19-8.報告
私は一度自宅に転移して、
ギルドに向かおうとした所で、ノアちゃんに引き止められた。
「アルカ。ハルの事を話すのは止めておきませんか?」
「どうしてそう思ったの?」
「大したメリットがありません。
精々、そんな事があったから注意してねという程度です」
「そもそもニクスも言っていたとおり、
ダンジョンボスがダンジョンを支配する等、
普通はあり得ない事です」
「そして、そんな存在を知ったからと言って、
その後はどうするのですか?」
「一体どこがまともにそんな存在の相手を出来るのですか?
ハルの事を止められる国がありますか?」
「知った所で対処方法が存在しないのなら意味がありません。
逆に、ハルのように平穏を望んでいる存在と敵対するきっかけにすらなるかもしれません」
「デメリットの方が遥かに多いのです」
「ハルの事が知られれば、
ハルを狙う者も出てくるかもしれません」
「ハルがアルカと共にあるという事は、
アルカがダンジョンを支配したと認識される事にもなります。
本部がそう認識すれば、
よりアルカの事を危険視するはずです」
「そのような情報を無意味に伝えるべきでは無いと思います。
ハルの事は近くの森で保護した事にでもしませんか?
幸い、見た目は完全に人間です。
魔物とは言え、普通の人に区別がつくものではありません。
どうですか?アルカ」
「そうね・・・」
『ノアの言う通りだよ。
どうしても報告したい理由なんて無いでしょ?
ただ、アルカは隠したくないだけ。
あのギルド長達に対して不必要に隠し事をしたくないだけ。
ハル自身を知った上で認めてもらう為に、すべて明かしたいだけ。
そんなものはアルカの我儘だよ?
無意味に他人を巻き込んだらダメだよ?
知る事で危険に近づく事だってあるんだから』
「アルカ」
「だいじょうぶ」
「ノア」
「ただしい」
「ハル」
「しられる」
「いや」
「ハルちゃん・・・
わかった。
ノアちゃんありがとう。
ノアちゃんの提案通りにしよう」
「報告するのは依頼が無事に達成出来た事と、
ダンジョンは消滅した事。
それで、ハルちゃんの事は・・・
森で保護して家族に迎えた事にしましょう。
そしたらもう少し設定を詰めておいた方が良いかしら」
「そうですね。
存在しない本当の家族探しに本気になられても困りますから」
「記憶喪失って事にでもしておく?
けれど、ハルちゃんの今の格好じゃどこかのお貴族様って思われちゃうわよね」
「アルカが着せた事にすれば良いじゃないですか。
なんなら先に服を買いに行ってもいいですし」
「ハルちゃんはそれで良い?」
「うん」
「だまってる」
「そうね。悪いけど、
ハルちゃんには何も話さないでいてもらいましょうか」
「うん」
「いい」
「ごめんね。
ありがとう。ハルちゃん」
「うん」
「ルスケアでも目撃されているし、
とりあえず、この格好のままギルドに行きましょう。
その後、色々お買い物にも行きましょうね」
「いや」
「お買い物嫌?」
「うん」
「お洋服買ってあげるよ?」
「いらない」
「そっかぁ~」
「アルカが行きたいだけでしょ。
もう、良いから早く報告を済ませましょう。
買い物はハルともっと仲良くなってからにしてください」
「デートする前に好感度を稼がなきゃね」
「何を言ってるんですか?」
「すみません。冗談です」
それからようやく出発し、
ギルドに報告に向かった。
いつもの部屋で、ギルド長達と向かい合う。
「話はわかった。
それにしても、えらく懐かれたもんだな。
流石あれだけの人数を囲っているだけの事はある」
「囲ってるとか人聞きの悪いこと言わないで!」
「間違ってないでしょう?」
「ノアちゃんまで!?」
「アルカ。わかってるんでしょうね」
「お姉ちゃん怖い・・・」
「エイミーさん。
先に謝っておきます。すみません」
「ノアちゃん・・・
あなた本当にそれで良いの?」
「良くは無いですけど、
アルカの全てを許せるようになりたいとは思ってます」
「ノアちゃん!!」
「アルカ・・・
そこは感動するところではないわ。
ノアちゃんを歪めてしまった自覚は無いの?」
「すみません・・・
仰るとおりです・・・」
「お前らもう止めておけ。
こんな小さな子どもの前でする話じゃない」
「「「はい」」」
「ともかく、報告は以上よ。
今日はもう帰るから」
「わかった。
こっちは今はもう大丈夫だ。
明日からはテッサの方に専念してくれ」
「う~ん、テッサもそう言ってるのよね。
活動場所を増やすべきかしら」
「いや、この一ヶ月近くよく働いた。
暫く休んだらどうだ?
その子の事もあるだろう?」
「そうね。じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。
娘達とも会いたいし、
ハルちゃんとももっと仲良くなりたいから」
「そうしてくれ」
「じゃあ帰りましょう。アルカ」
「うん!」




