

 だからアルカは何も悪くなんて無いんだよ」


「それでも、違うのよニクス。

 あなたは本当に私達を見下していたのかもしれない。

 あなたは誰にも期待はしていなかったのかもしれない。

 けれど、それは違うのよ。あなたのせいじゃないの。

 あなたは本当に正しい事を言っていたの。

 あなたの悲しみは言葉で聞いたくらいで、私達にどうにか出来るものなんかじゃなかったの。

 あなたは私を守る為に踏み込ませないようにしてくれていたの。

 自分の悲しみに引きずり込まないようにしてくれていたの。

 私がそんな事にすら気付かず掘り起こそうとしていたの。

 私が思い上がっていたの。

 私ならあなたを救い出せると盲信していたの。

 あなたと同格になれるなんてうぬぼれていたの。

 あなたの事を何も知らずにそんな甘い事を考えていたの。

 あなたの心のほんの一端を覗いただけで私は飲まれてしまった。

 私が調子に乗ったせいで、こうして皆に心配を掛けたの。

 ごめんね。ニクス。

 あなたの苦しみを知ろうともしないで勝手なことばかり言ったよね。本当にごめんね」


「アルカは悪くないんだよ。

 私がパスを繋ぐことを拒否しきれなかったんだよ。

 アルカが私と繋がる事で、私の心を知った上で、私の全てを理解してくれるかもって思ってしまったんだよ。

 だから禄に抵抗もしなかったんだよ。

 人間が耐えられるわけが無いって知っていたのに、誘惑を断ち切れなかったんだよ。

 土壇場になって思い直したけど、その時にはもうアルカを止めるには殺すしか無かったんだよ。

 心が完全に壊れてしまえば、転生したってダメなんだよ。

 アルカを完全に失うくらいならって思ったのに、結局殺すことも決断できなかったんだよ。

 そうして悩んでいる内にパスが繋がってしまったんだよ。

 アルカが無事に目を覚ましたのは奇跡なんだよ。

 ハルが必死に守り抜いてくれたからなんだよ。

 アルカが一瞬だけでも耐えてくれたからなんだよ。

 ハルがパスをすぐに閉じてくれたからなんだよ。

 結局、私はなんにもしてないんだよ。

 私は自分の孤独に耐えきれず、アルカを見殺しにするところだったんだよ。

 謝るのは私の方なんだよ」


「ほら、やっぱりニクスは何も悪くないんじゃない。

 全部私が勝手にやったことじゃない。

 あんな悲しみを一人で背負ってきたのだから、誰かに助けて貰いたいと思うのは当たり前の事じゃない。

 あなたの心は後悔や悲しみでいっぱいだったの。

 まるで泥の海のように暗くて重たいものが、溢れかえっていたの。

 これから少しずつで良いから私にも支えさせて。

 パスはまだ直ぐには無理だけど、ニクスも私の心を鍛えてくれるのでしょう?

 私はあなたの心を一緒に抱えられる事を目標にして頑張るから。

 だからお願いよ。

 もう自分だけが悪いんだなんて思わないで。

 ほんの少しずつだけで良いから私にも背負わせて。

 あなたの孤独を癒やさせて。

 ずっと私の側にいてね」


「アルカぁ・・・」


そのまま、ニクスは私に縋り付いて泣き続けていた。

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