20-14.伝える努力
私は先程聞いたニクスの思惑について、
ノアちゃんとも話を続ける。
「それにしても、つくづくニクスって、
信用しちゃいけない存在よね。
ノアちゃんもそう思うでしょ?」
「アルカはそうならないでくださいね?」
「・・・藪蛇だったかしら」
「先程話していた、
ニクスの計画は正直理解しきれたとは言い難いですが、
アルカとセレネの繋がりはダメで、
私とセレネの繋がりは問題ないと考えている根拠はなんなのですか?」
「・・・言えない」
「まあ、そんな事だろうと思いましたけど。
私達の中にアムルがいる事が関係あるのでしょう?」
「・・・ハルに調べてもらって。
ハルならきっと少しはわかるから」
「まあ、良いでしょう」
「ハルちゃんは今消耗しているから明日お願いしてみるね」
「アルカはハルを道具だと言うのに、随分気遣うのですね」
「だから言っているじゃない。
私は変わっていないわ。
ノアちゃんを奴隷として購入したからって、
奴隷として扱った事なんて一度もないでしょう?」
「・・・そういう意味ですか。
もう少し言い方はどうにかならなかったのですか?
あれではそんな意図は読み取れません」
「ノアちゃんとセレネは少し私を信じな過ぎだと思うの。
信じられない理由はわかるけど、
少しは別の捉え方も想像してみて欲しいの」
「アルカ。
そうではないのです。
私達が信じられないと言っているのは、
アルカの想像しているような理由ではないのです」
「アルカがそうやって、
言わなくても察してくれという態度でいるから信じられないのです」
「私達は互いに努力するべきなんです。
互いに信じさせよう、信じようと言動に気を遣う事が必要なんです」
「アルカはニクスと心が繋がった事で、
その感覚に慣れてしまったせいで、
信じさせようとする事を疎かにし始めたのです」
「前はもっと言葉を尽くしてくれたはずです。
私達もアルカを心の底から信じていました。
いえ、この言い方は良くないですね。
今も信じてはいます。
少なくとも、アルカの気持ちは信じています」
「けれど、全ての言葉を鵜呑みには出来ないのです。
言葉通り信じてくれと言うのなら、
ハルを道具とする発言も矛盾してしまいますよ?
道具にするとは決めたけど、
道具として扱う気はないのでしょう?
そんな考えをあの状況のあの言葉から、
どうやって読み取るんですか?」
「ごめんなさい。
ノアちゃんの言うとおりです・・・
私は皆に甘えていたのね。
心が通じ合ったから、
どんな時でも無条件で伝わるんだって
思い違いをしていたのね」
「わかってくれたのなら何よりです。
その言葉は信じます」
「ありがとう。ノアちゃん。
私の気持ちを聞いてくれる?」
「はい。いくらでもお付き合いします。
私にアルカの全てを
言葉で、人間らしい手段で教えて下さい」
「うん。頑張る」
私はハルちゃんと出会ってからの心境をできる限り細かく思い出して、
少しずつ、ノアちゃんに伝えていく。
ノアちゃんは辛抱強く聞いていてくれた。
そうして、長い事話を続けながら、
私自身も、自分の気持ちを本当の意味で理解していった。
言葉にして、
誰かに聞いてもらって
初めて自分の本当の気持ちが理解できるんだと良くわかった。
「私はハルの事を認めます」
私の話を聞き終えたノアちゃんは、
最初にそう告げた。
「良いの?
条件はハルちゃん自身がノアちゃんに認めさせる事だったんじゃ」
「アルカの言葉からハルの事も十分に伝わってきました。
もちろん、アルカのハルへの気持ちもです。
それに対して私が納得したので問題在りません。
ですが、当然セレネとレーネは別です。
そちらは、ハルとアルカで頑張ってください。
望むのならお手伝い程度ならしてあげます」
「ありがとう。ノアちゃん。
けれど、手伝いはいらないわ。
二人で頑張るから見守っていてね」
「・・・その言い方は少し複雑ですね。
アルカは私がアルカのパートナーだと本当に理解しているのですか?
私はアルカの保護者ではありませんよ?」
「仰るとおりです・・・
すみません。もっと言葉に気を遣います」
「そうしてください」
「次はニクスの件です。
ニクスの目論見が少し判明しました。
私達の目指すべき方向とも一致するでしょう。
けれど、やり方に問題があります。
予定外の事態もあったのでしょうけど、
アルカの心に住み着いたのは悪手だったはずです。
ニクスはその辺をどう考えていますか?」
「・・・結果オーライ?」
「はあ~~~
あなたのうっかりは素でやっているのですか?
計算ずくなのですか?」
「・・・素です」
「そのうっかりでアルカを壊しかけた事についてはどう考えているのですか?」
「・・・最悪の事態に至る前に記憶をリセットして転生させようかなって」
「アルカ。やっぱりこれ敵ですよ?」
「うん。私もそう思う。
二度とそんな事を考えないようにちゃんと躾けておくわ」
「本当に効果あるんですか?
精神の強靭さと引き換えに、
成長性は失われているんじゃないんですか?」
「その疑念はもっともね。
ちゃんと治す方法を見つけてからだけど、
いっそニクスの心を完全に壊す方法を考えるべきかしら。
もっと丁寧にじっくり壊せば芯まで届くの?」
「それをしてどうする気なの!?
というかアルカの発想はどうなってるの!?
何で私にだけヤンデレになるの!?」
「ニクスを手放さない為に必要ならやむを得ないわ」
「意味がわからないよ!?」
「アルカも変な考えはやめてください。
ニクスの考え方は何となくわかりました。
いくら神の思考がズレているとはいえ、
こうして積み重ねていけばいずれは対策をとれます。
私達には時間だけはあるのですから。
一先ず対策は追々という事で」
「そうね。私も研究しておくわ」
「なんの!?」
「次はセレネの件です」




