19-14.ひとり
私はハルちゃんを連れて自室に戻る。
ベットに腰掛けて、
膝の間にハルちゃんを座らせて、
魔法で温風をあてながら、髪を梳いていく。
「これ」
「きもち」
「すき」
「でっしょ~
皆にも大人気なんだから!」
「ハル」
「ひとり」
「わるい」
「ハルちゃんが独り占めしてたら皆に悪いかもって?
大丈夫よ~。皆優しいから。
今日はハルちゃんに譲ってくれているの。
皆、良い子たちだったでしょ?」
「うん」
「みんな」
「すき」
「良かった!
そう言ってくれて嬉しいわ!
明日から少しずつ皆ともお話してみましょうね!」
「うん」
「がんばる」
「ふふ。
でも、今日はあと少しだけ、
私だけのハルちゃんでいてね?
私もハルちゃんだけのアルカでいるからね」
「うれし」
「ハルちゃん可愛い!」
「アルカ」
「くすぐった」
「ハルちゃんはくすぐったがり屋さんなのね~」
「けど」
「もっと」
「ぎゅ」
「して」
「うん!全力で抱きしめちゃうわ!」
ハルちゃんは人間と違って頑丈な体だ。
私が本気で全力を出しても喜んでくれるくらいだ。
逆に程々の力だとくすぐったく感じてしまうのだろう。
私はハルちゃんを抱きしめながら囁きかける。
「ハルちゃんのママはとっても良い人だったのね。
ハルちゃんが人を大好きなのも、
こんなに優しい子なのも、
きっとママがいっぱい優しくしてくれたからなのね」
「そう」
「ママ」
「やさし」
「かった」
「いっぱい」
「おしえて」
「くれた」
「にんげん」
「の」
「こと」
「こう」
「して」
「ぎゅ」
「も」
「して」
「くれた」
「そっかぁ~
私も負けないくらい、ぎゅってしちゃおう!」
「ふふ」
「なら」
「いっぱい」
「して」
「うん!
ハルちゃんあのね」
「うん」
「私は人間だけど普通の人間とはちょっと違うの」
「うん」
「アルカ」
「つよい」
「すごく」
「うん。それだけじゃなくてね。
何時までも永遠に生き続けるの」
「?」
「ハルちゃんより長生きなのよ」
「アルカ」
「おばあちゃ」
「なの?」
「ううん。今は殆ど見た目通りの年齢なんだけど、
ちょっと前に、魔法で寿命を失くしちゃったの」
「・・・」
「アルカ」
「わるい」
「こ」
「そうだね。
私もそう思ってる。
けど、どうしても皆とずっと生きていたかったの。
ノアちゃんとセレネも同じ魔法がかかってるし、
きっとレーネもアリアもルカもリヴィも
同じ魔法をかけちゃうの」
「・・・」
「つらい」
「よ」
「うん。本当はハルちゃんにこんな話しをするのはダメかなって思ったんだけど、
それでも言いたかったの」
「ハルちゃんの事を見ていて、
ハルちゃんはとっても寂しがり屋さんなんだなって思ったの。
ずっと私から離れなかったし、
ママの事もいっぱい大好きだった。
だからどうしても伝えたかったの」
「ハルちゃん。
私達はずっと一緒にいるからね。
先に死んじゃったりしないから。
だから。安心して?
いつまでも、皆で仲良く暮らしましょう?」
「・・・」
ハルちゃんの目尻から涙があふれる。
深い綺麗な真紅の瞳が潤んでいく。
「だめ」
「だよ」
「わるい」
「こ」
「だよ」
「そうだね。
もう何度も叱られてしまったわ」
「そう」
「だよ」
「だめ」
「だから」
「うん。けれど、
ハルちゃんは今までずっと一人ぼっちだったのでしょう?
ママとお別れして寂しかったのでしょう?
これからは私達が一緒にいてあげるから。
寂しくないようにしてあげるから。
だから、ハルちゃんもずっと一緒にいてくれる?
私達が寂しくないように側にいてくれる?」
「・・・」
「ひどい」
「よ」
「そんな」
「いま」
「さら」
「なんで」
「もっと」
「はやく」
「きて」
「くれ」
「なかったの」
「さみし」
「かった」
「のに」
「ずっと」
「さみし」
「なのに」
「ごめんね。ハルちゃん。
遅くなっちゃったね。
もう絶対一人にさせないからね」
「アルカぁ」
「ばかぁ」
私は泣き出してしまったハルちゃんを抱きしめる。
やっぱり、ハルちゃんは優しい子だ。
きっと町の近くに来てしまったのも、
寂しかったからなんだと思う。
静かに眠っていたかったはずなのに、
同時に静かすぎるのも嫌だったのだ。
我慢しきれなくなってしまったのだ。
ハルちゃんの精神は何故か人間に近すぎた。
元々そうだったのか、
ハルちゃんのお母さんがそうしたのかはわからないけど。
きっと、ダンジョンコアで生み出した魔物ではダメだったのだ。
ハルちゃんは魔物の感覚とは違いすぎたのだ。
かと言って、優しいハルちゃんは町で暮らすことも選べなかったのだろう。
もしかしたら、試してみた事もあるのかもしれない。
けれど、今の様子を見る限り、
きっと上手くいかなかったのだろう。
そうして、一人きりで生きてきたのだろう。
きっと、お母さんが亡くなってから、
何百年もそうして生きてきたのだろう。
眠るのが好きなのも、
寂しさを紛らわせるためだったのかもしれない。
今日見ていただけでも、
そんな風に感じる。
最初、ハルちゃんはアリアにすら怯えていた。
とんでもない強さを持っているのに、
アリアを害することもなく、
ただ震えて縮こまっていたのだ。
なのに、
今では皆が好きだとまで言っている。
たった半日程度で心を開いてくれた。
きっと、ハルちゃんは優しい子だ。
寂しくて怖くてたまらなくても、
一人で頑張って耐えてきたのだ。
ハルちゃんの力なら、
人間を攫うことだって簡単に出来たはずなのに。
あの怯え方を見れば、
そんな事は絶対にしていないと確信できる。
別の生き物に変身して近づく事すらしなかったのだろう。
そんな優しいハルちゃんをもう絶対に一人になんてしない。
私達がずっと側にいるから。
こうして、何時でも抱きしめてあげるから。
これからよろしくね。ハルちゃん。




