19-10.懸念
私はハルちゃんと二人きりで自室に移動する。
折角娘達と触れ合える機会だけど、
もう少しだけ我慢しよう。
私はハルちゃんを膝に乗せたまま、
自室にも設置したこたつに潜り込む。
「ハルちゃんはご飯って食べれられるの?
お肉とか野菜とか」
「うん」
「血も欲しかったら何時でも言ってね」
「いいの?」
「うん」
「ほしい」
「はいどうぞ」
私はまた指を差し出す。
「アルカおいし」
そう言ってからハルちゃんは私の指を咥え込む。
また、先程も感じた気持ちよさに浸りながら、
ハルちゃんを抱きしめる腕に力を込める。
「ふふ」
「くすぐったい」
「ごめんね!
これで大丈夫?」
「うん」
また指に意識を集中するハルちゃん。
『胃袋から掴んだね』
『私の血を気に入ってくれてなによりね』
『そっちだけじゃなくて』
『?』
『それより、血を飲ませるのは程々にね?
アルカは忘れているけど、その子は魔物だよ?
しかも、きっと長い時を生きている上に、
一魔物としては不自然な程に強大な力も持ってる。
しかもどういうわけか、研鑽すら積んでいた。
アルカの力に屈服したとは言え、
その力でやりすぎてしまう事もあるかもだからね』
『大丈夫よ。この子は良い子だもの』
『けれど、常識のズレはあるはずだから。
少なくとも、人間の世情には疎いはずだよ。
だから今回、アルカに捕まってしまったのだし』
『今までバレなかったという事は、
もっと慎重に行動していたはずだよ。
転移もあるのだから、
わざわざ町の近くにダンジョンを設置する意味がない』
『それがどうしてか、迂闊な行動で騒ぎを起こした。
偶然アルカの側で起きたからこの程度で済んだけど、
最悪ギルドが本気で攻め込む事だってあったかもしれない』
『例え、その前にハルが逃げたって、
世界中でそんな事を繰り返していれば、
何れは知れ渡っていたはずだ』
『だから注意して。
迂闊だったのか、
やむを得ない事情でもあったのかは知らないけど、
何かがズレているのは間違いないよ』
『うん。気をつける。
ありがとう。ニクス。
まさかハルちゃんの事をそこまで気にしてくれるとは思わなかったわ』
『アルカが油断しすぎだからだよ。
良く知りもしない強大な力を持った魔物なんて家族に迎え入れるんだもの。
アリア達に何かあったらアルカの心が壊れてしまうよ?』
『ニクスが何を気にしてくれているのかはよくわかったわ。
ありがとう。気をつけるようにする』
『ハルがアルカに心酔しても気を抜いちゃだめだよ。
私がアルカに何をしたか考えれば、
強い好意にも気を付けなきゃいけないのはわかるでしょ?』
『つまり、ハルちゃんが私を好きになりすぎて
独り占めにするために暴走する可能性も考えておけってことね』
『そう。そういう事だよ。
勿論、何がキッカケで敵対するかもわからないって懸念もあるし、
うっかり力加減を間違えてしまう可能性だってある。
何度も言うけど、人の世界に疎い魔物だもの。
どこに危険が潜んでいるのか、わからないんだからね』
『そうね。目を離さないようにするわ。
ハルちゃんの事をよく知れるまで、
過剰に力をあげないようにもする。
それで良い?』
『まあ、今はそれで良しとするよ。
何かありそうなら私も口を出すからね』
『お願いね。頼りにしてるわ。
私のニクス』
『任せておいて。
私のアルカの為だもの』
ハルちゃんが私の指から口を離す。
「もう良いの?」
「うん」
「おなか」
「いっぱい」
「そっか。満足してくれて良かった」
「ありがと」
「うん!
ハルちゃんは他にも好きなものはあるの?」
「ねる」
「他には?」
「アルカ」
「ふふ。ありがとう。
あとは?」
「ママ」
「ママとは何して過ごしていたの?」
「ねる」
「こうやって抱っこしてもらって寝てたの?」
「うん」
「やわらか」
「あったか」
「すき」
「じゃあもう少し寝る?」
「うん」
ハルちゃんは私に寄りかかってまた眠り始めた。




