19-3.ダンジョンボス?
「気配はあの中です。
おそらくコアもあります」
そう言って、棺桶を指差すノアちゃん。
何で部屋の中に?
吸血鬼?
「ここから吹き飛ばしても良いのかしら」
「まだ救助が残ってるでしょ。
ダンジョンを消すのはマズイわ」
「それもそうね。
というか、何でダンジョンコアがあんな所に?
普通は台座とかに乗ってるじゃない」
「流石にそこまで・・・
!気配が変わりました。
これは・・・怯え?」
「え?」
「何かがその棺の中で怯えています」
「何で突然?」
「ニクスの邪悪な気配を感じたのかも」
『まだ言うか!』
「ともかく開けてみるわ。
また転移させられたら困るから、
私が行くわね」
「お願いします」
「アルカも油断しないで」
「うん」
私は慎重に棺に近づいていく。
『この棺、完全じゃ無いけど固有の空間を形成してる。
用心して』
『道理で私では気配を感じないわけね。
こんな近くに寄っても中のことがまるでわからないわ』
『漏れ出ているのはほんの少しだからね。
きっとこの中にいる存在はかなり強いよ』
『なんか怯えてるらしいけど』
『なんでノアはそんな事までわかるの?
私ですら近寄らなきゃ詳細はわからなかったのに』
『ルネルの愛弟子だもの』
『そう言われたら納得できる・・・』
『ともかく開けるわよ。
ニクスも何かあればすぐに教えてね』
『がってん!』
私は棺の蓋に手をかける。
そうして横にずらすようにして、中を覗き込む。
『展開が読めたよ』
『奇遇ね。ノアちゃん達になんて言おうかしら』
棺の中に入っていたのは黒髪の幼女だ。
ダンジョンコアを抱きしめて震えている。
「アルカ!大丈夫ですか!?」
中を覗き込んで、何時までもフリーズしていた私にノアちゃんが声をかける。
「大丈夫!ちょっと待ってて!」
私の声に反応して、
黒髪幼女の肩がビクッと動く。
完全にビビられているようだ。
この子、ダンジョンボスじゃないの?
気配は魔物のそれだ。
しかもかなり強大なものだ。
コアを抱えているという事は、
コアを守る番人でもあるのだろう。
流石に、抱き枕に丁度良かったからなんて理由では無いはずだ。
ところで、このダンジョンに他の魔物がいないのは、
まさか、この子一人にリソース注ぎ込んだからじゃないわよね。
この子には、そう思えてしまうほどの力を感じる。
どうしよう・・・
流石に攻撃するのは躊躇われる。
何で私ダンジョンボスに怯えられてるの?
これ、依頼どうしたら良いのよ・・・
当然、コアを破壊すればこの子も消滅するだろう。
一応、コアと引き離してダンジョン外に連れ出せば回避できるけど、
流石にダンジョンボスを野放しにするわけにもいかないだろう。
ビビリとはいえ、
強大な力を持つ魔物である事は間違いない。
意を決して、黒髪幼女に話しかける。
「あなた喋れる?」
「すこし」
ギリギリ聞こえる掠れ声で返事が返ってくる。
人の姿をしているならもしかしたらと思ったけど、
まさか本当に返事があるとは・・・
「安心して。
無理に討伐したりしないわ。
戦意の無い者に襲いかかったりしないから。
だから、少しだけ話をさせてくれる?」
「ころさない?」
「ええ。私はアルカって言うの。
あなたはどうしてそんなに怯えているの?」
「・・・ハル」
「はる?」
「アルカ」
私を指して名前を呼ぶ幼女。
「ハル」
自分を指して言う。
「あなた名前があるの?
ともかくハルちゃんね。
よろしく。仲良くしましょう」
私の言葉に小さく頷くハルちゃん。
少しだけ震えが収まり、肩の力が抜けたように見える。
それにしても誰が名前なんて付けたのかしら。
ダンジョンが出来てから、
まだ誰も到達してないはずよね?
まさか、自分で付けたの?
生まれて間もないダンジョンボスが?
それこそ意味がわからないわ。
『仲良くって、
そんな事言っていいの?
依頼どうするの?』
『仕方ないでしょ!
怯えられて、名乗られて、
討伐なんて出来るわけ無いじゃない!
それにこのダンジョンにはこの子以外の魔物はいないもの。
すぐにどうにかなったりしないわ』
『まあ、アルカが良いなら良いんだけど、
その辺り決める前に、
ノア達に話を通しておかないと、
きっと後で揉めるよ?』
『・・・そうね。
ありがとうニクス。
助かったわ』
『うん』
「ハルちゃん。
私の仲間も紹介して良い?」
私の言葉にまた震えが増していく。
「ごめんね!
嫌なら止めておくから!
だから落ち着いて。ね!」
また少し、震えが収まる。
この子やりづらいわね・・・
『ノアちゃん、セレネ。
そこで動かないで聞いてくれる?
今、ダンジョンボスと話をしているのだけど、
この子、すっごい怯えているから、
少し落ち着かせたいの。
もう少し待っていてくれる?』
『この子ですって?
あなた何と話してるの?』
『え?そこから見えないの?』
『ええ。アルカは何も無い空間に話しかけているように見えます。
けど、そこになにかの気配があるのはわかります』
『私には黒いもやに見えるわ。
ノアには何も見えないって事は、
私が聖女だからなのかしら』
『ボスはどんな姿をしているのですか?』
『・・・言っても怒らない?』
『わけのわからない質問で返さないでください』
『黒髪の女の子』
『え?』
『ダンジョンボスは小さな女の子よ。
黒髪の可愛い子だわ』
『その補足情報必要でしたか?』
『アルカ、あなたまさかそんな理由で話を始めたの?』
『だって!怯えてるし!
こんなの攻撃できないわよ!』
『相手は魔物でしょう?
さっさと討伐してコアを奪いなさい!』
『セレネ酷い!?』
 




