20-8.多才
私は着物姿で一人、町を歩いていく。
ハルちゃんは今は私の中だ。
この着物は、昔何かの機会に着たのを大雑把に思い出しただけのものを、
ハルちゃんが周囲の人の服装を参考に、上手く細部まで作り込んでくれた。
少しだけ色味が派手な気はするけど、
とりあえず溶け込めていそうだ。
早くハルちゃんの分の着物も買って着せてみたい。
ハルちゃんの綺麗な黒髪には良く似合うはずだ。
それにやっぱり一緒に歩きたい。
抱っこしたい。
そうして、
何とか貨幣を用立てて、
その時に教えてもらった服屋を目指す。
ニクスの言った通り、
私の人見知りは完全に治っていたわけではないようだ。
お陰でここまでにずいぶんと手間取ってしまった。
ちくせう・・・
苦労してようやく到着した服屋で私は肩を落とした。
新品の着物ってすぐに買えないのね・・・
どうやら、着物の店売りはしていないらしい。
何か、反物?、生地だけ売っていて、
それを仕立てる必要があるそうだ。
特注しか無いってこと?
詳しく話を聞くと、
少し離れた所にある大きな町では、
着物の状態で店頭販売をしている店もあるそうだ。
一応この町でも、古着なら売っている場所があるという。
とりあえず、その店の場所を聞いて退散する。
けれど、折角なら新品で欲しい。
この世界基準で言えば贅沢過ぎるのだろうけど、
どうせこの国を拠点にすることも無いので、
何着も着物を買うことは無いだろうしね。
そんなこんなで、
もう少しこの町を見て回ってから、
大きな町を目指すことにして歩き出した。
『アルカ』
『ついて』
『きてる』
『え!?』
『アルカ』
『ねらって』
『る』
『さんにん』
『きてる』
『う~ん。
何でかしら』
『あくい』
『ない』
『けいかい』
『してる』
『けいび』
『かも』
『この町を警備している人達が私を怪しんでついてきてるってことね。
じゃあ、もう大きな町とやらに移動してしまいましょう』
『うん』
『教えてくれてありがとう。ハルちゃん』
『ふへ』
ちょっと油断しすぎた。
覚視を使っていれば気付いただろうに。
この町になら私に敵意を持つ相手なんかいないと思ってた。
魔物の素材を貨幣に換えたときにでも怪しまれたのかしら。
私はまた、人目のない所に入り込み、
町から離れた上空に転移する。
そして、大きな町があるという方角に飛び立った。
『あった』
ハルちゃんの示す方向に進路を調整して向かっていく。
『ハルちゃんはどうやって、
そこまでの広範囲を探知しているの?
術の制御技術だけの問題じゃなくて、
そんな広範囲の情報を処理しきれるのが不思議なの』
『れんしゅ』
『ある』
『のみ』
『すこし』
『ずつ』
『ひろげる』
『なるほど。
やっぱりハルちゃんはすっごく頑張ってきたのね。
凄いわ!ハルちゃん!』
『ふへ』
『ハルちゃん!お城があるわ!』
『うん』
『ひと』
『いっぱい』
『今度は町全体が堀で囲わてるわね』
城壁の代わりが塀だけなのだろうか。
いくら江戸時代の町並みに似ているとは言え、
魔物のいる世界だと考えれば手薄に感じる。
一応、橋は警備されているようだけど。
この辺りの魔物はどの様な生態なのだろうか。
私達の住む大陸では、殆ど町に近づく魔物などいない。
いたとしても、精々ダンジョンから溢れたばかりの魔物くらいだ。
その程度には、魔物と人間が棲み分けられている。
とはいえ、それはギルドが長い時間をかけて今の状況を作り上げたからだ。
何度も何度も、町を襲う魔物たちを退けてきたからだ。
現代でも殆どの大きな都市が城壁都市ではあるけど、
もはや壁がなくとも魔物など襲ってこないだろう。
一応、この島国にはギルドは進出していないはずだ。
きっと、この国の人々も同じように撃退してきたのだろう。
壁など作らなくとも守りきれるだけの力があるのだろう。
『町に入る時に面倒があっても嫌だから、
このまま町の中に転移してしまいましょうか』
『うん』
『まかせて』
『ひと』
『いない』
『とこ』
『てんい』
『する』
『ありがとう!お願いね!ハルちゃん!』
『うん』
ハルちゃんの発動した転移で私は町の中に侵入する。
今度は自分でも覚視を使って周囲の探索を行う。
『これ』
『も』
『ハル』
『てつだう』
『これって覚視のこと?』
『そう』
『もっと』
『しょり』
『できる』
『本当にハルちゃんって多才なのね。
これもお母さんから教わったの?』
『ちがう』
『アルカ』
『きおく』
『みて』
『おぼえた』
『・・・凄いわね』




