18-3.首飾り
レーネの部屋に招かれて話をしていると、
アリアはあっという間にレーネに懐いた。
最初は興奮したレーネの勢いに引き気味だったけど、
レーネが悪い子じゃないと察したようだ。
ルカはまだ私の後ろに張り付いてる。
話には入れていないが、
部屋の中の物に興味津々だ。
そんな視線に気付いたのか、
レーネが道具の使い方を説明したり、
ルカに触らせてくれたりと、気を使ってくれた。
お陰で少しずつルカも慣れてきた。
レーネは良いお姉さんだ。
他にも、ルカの様子に気付いてからは
意識して落ち着いた喋り方をしてくれている。
アリアが懐くのも無理はない。
暫く和気あいあいと話をしていると、
アリアが突然とんでもないことを言い出した。
『レーネさんもアルカのお嫁さんになりたいの?』
『!?』
『・・・少しお答えするのが難しいのです。
私が心惹かれているのは事実です。
けれど立場上それは難しいのです』
『レーネさんもお姫様だから?』
『アリア!もうそれ以上はダメ!』
『大丈夫ですよ。ルカちゃん。
ルカちゃんは優しいのですね。
気遣ってくれてとっても嬉しいです』
『レーネさん。ごめんなさい』
『アリアちゃんもどうか気にしないでください。
その通りなのです。私はこの国の姫として成すべきことがあるのです』
『そっかぁ・・・
レーネさんもお姉ちゃんになってくれたら嬉しいのに』
『アリアちゃん!
なんですかそれ!可愛すぎです!
可愛すぎます!アルカ様!アリアちゃん欲しいです!
私の妹にしたいです!』
『あげないわよ』
『ごめんねレーネさん。
私はアルカのものなの』
アリアは自分の首に着けたチョーカーを指し示す。
『アリア!?違うの!そういう意味であげたんじゃないの!』
『え!?違うの・・・
アルカはアリアいらないの?』
『そうじゃないけど!
いらなくなんてないんだけど!
そういう意味じゃないの!』
『アルカがアリアの事欲しいって思ってくれたんじゃなかったの?
アリア嬉しかったのに・・・』
『うぐっ・・・』
ルカが欲しがったから買った事は忘れてしまったのかしら・・・
アリアがそんな風に思ってたなんて気付かなかった・・・
一度は外したのにまた着けてたのはそういう意味だったのね・・・
『良い加減、腹くくりなよ。
そうやって中途半端に周りを振り回すからノア達も不安になるんだよ?
いっそ欲しいもの全部手に入れるって決めてしまえばいいのに。
そうやって強い意志を示せば、不満は残っても不安は無くなるんだよ?
黙ってついてこいって言ってあげなよ』
『今そんな説教しなくても良いでしょ!?』
『もう何人も不安にさせてるから言ってるんだよ?
アリアとルカも望んでるんだから受け入れなよ。
中途半端を続けるくらいならそっちのほうがマシだよ』
『ニクス!良い加減にしなさい!』
『アルカ。ごめんね。
アリアわがまま言って困らせたんだよね?』
『違うの!
そうじゃないのよアリア。
大きな声だしてごめんね。
後でちゃんと二人でお話しようね』
『うん。わかった』
『レーネもごめんね。
いきなり驚かせてしまったわよね』
『いいえ。仲直りできたようで何よりです』
そう言った後、
レーネが私だけに聞こえるように念話を送ってきた。
『人間さんは首飾りに特別な意味があるのですか?』
どうやら状況が良くわかっていなかったようだ。
先日来た時にはノアちゃんとセレネもしていたので気になったのだろう。
私はレーネに人間社会には奴隷制度がある事と、
首輪は奴隷を示す物である事を説明した。
奴隷については正確には理解できていないようだった。
少なくとも今の人魚の世界にそんな存在は無かったようだ。
ならば、他人を物として扱う感覚など言葉で説明されたくらいでは、そう簡単に理解できないのだろう。
たぶん昔の人魚は知っていたのだとは思うけど。
最低でも数百年、おそらくそれ以上に人間と接点が無かったので、
人間への恐怖や敵意と共に忘れ去られたのかもしれない。
ともかく、それでもどうにか伝わったようで、
私とアリアとのすれ違いはなんとなくイメージ出来たようだ。
そもそもアリア本人は奴隷のことを正確に理解しているのだろうか。
少なくとも、最初にチョーカーを購入する時は抵抗感を示した。
けれど、いつの間にかそれも飛んでしまっていたようだ。
その辺りも含めて後で話をする事にしよう。
その後、ようやく元の雰囲気が戻ってきたと思った頃、
レーネ経由で、人魚の王様が私に会いたがっていると言ってきた。
どうしよう・・・
ノアちゃん呼んで良いかな。
でも小型転移門だと水鉄砲になちゃって連絡取れないよね。
やっぱり召喚するしかないんだけど、
良く考えたら召喚した瞬間に水に濡れるわよね。
すぐに水中適応用の魔法をかけるけど流石にタイムラグはある。
一回家に帰るべきだろう。
アリアとルカもレーネに心を開いたとは言え、
流石にまだこんな所で私から離れるのは厳しいはずだ。
一日アリア達と一緒に過ごすとは言ったけど、
流石に王様の誘いを無下にするのはマズイだろう。
レーネとの事もあるし。
申し訳ないけど少しだけ我慢してもらおう。
一度セレネに二人を預けてノアちゃんを借りて来ることにしよう。
そうレーネに伝えてもらって、少し準備の時間を貰うことが出来た。




