20-11.理想の手段
「私とハルちゃんにはパスが繋がったわ。
ノアちゃんとセレネに近いものがね。
ただ、私達の場合は、私優位なものだけど」
「どういうつもりですか?
私達はまだハルを認めていないと言いましたよ?」
「これはそういうものではないわ。
ハルちゃんは私の下僕になったの。
私達がしたのは隷属の契約よ」
「そんなの屁理屈じゃない。
私達との約束を何だと思ってるの?」
「そうじゃないの。
私はハルちゃんを愛する為にあの契約に了承したのではないの。
セレネは道具を手に入れるのに、わざわざ私に確認するの?」
「アルカ!!!」
「アルカ。本当にどうしてしまったのですか?
今のアルカは本当に私達のアルカなのですか?
なぜハルの事を道具だなんて言えるのですか?
私達の事もそう思っているのですか?」
「私は何も変わっていないわ。
ノアちゃんとセレネの事をそんな風に思うことだってありえない。
けれど、ニクスとハルちゃんは別よ。
これはあの子達が望んだことだもの」
「私は泣いて嫌がったはずなんだけど」
「ニクス。もう立ち直ったの?
相変わらずの頑丈さね」
「ニクス。あなたはなにか知っていますか?
アルカは一体どうしてしまったんですか?」
「・・・ごめん。これは私のせい。
けれど、アルカがなにかの術でおかしくなったわけじゃないよ。
ただ開き直っただけ」
「つまりニクスがアルカを監禁したのがきっかけなのね?」
「そう。その時芽生えた歪みが表層化しただけ。
ハルはその対象に含まれただけ。
ノアとセレネに対しては何の影響もないよ。
これまでどおりね」
「・・・信じられません」
「アルカがニクスに酷い仕返しをしていたのは知っているけど、
なんでそこにハルが巻き込まれるのよ?
意味がわからないわ」
「ハルちゃんが望んだからよ。
隷属の契約を結んで欲しいと。
自分を道具として扱って欲しいと。
それが本心だと感じたから応えることにしたの」
「これは私の予測だけど、
ハルは元々そういう存在として生み出されているんだよ。
だからそう求めてしまうんだ」
「ハルの事も私のせいかも。
私がそんな話しをアルカにしたせいかも」
「意味がわからないってば!
もっとわかるように説明しなさいよ!」
「アルカに信念は無いのですか?
言われるがまま、相手が求めるままに応える気なのですか?」
「いいえ。
そんな事はしないわ。
ノアちゃんが同じことを求めたら拒絶するもの」
「私が本気で頼んでもですか?
それをアルカが信じても?」
「ええ。それでもノアちゃんとセレネを道具として見ることはありえないわ」
「ニクスとハルとは心が繋がったから絆されたんじゃないの?
とっくに私達なんかより、そっちの二人の方が好きなんじゃないの?」
「それはないわ」
「信じられない。
もうアルカの事なんて何も信じられない!」
「私もセレネと同意見です。
少なくとも、アルカは私達に自分の考えを真剣に伝える努力をしてくれていません。
そんな状態で信用するなど不可能です」
「そうね・・・
ハルちゃん。疲れてるところ悪いけどお願いできる?」
「何言って」
『アルカ。つたわってるよ』
『ノア、セレネ、きて』
私、ノアちゃん、セレネ、ニクスは、
ハルちゃんの力で私の心に潜り込む。
「今朝も似たような事を言ったでしょ。
私はノアちゃんとセレネを繋ぎ止めるためなら心くらい見せられるの」
「私まで引きずり込むとか、アルカの使い魔おかしいよ!」
「凄いでしょ。私のハルちゃんは」
「ここはアルカの心の中なのですか?」
「そう。ハルちゃんの力で連れてきて貰ったの」
「ここでどうする気なの?
ニクスがアルカにやったように、無理やり閉じ込めて繋ぎ止める気なの?」
「そんな事はしないし、意味がないわ。
あの時の私が狂いかけたのはセレネ達に会えなかったからだもの。
私達が揃ってここにいるのなら耐えられてしまうわ」
「そうではなく、私の想いを直接見てもらおうと思って。
言葉で説明するより、ずっと早いし納得できるでしょ?」
「アルカ。私が言っているのはそういう意味ではありません。
力に頼るなとルネルさんにも何度も言われてきたはずです。
勝てれば、気持ちが伝わればいいのではありません。
伝える努力を見せてくださいと言っているのです」
「そうね・・・
ノアちゃんの言い分は最もだわ。
けれどね、それは前提が間違っているわ。
ルネルの言う力に頼るなとは、あくまでも理想や信念の話よ。
命のかかった戦場で気にするべきことでは無いの。
私にとって、二人を失う事は命を失うのと同じことよ。
手段なんて選ぶわけがないでしょ?」
「アルカ。それではダメなんです。
その場は凌げても、いつかツケが回ってきます。
どんな時でも信念は持ち続けなければいけません。
たとえ、自分の命が失われる時であってもです」
「いざとなれば力に頼れば良いと思っていれば、
いつかはその油断に足元をすくわれます。
本当の意味で強くなることが出来ないんです。
私達の関係だって本当の強さを得る事は出来ないのです」
「・・・けれど、どれだけ言葉を重ねても伝えられない事はあるのよ」
「それでも努力を続けてください。
努力を放棄する言い訳にしないでください」
「言い訳なんかしなくても、
アルカの事が信じられなくても、
私達は絶対にアルカの側を離れません。
嫌いになんてなるわけがありません」
「アルカは私達が信じられませんか?
私達がアルカを信じなければ、
アルカは私達を信じてくれないのですか?」
「そんな言い方はズルいわ。
私だってノアちゃん達に信じてほしいのに」
「その為の手段は選んでください。
その代わり、私達も努力し続けます。
アルカに信じてもらえる存在で在り続けます」
「お互いにそうやって生きていくのが一番正しいはずです。
理想は目指さなければ意味がありません。
目指しもしなければ絶対に辿り着けません。
どれだけ難しくても目指す価値はあるはずです。
私はアルカと最高の関係でいたいのです」
「ハルちゃん」
『うん。わかった』
「何度もごめんね。
今度こそゆっくり休んでいてね」
『うん。きにしないで』
私達は現実に帰還した。




