20-24.人魚姫と吸血姫
リヴィを見送った後、今度はレーネを魔法で呼び寄せる。
『これが以前仰っていた魔法ですね。
使って頂けたという事は、私の事も心から愛してくださっているという事なのですね』
『レーネ。今更そんな事を疑わせてしまってごめんなさい。
好きな気持に順番を決めたと伝えたのに、子供達を優先させてしまったのもごめんなさい』
『どうかお気になさらず。私はアルカ様のものです。
どうか御心のままにお使いください。
こうして、時たまご寵愛を頂ければ十分でございます』
『レーネ!ごめんなさい!
そんな風に思わせたいんじゃないの!
レーネの事だって何時でも想っているの!
今の私の言葉なんか信用できないとわかっているけど、それでも言わせて欲しいの。
レーネ。私は本当にあなたを愛しているわ。
これからはもっとそれを証明していくから!
だからどうか、側で見ていてくれる?
私にもう一度チャンスをくれる?
私のためなんかじゃなくて、レーネ自身のために、私の側に居たいと思って欲しいの!』
『アルカ様。どうか落ち着いて下さいませ。
申し訳ございません。少し意地悪が過ぎました。
大丈夫です。決して嘘偽りを申し上げたわけではありませんが、先程の言葉だけが私の本心ではありません。
私は心からアルカ様の事を愛しているのです。
私の望みで、アルカ様の側にいるのです。
どうか、それだけは疑わないで下さいませ』
『うん!信じる!レーネの言葉を信じるから!』
『それは安心しました。けれど、アルカ様。
いつまでも私の事を放っておいたら、私からアルカ様に迫ってしまうかもしれません。その時はどうか受け止めて下さいませ』
『喜んで!レーネから求めてくれるのも嬉しいわ!
けれど私も、レーネに物足りないと思わせないように頑張るわ!だから、ずっと側にいてね!』
『はい!』
『レーネ。あなたに今すぐにでも指輪を送りたいのだけど、やっぱり、式典まではダメかしら』
『アルカ様は意地悪です。
それは既に話し合ったではありませんか。
どうしてそんな風に誘惑するような事を言うのですか?』
『出来れば二人きりで渡したいの。
必要なら式典用にもう一つ用意しても良いし、今渡しておいて、式典の時に改めて着け直すのでも良いから。
だから、お願い。受け取ってくれないかしら』
『わかりました。そこまで言って下さるのであれば、喜んでお受けいたします。
けれど、もう一つ用意する必要はありません。私にはアルカ様が想いを込めて下さった、あの指輪が一番です。あれ以外は望みません』
『わかった。我儘に付き合わせてごめんね。
いえ、こんな事を言ってはダメよね。
私の望みを聞いてくれてありがとう。
愛しているわ。レーネ。どうか受け取って』
私はレーネに指輪を着ける。
そうして、レーネにキスをする。
『ありがとうございます!アルカ様!
嬉しいです!とっても嬉しいです!』
『こちらこそありがとう。レーネ。
喜んでくれて嬉しい』
『アルカ様は先程あのように仰っていましたが、今度はニクスとハルちゃんの番ですよね。
ついでではございませんが、私はハルちゃんを受け入れます。
どうか私の事は気にせずに、二人の事もお気遣い下さいませ。
私はアルカ様を信じてお待ちしております』
『ありがとう。レーネの思い遣りに感謝するわ。
レーネはさっきまではどこにいたの?送っていくわ』
「大丈夫です。私の成長をお見せします」
レーネは口を開いてそう告げる。
そして、私の腕の中から抜け出して立ち上がる。
それからゆっくりと、私の部屋の出口へと歩き出す。
「凄い!もう歩けるようになったの!?」
『はい!とは言え、補助に魔法も使っていますけれど』
「十分凄いわ!どっちも一月程度でどうにかなるとは、思ってもみなかった!
レーネは本当に沢山頑張ってくれたのね!」
『ふふ。そこまで喜んで頂けたのなら甲斐があります。
では、アルカ様もこの後の事、頑張って下さいませ』
レーネはそのまま自分の足で、私の部屋を後にした。
そうして、またも一人になった私は、ハルちゃんを抱き寄せる。
「ハルちゃん。レーネも認めてくれたわ。
実はノアちゃんとセレネもなの。
だから、これからは恋人としても一緒に居てくれる?」
「うん。うれし」
「ありがとう。ハルちゃんの気持ちが伝わってくるわ。
セレネがパスに拘ったのもわかってしまうわね」
「でもえらばなかった」
「そうね。その方法は結局諦めてくれたわ。
私も未練がましい事を言っていないで切り替える」
「ハルもささえる」
「しもべとして」
「こいびととして」
「アルカのどうぐとして」
「うん。ありがとう。ハルちゃん。
私もどんなハルちゃんの事でも、全てを愛するわ」
「ふへ」
話し方は少しだけ流暢になったけど、笑い方は相変わらずだ。少しだけ口元を動かして、息が漏れるような小さな笑い方。
きっといつか、ハルちゃんが大きな声で笑えるようにしてみせよう。
私はそんな想いも込めながら、ハルちゃんにキスをする。
「十分な余韻も無く、早速で悪いのだけど、
ニクスを本気で攻略したいの。
けれど、私だけの力では足りないわ。
ハルちゃんも一緒に協力してくれる?」
「うん。ニクスしぶとい」
「きっとたいへん」
「それに」
「あたらしいかんけいの」
「はつしごと」
「ハルがんばる!」
「ありがとう。ハルちゃん」




