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20-19.最低な提案

 ノアちゃんの訴えを聞いたセレネは、結局口を閉ざしてしまった。

暫く待ってみても、何か言葉を発する事は無かった。

 私はノアちゃんと視線を交わして意思を確認し、セレネに話を始める。


「セレネ。セレネの気持ちを教えてくれる?

 一つ一つセレネの不安を消していきましょう。

 私の言葉が信用できないのならそう言ってくれて構わないわ。その時は言葉を重ねるから。

 セレネに信じてもらえるよう頑張るから。

 だから、私にもチャンスをください」


「・・・」


 私の言葉に沈黙で返すセレネに、私は言葉を続ける。



「セレネは私の気持ちが信じられないのよね。

 それはどうして?

 私がセレネ以外の人にも好意を持っているから?

 どうして私が他の人も好きだとセレネは不安になってしまうの?

 私がセレネに向ける感情が減ってしまうと思っているからなの?

 それとも、自分以外に好意を向けることが裏切りだと感じているから?

 自分以外に好意を向けている事そのものが許せないの?

 それとも単純に、私と過ごす時間が減るから不満なの?

 その不満が周囲への敵意になる事が不安なの?」


「・・・」


「大丈夫よセレネ。ゆっくりでいいからね。

 何も言えなくたって、セレネが私を嫌いになったなんて思わないから。

 だから言いたいことが見つかるまでは聞いていてくれるだけで良いから」


「・・・」


「私もただの言葉だけの謝罪はやめるから。

 私はセレネもノアちゃんもレーネもニクスもハルちゃんも大切に思っている。愛している。

 けれどね。けれど、セレネに感じている想いはセレネに対してだけなの。ノアちゃんとだってそれは違うものなの。

 どう違うかを上手く一言では説明できないから、一つずつ思い返して、積み上げていきましょう。

 初めてセレネが私に告白した時はとっても驚いたの。

 それまで、正直なところセレネにそんな想いは抱いていなかったの。あくまでも家族として。いいえ。これも正しくはないわね。家族以上に想っていたと言い切れるもの。ただ、その方向性が恋には向いていなかっただけね。気持ちの大きさは今とも遜色無いんじゃないかしら。

 ともかく、私はセレネの事が好きで好きで堪らなかった。そんなセレネから好きだと言われて戸惑いはしたけど、本当は嬉しくて仕方がなかったの。

 けれど、私は親としての常識でセレネの想いに応えようとはしなかった。

 それからは少しずつセレネの見方が変わっていった。

 大事な愛娘だけでなく、大事な女の子としても見るようになっていった。

 初めてセレネにキスをした時、セレネは私が誰かに好きという感情を向けられるのが嫌だと言ったわ。

 私もセレネを誰かが好きになるのは嫌だと言った。

 これは独占欲ね。セレネを自分だけのものにしてしまいたい。セレネが誰かに汚されるのは我慢ならない。今でもその気持ちは変わっていないわ。

 きっとセレネも同じ気持ちを抱いてくれているのでしょう。

 なら、私が他の人を好きだと言うのはセレネの独占欲に反するものだわ。

 きっとこれもセレネが不安を感じている要因の一つでしょう。自分だけのものにならない事がもどかしく、その気持をわかっていて他の人も好きになる私に裏切られたと思っているのでしょう。

 裏切り・・・そうね。裏切りなのは間違いないわ。

 これはどう言葉を尽くせば補えるのかしら。

 私がどれだけセレネの事を好きでも、セレネが私の気持ちの大きさをわかっていたとしても、それは関係ないのでしょう。

 けれど、それでも私はセレネを愛しているわ。セレネを手放すつもりなんて無いわ。そんな事は無いと信じているけど、例えセレネに嫌われてもそれは変わらないの」


「それ・・・」


少しだけ言葉を漏らしたセレネ。

私は構わずに言葉を続ける。



「セレネは可愛そうだわ。こんな私に目を付けられてしまうなんて。愛されてしまうなんて。

 けれど、そう思ってもセレネを失う事だけは我慢出来ないわ。私はなんて自分勝手なんでしょうね。好きな人の幸せよりも、好きな人を手放さない事を優先するのよ。

 そんな相手をどんどん増やして、セレネに嫌な思いをさせて。何度もセレネを泣かせて。それでも懲りもせずに繰り返して。今までそうやってきたのよね」


「・・・」


「結局、セレネに対してだけの想いってそこなのよ。

 その執着はセレネに対してだけ向けられているものだわ。

 勿論他の子達も手放す気はないのだけど、そういう話ではないの。

 セレネへの執着はセレネだけに感じるものだわ。

 わざわざ口にするまでもなく、当たり前の事だけれど。

 どうやってこの想いを伝えれば良いのかしら。

 いっぱい考えてきたけど、ノアちゃんにも協力してもらったけど、確実に正しいと思えるような答えは見つかっていないわ。

 そもそも、この想いを一方的に押し付けるだけじゃ、きっとセレネの不安は解消されないのよね」


「ならやっぱりパスを繋いでよ。

 私にアルカの心を感じさせてよ。

 私はそれが欲しいの。不安が無くならなくたって、アルカに強い想いをぶつけてもらえれば縋り付けるの。

 私を泣かすのならせめて受け止めてよ。

 私の悲しみを心で感じ取っていてよ。

 アルカならそれが出来るのでしょう?

 私の為に出来ることなのにしてくれないの?

 アルカは私の事をどんな手を使っても手放さないのでしょう?

 ならそうしてよ。手段なんか選ばないでよ。

 ノアが仲間外れになってしまうのならノアとも繋いでいいから。

 ノアが反対していても無理やり巻き込んでしまいましょうよ。

 もう我慢なんてしたくないの。

 私はノアの望みよりも自分の不安を誤魔化す方が大事なの」


「セレネが本当に望んでいるのならそうしてあげる。

 けれど違うでしょ。セレネはきっと後悔する。

 いつかノアちゃんの為にパスを解消してくれと頼んでくる。

 セレネはそういう子よ。今は追い詰められているだけよ。

 だからセレネ。心で縋り付くのではなく、体で縋りつきましょう。

 気持ちが通じるまで何時まででもそうしていましょう。

 その間私は愛を囁き続けるわ。

 セレネの心が安らぐまで、何日だって続けるわ。

 セレネが不安を感じる度にそうするわ。

 そうしてお互いに愛を伝え合いましょう。

 だから、すぐに全ての気持ちを伝えられなくても、辛いとだけ言って欲しいの。

 その一言で、セレネの心が落ち着くまでの間は、私はセレネの為だけに在り続けるわ」


「出来もしないこと言わないでよ!

 他の子達が同じことを望んだらどうするの!?

 その子達を切り捨てて私を優先してくれるの!?

 そんな時に皆一緒になんて絶対認めないわよ!」


「その時はセレネを優先するわ。

 他の子達にはどんな事情があろうとも待ってもらう。

 私の中で明確に順番を付ける。

 セレネが一番でノアちゃんが二番、ニクスが三番、レーネが四番、ハルちゃんが五番。次の子からはそれ以降。

 それでセレネの懸念は全て解消される?

 他にもあるのなら言って欲しいの」


「何で今更そんな事言うのよ!絶対にノアを二番とは思えないって言っていたじゃない!!どうしてそう、コロコロ言葉を変えてしまうのよ!そんなんだから信用出来ないんじゃない!

 どうせ次に誰かが落ち込んだら、その子が一番になるんでしょ!?

 そんなの意味ないじゃない!」


「それで良いじゃない。

 きっと、その時はセレネもその子を優先してくれと言うわ。

 私のセレネはそういう子よ。

 だから私はあなたの強さに甘えるの。

 私はあなたを信じているもの」


「最低!!!!」


「セレネ。逃がしませんよ。

 話がつくまで席を離れる事は認めません」


「もうついたでしょ!?

 アルカは私の気持ちなんて何にもわかって無いわ!

 これ以上の議論なんて無駄よ!

 ニクス!さっさとパスを繋いでよ!

 言葉で通じ合えないのはわかったでしょ!

 もう私にはそれしか無いのよ!」


「わるいけどそれは出来ないんだセレネ。

 アルカの考えは私達も既に聞いてるんだよ。

 この場にはいないレーネも含めて全員が同意したんだよ。

 セレネはこの意見に賛同するか、他の案で私達を納得させる以外にこの場を離れる方法は無いんだよ」



「・・・はぁ!?何言ってるのよ!?

 だってさっきのアルカの言葉なんて支離滅裂な思いつきじゃない!

 せっかくノアがあそこまでしてくれたのに全部台無しにしたじゃない!

 それが全て予定通りってどういう事よ!

 適当な言葉で誤魔化さないでよ!!!」


「いえ。予定通りで間違いありませんよ。

 どうせ、アルカに理路整然とした説得など出来はしません。

 ですから、最後に告げた内容以外はアドリブです。

 全てアルカの思いつきです。

 私とアルカが説得しきれなければ、この提案に行き着く事だけを決めていました。

 私達の提案は、アルカがセレネを一番にすることです。

 けれどセレネも言った通り、そんな提案は受け入れがたいでしょう。

 だから、私達はこれからこの提案を通す為に言葉を尽くします。

 私達はセレネとわかり合うまで、この場から逃がすつもりもありません。

 約束を破って申し訳ありませんが、一日と言わず、何日でもお付き合いします。

 私達全員から逃れる術など無いことは理解しているでしょう?」


「なんで・・・そこまで・・・」


「私の気持ちを伝えるだけでセレネが本当に諦めてくれるとは、思っていなかったからです。

 いえ、少し言葉が足りませんでしたね。セレネが私の言葉でなにかを返してくれたのなら、こんな手段は取りませんでした。

 けれど、結局セレネは何も話してくれませんでした。

 それだけ今のセレネは心が弱っています。そうであれば、アルカとの繋がりを諦められるはずが無いのです。

 だから、私達は徹底的にセレネを追い詰めて吹っ切らせることにします。

 大丈夫です。セレネがどれだけ泣いても、泣き止むまで待っています。

 セレネが追い詰められた結果、アルカにより依存するのならそれでも構いません。

 そうなれば、セレネがアルカの一番になるという、私達の提案は通りやすくなるでしょう。

 例えその結果、セレネの心が壊れてしまっても、私達が寄り添って治してあげます。

 セレネが私達の提案に納得できないのであれば、別の意見を言ってください。

 ちゃんと全て聞いてから判断してあげます。

 セレネが私達を納得させられるのなら、パスを繋ぐ事すらも承認します。

 私がいる以上はセレネが嘘をついてこの場をやり過ごす事も不可能です。

 例え途中でセレネが私達と決裂しても、仲直り出来るまで離しません。

 セレネ。私達が本当の言葉を交わすのはこれからです。

 ここまでが私達の作戦です。これ以降は出たとこ勝負です。

 わかっているでしょう?

 アルカだけでなく、私も人の枠組みを外れない限りのあらゆる手段を用いてでも、セレネを手放すことなど無いのです。そのためなら人の道は踏み外しましょう」


「・・・・・・・・・・・・最低」

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