18-23.愛と執着
私はセレネとレーネと共に、
レーネの生活雑貨を揃えに町に繰り出す。
「レーネの服って昨日買ったのよね?
良い服だわ。レーネにも良く似合ってるし」
セレネはレーネの全身を眺めながら、
気になったところを遠慮なく触っていく。
「今度セレネも買いに行きましょうね。
良いお店だからずっと連れていきたいと思ってたの」
「それは嬉しいわ!
早く諸々落ち着かせてゆっくりデートしましょう!」
『私もまたデートに連れて行って下さい!
また行きたいです!楽しかったです!』
「喜んで!」
「そう言えば、ノアと行く時ってどんな所に行くの?」
「・・・ダンジョンとか?」
「アルカ・・・
いえ、これはアルカが悪いわけじゃないわね。
ノアがおかしいのよ」
「でも、甘い物とか食べに行くのも喜んでくれるのよ!
そうだ!今度セレネとレーネも食べに行きましょうね」
「はい!」
「私はレーネも食べたいわ」
『そんな事言ってたらノアが怒るよ?』
「ニクスはノアの味方なの?
アルカと同意見じゃないの?」
「そうなの。私の意見に反対なの」
『別に反対してるわけじゃないよ!
アルカは暴走しすぎって言ってるだけ!
無理やりする事じゃないでしょ!』
「ニクスがすっかり真面目になってしまったわね。
真面目だったり悪ふざけばかりしたり、
どうしてそんなに一貫性が無いの?」
「セレネにも言われたくないよ!
私がふざけられない程、皆がふざけすぎてるだけでしょ!」
「「そんな事ないわよ」」
『ふふ。アルカ様とセレネは良く似ていますよね』
「昔は全然違ったのだけどね。
昨晩寝る前にノアちゃんと出会ってからの事は話したでしょ?
それから直ぐにセレネとも出会ったんだけど、
今とは全然違う子だったのよ。
純粋で天然で迂闊でとにかく可愛かったんだから」
「今が可愛くないみたいに言わないでよ!
というか全然褒めてないじゃない!」
「もちろん今も可愛くて堪らないわ!
私の大事な愛娘で、とっても大好きなお嫁さんだもの」
『それ言ってて違和感ないの?』
「良いじゃない。とっくに開き直っているもの」
「ふふふ。これも教育の成果ね」
『セレネがアルカ様を教育したのですか?逆ではなく?』
「お互いに影響しあって変わっていくのも素敵な事よ」
『アルカはセレネが大きく変わったのは、
アムルの記憶を見たせいって思ってるみたいだけど、
アムルはそんなんじゃ無かったよ?
まあ、人よりずっと愛の強いところはあったけど』
「セレネもそれはあるわよね。
私のために協会を乗っ取ったり、
人生をかけてニクスを引きずり出そうとしてくれたり」
「けど、その想いに記憶を見たことは関係ないわ。
これは元々私が持っていた想いよ。
アルカは気にしていないどころか、
また忘れているようだけど、
私はノアより先にアルカと会ったことがあるの。
その時に救われて以来、
ずっと私はアルカを想い続けて来たのだもの」
私は思わずセレネを力いっぱい抱きしめる。
「アルカ。落ち着いて。
こんな町中で何やってるの。
私の想いなんてもうわかってたでしょ?」
「そうだけど!
こんなの我慢できるわけないでしょ!
今すぐ別荘に転移して良いかしら!
この想いをセレネにも伝えたいの!」
「ダメに決まってるでしょ。
今度ゆっくり相手してあげるから。
今は落ち着いて。流石に恥ずかしいわ」
「キスして良い?」
「ダメ」
「う~~~!」
「唸ってもダメ。降ろして。
用事を済ませて家に帰れば、少しだけ相手してあげるから」
「わかったよ・・・」
私はセレネを離して、指を絡める。
もう片方の手で、またレーネとも指を絡める。
「レーネごめんね。
また暴走しちゃった・・・」
『アルカ様は本当にセレネを愛しているのですね。
私の事も壊してしまいそうな程に愛して下さったのに、
アルカ様のその溢れんばかりの想いはどこから湧いてくるのでしょう。
とっても不思議です』
「私は欲張りなの。
欲しいもの全部手に入れたいの。
そして一度手にしたものは絶対に手放さないの。
セレネとノアちゃんとニクスだけじゃなくて、
レーネだってもうどうやっても逃げられないからね。
悪い魔女に誑かされてしまったのだから諦めてね?」
『答えになってないよ。アルカ』
「まあ、言わんとしている事はわかるけども。
とにかく、アルカは信じられないほど執着が強いのよ。
けれど、それは愛の強さだけじゃないからレーネも気を付けてね」
『よくわかりません・・・
私は何に気をつけるのでしょうか』
『私はよくアルカに酷いことされるよ。
アルカが思ってる私を嫌いって感情を直接ぶつけてくるの』
『???』
「それは言っても伝わらないでしょ。
私達だってどういう事なのか良くわかってないのに」
『まあともかく、アルカは私のことが大好きだけど、
未だに深い憎悪も持ち続けているの。
普通の人はそんなもの両立出来ないし、
憎悪なんて長くは維持できないんだけどね。
けれど、これがアルカの私への想いだから消えることは無いみたい』
『益々意味がわかりません』
「私も」
『レーネが仮にアルカに嫌われても絶対に手離してもらえないからね。
それで何時までも責められ続けるの』
「ニクスじゃあるまいし、
レーネにそんな事思わないわよ」
「なんでニクスの声嬉しそうなの?
あなた達ってどんな関係なの?
いえ、話は聞いてわかっていたつもりなのだけど、
なにか、想像力が足りていなかった気がするわ」
『当然だよ。私とアルカの関係は私達にしかわからないものだもの』
「歪すぎない?
まあ、本人達がそれで良いなら文句を言うつもりはないけれど。
でも、私達はそんなものに嫉妬していたの?
なんかアルカが私達への想いとニクスへの想いを
比較できないって言ったのもわかった気がするわ」
『方向性が違いすぎるからね』
「私とニクスの関係はもう良いでしょ。
私だって上手く説明できないもの。
それより、買い物を済ませてしまいましょう。
また爺さんの店にも行かないとだし、
私は今、とってもセレネとレーネを愛したいの。
お菓子作りの時間も足りなくなってしまうわ」
『程々にしてくださいませ。
今日はお義姉様にご挨拶させて頂く大切な日ですから』
「は~い。
その分はセレネにぶつける事にするわ」
「ダメよ。私も我慢できなくなったらどうするの?」
『アルカとセレネの間にはやっぱりノアが必要だね』
「改めて考えるとノアちゃんの負担って半端ないわね」
「異常な程の愛と執着を抑え込んで受け止めてくれているのよ。感謝しなきゃ」
『ノアも相応におかしいから出来る事だね』
「ノアちゃんの場合は意志の強さってところかしら」
「確かにピッタリね。
生き残りのために自分から奴隷になったりしてた程だもの。
それにアルカに裏切られたと思って泣き出してさえも、
アルカから離れる事は微塵も考えないしね」
『私はついていけるのでしょうか』
「アルカ。レーネには優しくしてあげてね?
私達が本気で迫ればすぐに壊れてしまうわ」
「そういうセレネこそ」
『まあ、そう心配せずとも、
この家族に加わった以上は、
相応に狂っていくから大丈夫だよ』
『それは安心できません・・・』




