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20-16.空っぽ

 私はニクスを連れて自室に戻る。


 ニクスは食事の間、一度も喋ることは無かった。

セレネの手前、今日くらいはニクスと別室にするべきかとも思ったけれど、今の状態のニクスを放っては置けないと思い、結局連れて来る事にしたのだった。



 私はハルちゃんの眠る、自身のベットに腰掛けて、ニクスを膝の間に座らせる。

ニクスはその間もされるがままだった。

何の反応も返さないニクスが気になり、何と言うべきか考える。



 ニクスは何を考えているのだろう。

ニクスの雰囲気が大きく変わったのは、私がニクスよりノアちゃん達を優先すると宣言した事が最初のキッカケだ。

 ニクスはその宣言を撤回させようと食い下がり、その過程で段々と取り乱していった。


 そして、こうなった直接の原因は、皆で一緒にいるために共に頑張ろうと伝えた事だ。

それでニクスは泣き出してしまった。

 ニクスはこの期に及んで、私を側に置き続ける為に、自分の力だけで頑張ろうとしていた。


 どうしてそんな勘違いをしてしまうのだろう。

これまでに何度も、いつまでも一緒に生きていこうと、お互いに言い続けてきたはずだ。




 そうか。私達が口にしていたのはそれだけなんだ。

私はたった一度でも具体的な方法なんて聞いてもいない。

そのくせ、ニクスのやる事にはケチだけ付けてきた。

 確かに、ニクスのやることは過激だ。認め難い手段を取ることは多い。

けれど、それは共に頑張らない理由にはならない。

 私はニクスに全て押し付けるつもりなんて無かった。

そう思いながらも、自分から何かをすることも無かった。

 私にニクスの手段を咎める権利など無いのではないだろうか。

恩恵だけ受けて文句だけ言って、ニクスを嫌って憎んで。

その結果、全てを背負わせて、こうして落ち込ませて。




気付いたら、私は口を開いていた。



「ニクス。何か出来ることはない?」


「なんの話?」


「何でも良いわ。あなたが望むこと、困っていること、どんな事でも良いの。

 私はニクスが黙って動く事に否定的なことを言うばかりで、一緒になにかしようとはしなかった。

 そんなのダメよね。私はニクスと何時までも一緒に居たいと言いつつ、その努力をしてこなかったのよね。

 何で頼まないのなんて言いながら、私が頼らせようとなんてしていなかったのよね。

 ごめんなさい。許してください。

これからは、どうか私に力にならせてください。

私にあなたの隣にいる資格をください」


「アルカ・・・」


「もう泣かないで。ニクス。

あなたの孤独を知っていたのに今まで何もしなくてごめんね。

あまつさえ、嫌いになんてなってごめんね。

 もう私はあなたの事を憎いなんて思わないわ。

今までいっぱい虐めてごめんね。

 これからはあなたの夢を一緒に叶えさせて欲しいの。

あなたの重荷を一緒に背負わせて欲しいの」



「もう良いよ。もう止めて。これ以上泣かせないでよ。

私を喜ばせないでよ。私はいっぱい酷いことをしてきたの。優しくされる資格なんて無いの。

 そもそも、どうせまた喋りながら思いついたことを勢いのまま口にしているだけなんでしょ?

 私はアルカの心の中から何度もそんな姿を見てきたんだよ?

今更そんな空っぽの言葉で惑わさないでよ!」



私はまた泣き出してしまったニクスを抱きしめる。


「ごめんね。大丈夫だから。もう余計な事は言わないから。

もうニクスにも無理に話せなんて言わないから。

それでも、あなたの頑張りを私は知っているから。

 今まで一人で頑張ってきたんだものね。

これからは私達が一緒にいるからね」


「もうやめてよぉ!」


 私は口を閉じてニクスを抱きしめ続ける。

ニクスが泣き止むまで、長い事そうしていた。





 私はニクスを膝に乗せて、正面から抱きかかえる。

そして、私からは話しかけずに、優しく抱きしめ続ける。



「もう寝ようよ。何時までこうしているの?」


「ニクスの話したいことが無くなるまで」


「何にも話しなんて、してないよ?」


「何も無いのならそう言って。その時は一緒に寝ましょう」


「・・・」



 また暫く、沈黙が続く。



「アルカ」


「なに?ニクス」


「さっきは酷いこと言ってごめんね」


「なんのこと?」


「アルカの言葉は空っぽだって言ったこと」


「気にする必要なんて無いわ。

ニクスの言った事は事実だもの。

 私の言葉に重さがないのは間違いないの。

勢いで喋っていたのもそのとおりだわ。

 流石ニクスね。私の事を良くわかってくれてる。

とっても嬉しい」


「だから、そんな言い方はもう止めてってば。

元はと言えば、私がアルカに嫌われる事を望んだんだよ?

自分のやってきた事を責めてくれる人が欲しかったんだよ?

 私がこの世界の人々に酷いことをしてきたのは事実なの。

なのに、アルカはもう止めてしまうの?

もう私を責めてはくれないの?

私の為に私を嫌うのは嫌になってしまったの?」


「そうよ。もう嫌になってしまったの。

私の一言で何時までも落ち込んでいるあなたを見たら、

もう続けられなくなってしまったの」


「私の望むことをなんでもしてくれるんじゃなかったの?

ついさっきそう言ったのに、やっぱり嘘だったの?

 私の事を虐めるのが楽しかったんじゃないの?

もうあの強い気持は向けてくれないの?」


「それが本当にニクスの望みなら叶えてあげる。

けれど、あなたは嬉しかったのでしょう?

私が一緒に頑張ろうって言っただけで、

嬉しくて泣いてしまう程だったのでしょう?

 なら、そっちで良いじゃない。

もう嫌いでいる必要も無いじゃない。

 だって、あの数年間は辛くて苦しくて悲しかったけれど、

それでもニクスと過ごした日々なのよ?」


「アルカが私に向けてくれた感情は、

そんな簡単に消えるものではないはずだよ?

 今アルカはどんな気持ちで喋っているの?

あの憎しみと怒りをどうなったの?」


「今一番強い感情は焦りと不安よ。

このままではニクスが遠くに行ってしまうんじゃないかって不安なの。

だから、ニクスの心に本当の意味で近づきたいの。

 あなたも知っていたはずでしょ?

私の好きな人への執着心は大き過ぎるの。

怒りや憎しみなんて、その中の一部でしか無いの。

邪魔だと思えば簡単に消し飛ぶの。

 ニクスこそ私の心を何時までも振り回すのは止めてよ。

もう良いじゃない。一緒に仲良く暮らしましょうよ。

あなたの夢に必要な事ならいくらでも協力するから。

 本当に嫌っていて欲しいのなら、そう在り続けるから。

だからあなたが本当に望む事を言って欲しいの。

あなたが自罰的に欲したものでなく、

あなたが笑顔になるために欲したものを教えて欲しいの。

 こんどこそ、私と一緒に生きてくれない?

いえ、私達と一緒に生きて欲しいの」


「・・・ごめん。今日はもう寝よう」


「わかった・・・

明日はセレネの事もよろしくね」


「・・・うん。おやすみ」


「おやすみ。ニクス」

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