20-27.vs女神③
私はニクスに攻撃を続ける。
この期に及んで言葉による対話など必要ない。
私のすべきことは力をぶつける事だけだ。
ニクスは相変わらず動こうともしない。
ただ、威圧するように力を撒き散らしているだけだ。
しかし、ただそれだけで、私の攻撃は通じない。
ニクスの纏う力の壁に私の攻撃はかき消されていく。
暫く光弾を放ち続けて、ニクスの体に当てることすら出来ないことを確認した私は、ニクスの纏う力を一撃で貫くために、最大威力での攻撃を決意する。
私は一撃に込められる最大の力を使って、頭上に巨大な光球を生み出す。
そのまま光球を槍の形に変換し、圧縮をかけながら前後で逆に回転させて、捻りあげていく。
私の数倍はあった槍は、圧縮された事で私の腕程度のサイズにまで小さくなっていった。
私が術を完成させたところで、遂にニクスが声をかけてきた。
「本気で私を殺す気なの?」
「心から降参する気にでもなったの?」
「信じてくれる?」
「無理ね」
「それは悲しいよ。
最後くらい優しい言葉が欲しかったな」
「あなたまさか無抵抗で受けて自殺でもする気?」
「そんな事しないよ。
けれど、流石アルカとハル二人で力を合わせて生み出した術だ。それなら私に届くだけの威力はあるよ」
「なら本気で防ぎなさい!」
私は躊躇せずに、ニクスに圧縮した槍を投げ放つ。
ニクスは驚いた様子もなく、手の平を飛来する槍に向ける。
一見、やる気のない無造作な動きにしか見えなかったのに、急激に悪寒が走るのを感じ、私はその場を離脱する。
その直後、私の放った槍ごと直前まで私の居た場所が、ニクスの手の平から放たれた、力の奔流に飲み込まれる。
たったあれだけの動作で、ニクスは私の最大威力の圧縮魔術を簡単にかき消すほどの力を放った。
「今のは私を消し飛ばす気だったのね」
「うん。もう今のアルカはいらない。
やっぱり転生させて、本当の子供からやり直すことにするよ。そうすれば我儘言って私を困らせる事もないだろうしね。あまつさえ、刃を向ける事なんて無いはずだよ」
「それはどうかしらね。
私は記憶を無くして転生しても、絶対にまたニクスの事を好きになるわ。そうすれば結局同じことよ。
ニクスに本当の心を向けてもらうために、私はまた戦いを挑むわ」
「なら、次のアルカには声を掛け無いでおくよ。
ただ頭上から見つめ続けるの。アルカが生まれ変わる度にそうして眺めているよ。
こんな辛い気持ちを味わうくらいならそっちの方がきっと幸せだよ」
「なら最後に、今あなたがどんな辛さを味わっているのか教えてくれない?
ニクスの事が大好きな私の最後の願いなら、感情の一つを打ち明けるくらいの事は、してくれても良いんじゃない?」
「必要ないよ」
「じゃあ諦められないわね」
「そんなつもり無いくせに」
「当たり前よ。まだ負けたなんて思ってないもの」
「無理だよ。アルカじゃ勝てない」
「もうお喋りは良いでしょう?
続きを始めましょう」
私は再び光球を無数に生み出し、一つ一つに圧縮をかけて、ビー玉くらいのサイズにまで縮んだ光球を放っていく。
私一人では到底追いつかないこの処理をハルちゃんの助けを借りて、何とか維持しながら、次の手を考える。
光球はニクスの力の壁を多少削る事には成功するが、一発程度では芯まで届かない。
何百、何千、何万と同じ魔術を生み出して放っていく。
ニクスは私の攻撃を受けながら、時たま私に手のひらを向けて力の奔流を放ってくる。
ニクスの緩慢な動きはやる気の無さの現れなのだろうか。
それとも、一発毎に力を蓄える必要があるのだろうか。
ニクスを注視していても、そんな事すらも判断できない。
ニクスはそれ程までに、常に大きな力を纏っており、中まで見通せないのだ。
このままだと消耗戦になる。
いくらハルちゃんがいるとは言え、ニクス相手にそれは無謀だ。どこかで勝負に出る必要がある。
けれど、私の最大威力の攻撃はあっさりかき消されてしまった。
あれが通じない以上、ニクスにまともな攻撃を通す手段が見つけられない。
あと残された切り札は一つだけだ。
今なお、ハルちゃんが裏で準備を進めてくれているが・・・
そんな風に思った直後、ハルちゃんからの報告が届く。
『パスつながった』
その直後、私の心は今まで感じたこともない強烈な悲しみに飲み込まれた。




