20-13.禁断の果実
「アルカ。ダメです。
そんな方法、私は嫌です。
私はまだ、心は人でありたいんです。
そんな方法を使えば歪んでいきます。
少なくとも、私達には既にアルカが変わってしまったようにしか見えないんです。
セレネにまでそうなって欲しくないんです」
「アルカ。私も反対だよ。
最初に巻き込んだ私が言うのはおかしいと思うだろうけど、
それでも言わせてもらうよ」
「アルカ。人であることをやめてはだめだよ。
どれだけ体が変わってしまっても、
人の心を捨てたらダメなんだよ」
「私がそう在り続けている事をアルカもわかってくれたんだよ。
世界を見守り続ける機械のようになりたくないんだと、
私の心をそんな風に想像してくれたんだよ。
私は嬉しかったんだよ。
私の心を理解してくれて。
私の努力を想像してくれて。
だからアルカの側にい続けたいと思ったんだよ」
「なのに、そのアルカがセレネを変えようとするのはダメだよ。
どれだけ繋がっていたくても、
人の道から外れすぎてはダメなんだよ」
「ニクスは本当に勝手なことばかり言うのね。
あなたが全ての元凶なのに」
「そうだね。その通りだ。
私は何時でも自分勝手にアルカを振り回すだけだよ。
私がアルカを変えたのに、変わらないでって頼んでいるんだよ。
そんな事はわかっていて頼んでいるんだよ」
「そうしなければ、
アルカとずっと一緒にはいられないんだよ。
どんな理不尽が襲ってこようとも、
アルカに人の心を持ち続けていて欲しいんだよ。
そんな風に強くなって欲しいんだよ。
いつかアルカが私の心を飴細工って言ったみたいに、
薄っぺらでも良いから、上っ面だけでも良いから、
形を保つ努力をして欲しいんだよ」
「私は人々に災厄を与える神なんだよ。
アルカにとってどれだけ災難でも、
それは私にとっては贈り物なんだ。
いつか乗り越えて私の隣に立って欲しい。
アルカならそれが出来ると信じたんだよ。
だから私はアルカに災いを運び続けるんだよ」
「本当に酷い神様ね」
「そうだね」
「けれど、嬉しいわ。
やっとニクスが私に本当の事を話してくれたのね」
「そうだよ」
「理不尽よ」
「アルカなら大丈夫」
「ニクスだって私の変化を受け入れていたじゃない」
「まだ人間の範疇だもの」
「セレネとの繋がりは人間を外れてしまうの?」
「そうなるよ」
「セレネが私にとって誰よりも大切な存在だから?」
「それだけじゃない。
セレネとノアはアンカーなんだ。
アルカがどれだけ変わっても、
人から離れすぎない為の重しなんだ」
「ニクスが私の嫁が増えるのにも賛成なのはそれが目的なのね」
「そうだよ。
あの子達はアルカを少しでも人間に繋ぎ止める為の錨なんだよ」
「ニクスは本当になんでも利用するのね」
「そうだよ。
私は神だからね。
どれだけ人間の真似をしたって、根本は違うものなんだよ」
「ニクスは私をニクスにとっての錨にしたいの?」
「そうだよ。それもある。
そのためにもアルカには人間でいてもらわなければいけないの」
「私の事を利用したいだけなの?
愛してくれているのは嘘なの?」
「違うよ。私は本気でアルカを愛しているよ。
だからアルカを選んだんだよ。
それだけが目的なら、ノアやルネルの方が向いているんだよ」
「特別に心が強いわけでもないのに、
こんな手間暇かけて育てようとしているのはアルカだからだよ」
「随分な言い草ね」
「けど、本心だってわかるでしょ?」
「・・・ひとでなし」
「神だもの」
「どうしたものかしらね」
「納得いかない?」
「いえ。ニクスの想いは伝わったわ。
けれど、セレネと繋がりたい欲に抗えそうにないの。
セレネと繋がれば、
セレネを介してノアちゃんも変わってしまうのでしょう。
それがニクスの計画の破綻に繋がるのはよくわかったわ。
そして、私達の破滅に繋がる事もね」
「本当にどうしたら良いのかしら。
破滅に向かうとわかっていても、この果実は魅力的に過ぎるわ」
「禁断の果実を食べた二人は楽園を追放された。
アルカの世界の神話の話だよね。
きっと同じことになるよ。
私も皆まとめて追放するしかなくなると思う。
人から離れすぎてしまえば、
いつかこの世界に仇なす存在になるだろうからね」
「ニクスは本当に酷い神様だわ。
流石にあの神話の神様でも、
味見までさせてから耐えろとは言わなかったわよ?」
「私は唆す蛇でもあるからね」
「悪質すぎるわ」
「でもアルカなら耐えられるって信じているよ」
「どうせまだ隠し事はあるのでしょう?
こうやって手遅れになりそうな時までは黙っているつもりなのでしょう?」
「そうだよ。私の手口はよく知っているでしょ?」
「ニクスって本当に邪神なんじゃないの?」
「神の悪辣さなんてこんなもんだよ?
アルカの世界の神話でも似たようなものでしょ?
それと比べたら私はまだ可愛い方だと思うよ」
「・・・そうね。
そう言われてみると理解できなくもないわね。
ところでニクスって、」
「答えないよ」
「まだ聞いていないわ」
「何となく想像出来たもの」
「まあ、良いわ。
・・・ノアちゃん」
「はい」
「きっと私達が人で在り続けるには、
ノアちゃんが一番の要よ。
一番苦しむことになると思うわ。
それでも、私達を繋ぎ止め続けてくれる?」
「はい!望む所です!」




