2-17.勇者の力(物理)
「クレア!今からバフかけるから体の動かし方に注意して!」
「バフってなんだ!」
「いつも私が使ってるやつ!
固くなったり、速くなったり、強くなったりするやつ!」
「あれか!わかった!」
私は戦闘中のクレアに次々とバフをかけていく。
良かった。戦いの邪魔すんなとか言われなくて。
そんな事言われたら面倒な説得が必要になる所だった。
「お!なんだこれ!なんだこれ!」
「何!?」
クレア大興奮
バフで向上した動きが楽しいようだ。
攻撃がどんどん苛烈になっていく。
今まで一歩も動かなかったエルドスが押され始めた。
思わず驚愕の声を上げている。
「通った!」
遂にクレアの斬撃がエルドスを切り裂く。
まだ浅い!
さらに苛烈さを増していくクレアの攻撃。
追い詰められるエルドス。
「おっらぁ!!!」
そして、クレアの袈裟斬りがエルドスの体を切り裂いた。
勝った!?
「流石は勇者だ。これは引き時かもしれないね。」
「なんだ?もう止めるのか?」
「アホクレア!手を止めるんじゃないわよ!」
「でもこのおっさんと戦うの楽しいんだぜ!
ここで殺しちまったらもったいないじゃんか!」
「サ◯ヤ人みたいな事言ってんじゃないわよ!
そいつがいたら困るの!良いから殺っちゃいなさい!」
「え~!」
「え~じゃないわよ!」
「アルカ!アルカ!もういません・・・」
「はぁ!?あそこまで追い詰めたのに!?そんな事ある!?」
エルドス枢機卿の姿はすでに無かった。
それどころか司教達すらいない。
あいつらいつの間に・・・
どうしよう。
がっくり来すぎてもう気力が沸かない。
飛び回って探す魔力も無いし諦めるしかない。
どのみち私一人で見つけても倒せないし。
一応、魔王の封印の様子だけ見ておこう。
私はノアちゃんとセレネを引き連れて
奥の部屋に向かう。
そこには何も無かった。
正確にはなにかあった後だけが残っていた。
・・・え?魔王復活したん?
でもそれにしては大きな力を感じない。
ここにあるのは残滓だけだ。
どこかに封印ごと移動された?
どうやって?
私は使えないけど、この世界にも転移魔法があるのか?
犯人はまず間違いなくエルドス一行だろう。
過去の枢機卿達は長いこと悪巧みを続けていたのだから、
何かしらの備えがあったのかもしれない。
司教達がいつの間にか消えていた事にも関係ある?
少しだけ周囲を調べるが、書類等も見つからなかった。
あの状況から証拠隠滅まで済ますなんてどんだけ準備がいいのよ!
もう無理疲れた。やる気沸かない。
引き籠もりたい。
私はまたさっきまでいた広い部屋に戻り、
テントとこたつセットを出して潜り込んだ。
「お疲れ様です。アルカ
今回も頑張りましたね」
ノアちゃんが私の頭を抱きかかえて囁いてくれる。
なにこれ天国・・・
そのまま私の意識は落ちていった。