19-7.まっくろ
私はハルちゃんに頼んで、
転移トラップの先にある砂漠に来た。
驚いたことに、ハルちゃん自身も転移魔法が使えるようだ。
ハルちゃんは私の頼みを聞くと、
最初にダンジョンコアを回収して、
コアの力でダンジョンを消し去った。
次にコアを自身の収納空間にしまってから、
私達と一緒にここまで転移してきたのだ。
思っていた以上にこの子は強かった。
単純な力の総量だけでなく、
高い技術を持っていたのだ。
多分、空間魔法だけなら私より練度が上だ。
本当に戦う意思がなくて良かった。
この子の力なら万が一もあっただろう。
空間魔法は多少の力の差を無視できる程、強力なものだ。
私はともかく、ノアちゃんかセレネには何かあったかもしれない。
というか、完全にダンジョンを支配下に置いてるのね・・・
なんか持ち運びできる家くらいの扱いだ。
この様子だと、コアが破壊されても影響なさそうね。
世界には他にもこんなダンジョンボスがいるのだろうか。
戦意を持っているならとんでもない脅威になるだろう。
一応その辺りも踏まえてギルド長には報告しておこう。
本部への報告も良い感じになんとかしてくれるだろう。
『雑に投げ過ぎじゃない?
そんなんだから会う度に小言言われるんだよ?』
『仕方ないじゃない。
ハルちゃんについて全部の情報を本部にまで流すわけにはいかないもの』
『もう少しこっちでも筋道考えてあげたら良いのに』
『そんなの専門家に任せましょう』
『割とアルカの個人的な事情が大きいんだけど。
向こうからしたら、余計なことは考えず、
ダンジョンごと消し去ってくれって思ってるはずだよ』
『お父さんなら文句は言いつつなんとかしてくれるわ』
『エイミーと言い、アルカの保護者は不憫だよ』
『元を正せばニクスが私を異世界から呼んだせいじゃない』
『それを言われるとグウの音もでないけど』
「アルカ」
「いた」
ハルちゃんは広域探索も出来るようだ。
救助対象を見つけてくれたらしい。
ハルちゃんの転移で、
救助対象の元に向かう。
最初の一団は全員倒れていたが、
一応、まだ息はあるようだ。
もう少し遅ければ危なかった。
ハルちゃんと私とノアちゃんで一箇所に集めて、
セレネが応急処置を施していく。
今度は全員を連れて、ルスケアのギルドに転移する。
事前に打ち合わせていたので、
スムーズに救護担当が診てくれた。
私達はまた砂漠に戻り、
同じ事を何度か繰り返す。
そうして、全ての任務を完了した。
ルスケアのギルドにはダンジョンの消滅と、
救助対象の確保完了を報告して退散した。
一先ず、ハルちゃんの事はこっちには言わないつもりだ。
『今回の事は思わぬ副産物だよ!
アルカの起こした奇跡はまた話題になる!
これで益々ルスケアがアルカへの信仰で染まるんだ!』
何かニクスが興奮してる・・・
ニクスは私の信仰を集めてどうする気なのだろう。
新しい教会でも立ち上げるつもりなのだろうか。
え?もう出来てるの?
・・・聞かなかった事にしよう。
その後は、
ピレウスのギルド長に報告に行く前に別荘に転移した。
「まっくろ!」
ハルちゃんを見たアリアの第一声は見たまんまだった。
ハルちゃんは長い黒髪に真っ黒なドレス姿だ。
今は私が抱き抱えているうえに、
私の肩に額をくっつけるようにして抱きついているので、
ハルちゃんの後ろ姿は黒い塊に見えることだろう。
「ハルちゃん。少しだけ挨拶できる?」
無言で首を横に振るハルちゃん。
仕方が無い。
ちゃんとした紹介は後で改めてする事にしよう。
「皆~
今日から新しい家族が増えるの。
ハルちゃんっていうのよ。
仲良くしてあげてね!」
「「「「は~い!」」」」
お留守番組の元気な返事が響き渡る。
「ノアちゃん、セレネ、
これからまたピレウスの方のギルドに行ってくるから、
皆の事よろしくね」
「いえ、私も行きます。
セレネ。後は頼みました」
「そうね。アルカの説明だけじゃ、
きっとギルド長が可哀想な事になるものね。
ノアそっちは頼んだわ。
こっちは私に任せて行って頂戴」
「信用ないなぁ・・・」
『さっき自分で考えた事をもう忘れたの?』




