19-15.せかいをこえて
私は腕の中で眠るハルちゃんを眺めながら、
心の中でニクスに問う。
『ニクス。私はもう、
ハルちゃんを警戒するのは無理だわ』
『うん。知ってる。
全部見てたよ。
アルカの心の中も含めてね』
『ニクスはどう思ってるの?』
『私の考えは変わってないよ。
ハルは魔物。アルカは大切な人。
それだけだよ』
『そっか・・・』
『大丈夫。仲良くすることに反対しているわけじゃないよ。
それに、ハルが想像以上に思慮深いのだろうとも思ってるの。
少なくとも、精神性が魔物より人間に近い事には同意するよ』
『ニクス・・・』
『吸血鬼は強大な力と高い知性を持つ魔物なの。
普通は相応に傲慢になるものなんだよ。
けれどハルは違うみたい。
もしかしたら、誰かが意図的に、
ダンジョンコアを使ってそう生み出したのかもしれないね。
人間に従順な存在にするために』
『誰かってまさか・・・』
『そう。ハルのお母さんだよ。
つまり、彼女はダンジョンコアの制御技術を持っていたのかもしれないね。
ドワーフが作り出したあの魔道具を使っていたのかもしれないよ』
『ニクスは、ハルが生まれたのは、
あの組織が関わっているかもしれないと思うの?』
『可能性はあると思うよ』
『ニクスはその組織の事は見てなかったの?』
『私はその間、殆ど引き籠もっていたし、
そもそも全知全能じゃないの。
私が見ようと思ったことしか見れないんだよ』
『そうよね・・・
そこまで万能なら、
アムルや魔王もあんな目に合わなかったものね』
『アルカ、急に私の心を抉りにきたね』
『ごめんなさい!
今のはそういう意味じゃないの!』
『冗談だよ。
それに、私の力が及ばなかったからアムル達を苦しめたんだ。
その罪から逃げるつもりなんてないよ』
『ニクス・・・』
『ともかく、ハルの事は私が警戒するから、
アルカは好きにして良いからね』
『いつもありがとう。
愛してるわ。ニクス』
『じゃあ、少しだけご褒美頂戴』
私は心の中に取り込まれる。
「良いの?」
「今のアルカならそんな気分にはならないでしょ?
やりすぎないでくれるって信じてるよ」
「じゃあ、期待には応えないとね」
私はニクスを優しく抱きしめて、
ついばむように何度もキスをする。
「とっても優しいキス。
これ大好き。アルカ」
「手加減は学んだもの」
「今レーネとの話しをするのは関心しないよ」
「ごめんね。今はニクスだけよ」
「もっとして」
私とニクスはキスを繰り返す。
『アルカ』
『ニクス』
『なかよし』
突然、どこからかハルちゃんの声が聞こえてくる。
「ハル。覗き見はダメだよ」
『ごめん』
『なさい』
「ハルならもしかしたら」
ニクスがそうつぶやくと、
私達の隣にハルちゃんが現れた。
「ニクス」
「すごい」
「ふっふーん!なんたって神様だからね!
それよりハルの方が凄いよ!正直驚いたよ!」
「え?え!!?」
「ニクス」
「ハル」
「いれた」
「アルカ」
「こころ」
「なか」
「ニクス!?何で!?どうして!?」
「ハルはアルカの精神が引きずり込まれたのに気付いて、
後をつけてきたの」
「みて」
「ごめん」
「なさい」
「きに」
「なって」
「何をどうやったらそんな事ができるのかわからないけど、
ハルちゃんってやっぱり凄いのね」
「ここ」
「いかい」
「だから」
「できた」
「いかい?」
「この場所はアルカの心の中であると同時に、
固有の世界でもあるの。
前に、アルカに禁じたのは別の世界へ干渉する力だったからだよ」
「でも感情ぶつけたり遮断したりは禁止されてないわよね?」
「感情をぶつけるのは、あくまでもアルカの心の操作だからね。
この世界は別の世界であると同時にアルカの心でもあるんだよ。
そして遮断の方は、あくまでも念話の妨害だよ。
この世界を閉じたりしたわけじゃないの」
「よくわからないけど・・・
でも良いの?
そんなのニクスが話してはいけない事なんじゃないの?」
「この場には自力で理解してる子がいるから大丈夫だよ」
「ハルちゃんが?」
「そう。
この子は自分の力でここまで辿り着けた。
厳密には、私は入る許可をあげただけなの」
「えっと、わかりやすく言い換えると、
扉の前まで来て、
開ける方法までは自分で見つけたのだけど、
パスワードがわからなかったの。
だから扉越しに聞き耳を立てて、
話しかけてきたの」
「それで、私がパスワードを教えてあげたの。
ハルが凄いって言ったのは、
ハルが唯一突破できなかった障害のヒントを私があげたからだよ。
少なくとも、ハルはそこまで正確に理解していた。
能力で無理やりこじ開けたアルカとは違ってね」
「ハルちゃんが何をやったのかは、
なんとなくわかったけど、
なんでそれで話して良いことになるの?」
「そこはまだ正確には伝えられないのだけど、
要点だけ言うなら、ハルがまだ無事だから。
ハルがやった事は、
本来あの世界の住人にできることではないの。
正直、私も何でハルにそんな事ができるのかはわからない」
「その上で、私が話せたのは、
私が話すのもハルが話すのも変わらないから。
要は抜け穴ってやつだね」
「???
ごめん。ちょっと良くわからない」
「アルカ」
「ハル」
「すごい」
「がんばった」
「せかい」
「こえて」
「おいかけ」
「た」
「まあ、頑張ってどうにかなる問題じゃないんだけどね」
「とにかく、
ハルちゃんが凄いのだけはわかったわ!
流石!私のハルちゃんね!」
私はハルちゃんを抱きしめる。
「ふへ」




