20-17.不安
目が覚めると、隣にニクスはいなかった。
私は慌ててニクスに念話を送る。
『ニクス!』
『どうしたのアルカ?』
聞こえた声音はいつものニクスだった。
昨晩の落ち込み具合は微塵も感じられない。
私はどうにか声を落ち着けて話を再開する。
『おはよう。今はどこにいるの?』
『朝食を食べてるよ。ノアの料理は本当に美味しいね。
アルカも早くこないと冷めちゃうよ?』
『そうね。私もすぐに行くわ』
少しだけ、平常運転のニクスに気味の悪さの様な、
漠然とした不安の様な落ち着かない気持ちを感じながら、なんとかそう返す。
「アルカ。おはよ」
「おはよう。ハルちゃん。
今朝はすっかり元気になったようね!」
「アルカげんきない」
「そうだった。ハルちゃんにはもう隠せないのよね。
皆には内緒にしていてね。特にニクスには」
「うん。やくそく」
「ありがとう。ハルちゃん。
さあ、起きてご飯を食べに行きましょう」
「うん」
私は身支度を整えて、ハルちゃんを連れて食卓に向かう。
今日も皆こたつの方にいるようだ。
「アルカ。食べたら行きますよ」
「わかったわ。待たせてゴメンね」
「いえ。私もさっき済ませたばかりですので」
昨晩の内に話し合って、今朝のセレネ対策会議は自宅で行うことになっていた。
私はハルちゃんと一緒に手早く朝食を済ませて、
先に食べ終わってのんびり寛いでいたニクスに近寄る。
「もうすぐ出発するわ。ニクスはもう準備できてる?」
「準備と言っても私には殆ど私物なんて無いよ?」
「それもそうね。早く買いに行きましょうね」
「そうだね。落ち着いたら連れて行ってね。楽しみにしてるんだから」
「うん!デートに着ていく服も選びましょうね!」
「う~ん。折角なら当日まで内緒にしたいな。
誰か代わりに一緒に行ってくれないかな」
「それなら、実質セレネ一択ね。
他の子達はまだ一人での買い物には慣れていないから」
「今、自然にノアを選択肢から外したね」
「だって服だもの。残念ながらノアちゃんは興味がないの」
「動きやすいのには興味がありますよ?
ニクスの好みから言えば、私が最適では?」
「ノアちゃん!?聞いてたの!?」
「ええ。私が選択肢から外されていたところも聞いていましたよ」
「別に悪気はないの!」
「わかってます。別に怒ってはいません。
ともかく、早めに移動しましょうか」
「わかったわ。ハルちゃんも良い?」
「うん。もんだいない」
私はハルちゃん、ノアちゃん、ニクスを連れて、自宅に転移した。
「また掃除が必要そうですね。
折角ですから、今日は話し合いが終わったら掃除もしていきましょう」
「わかったわ。いつもありがとう。ノアちゃん」
「いえ。気にしないでください。
好きでやっている事ですから」
「そういうわけにはいかないわ。
長く共に暮らしていくのなら、日々の感謝は大切よ」
「そうですね。私もいつもアルカに感謝していますよ。
一緒にいてくれてありがとうございます。
お陰で今も不安に押しつぶされたりしないで済んでいます」
「ノアちゃん・・・
セレネはどんな様子?」
「芳しくはありません。
少し話し合いは難航するかもしれません」
「そっか・・・」
「ともかく、それを前提に準備を進めましょう。
全力を尽くせばセレネもきっとわかってくれますから」
「うん。そうだね」
「ハルもきょうりょく」
「ハル。私達は極力口出ししてはダメだよ。
セレネが求めているのはアルカとノアの言葉だよ」
「わかった。ニクスいうとおり」
「それにしても、ハルは妙なことになっているね。
聖獣化した吸血鬼?でもなんか違う?」
「少なくとも神力は纏っていますね。
リヴィに近い状態なのはわかります」
「アルカが使徒だからね。ハルも半使徒くらいの力はありそうだよ」
「ともかく、ハルの状態は後でセレネも交えて調べましょう。そのためにもまずはセレネからです」
「うん」
私達は席について話し合いを始める。
セレネの不安を取り除く方法について、
私とノアちゃんが中心になって意見を出し合い、
ニクスとハルちゃんが問題点を指摘してくれた。
そうして、半日かけて計画を練り終えた。




