20-20.想定外
セレネは再び押し黙る。
今は何を考えているのだろうか。
もう私の事は心底愛想が尽きてしまったのだろうか。
セレネにここまでしておきながら、私は怖くてたまらない。
こうなることは知っていたのに、全く心の準備など出来ていなかった。
いや、出来るわけなど無いのだ。
セレネに嫌われるなど、どんな理由だろうとも受け入れられないのだ。
私はセレネの心を取り戻すためにその場しのぎの言葉を紡ぎそうになる。
けれど、口から漏れ出ないように、必死に押さえつける。
私はセレネに嫌われてでもセレネの心の平穏を取り戻したいと願ったのだ。
そうして、自分の想いを押し通そうとしているのだ。
「セレネが何時までもそうしているのなら、私から先に話をさせていただきます」
相変わらず口を開かないセレネにノアちゃんが告げる。
「セレネ。あなたは自分の矛盾に気がついていますか?
アルカを信用できないと言い張り、アルカがセレネを一番にするという言葉を否定しました。
けれど、セレネの一番の望みはアルカがセレネを一番だと思うことで間違いないはずです。
アルカの言葉を信じられないのに、その望みをどうやって叶えるつもりなのですか?
あなたは手段と目的を取り違えていませんか?
あなたの本当の望みは心を繋ぐことではないはずです。
それはあくまでも手段のはずです。
さっき、自分でもそう言ったではありませんか。
楽になるために欲しいのだと。パスはアルカに寄り添うための手段だと言ったではありませんか。
あなたの本当の目的は楽になることです。
楽になるとは、アルカの一番になれば叶うはずです。
その提案をアルカからしているのに、どうして飲めないのですか?
なぜ、アルカの言葉が信用できないとその条件が飲めないのですか?
心が繋がれば楽になれるとは、アルカの一番を諦める代替手段でしかないはずですよね?
ならば理由など、どうでも良いことでは無いのですか?
結果として欲しいものが手に入るのに何が不満なのですか?」
「・・・」
「黙っていても何も解決はしませんよ?」
「・・・どの口で」
「セレネ。それでも良いのですよ。
いくらでも罵倒してください。
それも会話であることに違いはありません。
セレネの本心が聞けるのであれば、内容は問いません」
「お手洗いに行かせて欲しいわ」
「本気でそれで逃げられると思っているのですか?」
「生理現象なのだから仕方が無いじゃない」
「ハル。お願いします」
「わかった。まかせて」
ハルちゃんの力で、この場にいる全員が私の心の最深部に引きずり込まれる。
以前、ニクスに連れてこられた時と変わらず、薄っすらと光を放つお互い以外に何も見えない真っ暗な空間だ。
ニクス以外と来るのは初めてだったから知らなかったけど、ニクスだから光っていたわけではないのね。
「心は見せないんじゃなかったの?」
「うん。その心配はいらないわ。
ここは私の心の奥底なの。
以前連れてきた表層とは違って、
ここでは深すぎて私の心は見えないのよ。
私達の方針は変わっていないわ。
人間として言葉で説得するつもりなの。
今回はあくまでも会話の場所に利用する事にしただけよ。
ここは空腹の心配も時間の経過もない空間だからね。
ちなみに、かつて私がニクスに監禁されていた場所よ」
「・・・どうして。
どうしてそこまでするの!アルカ震えているじゃない!
あなたこの空間にトラウマがあるんでしょ!?
なんでそこまでして!」
「セレネとわかり合いたいから。
私がセレネを一番に想っている事を信じてほしいから。
セレネにばかり苦しみを押し付けて、私がこの程度我慢しないわけにはいかないでしょ?
けれど、出来れば早めに提案を飲んでほしいな。
入るまでは問題ないと思ってたけど、この暗闇は想像以上にダメだったみたい。私もそんなに長くは保たないかも。
セレネにこれ以上みっともない所は見せたくないから、取り乱す前にお願いね」
「馬鹿!
バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ馬鹿ぁ!!!!!!!!
そんなの当たり前じゃない!何年もこんな暗闇に閉じ込められて耐えられるわけがないじゃない!
ニクス!おまえ!私のアルカになんてことしたのよ!!!
おまえだけは絶対に許さないわ!!!
ハル!今すぐここから出しなさい!私は逃げたりなんてしないわ!」
「むり。アルカのめいれい」
「アルカ!!!
意地なんて張ってないで今すぐやめてよ!
もうわかったから!どんな提案だって飲むから!
お願いだからもう止めてよ!
私にはアルカをこんな形で苦しめる程の意地なんて無いわよ!!!」
「ハルちゃん。お願い」
「うん」
私達の意識は現実に帰還する。
「この展開は想定外です。
アルカは随分とエグい手段を隠していたのですね」
「いえ、私も予想していなかったのだけど・・・」
「どいつもこいつも!本当に最低よ!!!」




