17-28.顛末
ここ数日でまた一気に状況が変わってしまった。
ルネルとの修行の日々が終わり、
ニクスに無理やり口説き?落とされて、
レーネと再開して、
愛しの我が家にようやく帰ってきた。
アリアとルカも新しい家族として加わった。
こうして思い返して見ると、
殆どいつも通り、成り行き任せの流されまくりだ。
ニクスを好きになった事を後悔する気はないし、
アリアとルカが家族になってくれた事も素直に嬉しいと思っているけど。
けれど結局、まだやろうと思っていた事は禄に出来ていない。
後やらなければいけないのは、
冒険者ギルドで依頼をこなす事。
家族の安全を確保する事。
レーネに再度会いに行き、意思確認する事。
ニクスの信仰を集める事。
ニクスを体に戻して、体ごと手に入れる事。
他にもいくつかの場所にも通わなければいけない。
教会や地下の町は頻繁に顔を出すべきだろう。
あとは、・・・
『ルスケア領にもまた行くからね』
『なんで?』
『必要な事なの』
『だからなんでよ』
『もぉう!わかってるく・せ・に!』
『はいはい。言えないって言いたいのね。
無駄に声音変えなくていいわよ』
『もう少し構ってくれても良いのに』
『ニクスがちゃんと話してくれたら構ってあげる』
『いじわる』
ちょっと前まで一人で暮らしていたのが嘘のように賑やかだ。
家族も増えた上に、
心の中にまで妙なのが住み着いてしまった。
『ひっどい!愛神に対してそんな言い方無いでしょ!』
『勝手に人の思考を覗いて文句言わないでくれる?』
『アルカの事から目を離すなんてできないもん』
『疫病神の間違いだったかしら』
『・・・アルカ嫌い』
『私は好きよ。ニクス』
『アルカだって私の事嫌いなくせに』
『そうね。大嫌いで大好きっていつも言ってるじゃない』
『たまには純度100%の愛情だけくれても良いんだよ?』
『ニクスが私を喜ばせてくれたら考えるわ』
『・・・そのためならイジメても良いよ?』
私は心の中にいるニクスに向かって自分の想いをぶつける。
『ふふ。やっぱりこれしぁわせぇ~』
そのまま私の心の中に溶け込んでしまうんじゃないかと思うような蕩けた声を出して、ニクスが静かになる。
やらなければいけないことをもう少し掘り下げて考えてみる。
冒険者ギルドで依頼をこなす事は、
いくつかの意味がある。
まずは資金稼ぎだ。
いくら潤沢な財産を持っているとは言え、
私とノアちゃんとセレネは半永久的に生き続ける事になる。
それを考えたらいくら貯めておいても足りないくらいだろう。
それに家族も増えた。
今や六人もいるのだ。
全員を養う必要もあるのだ。
ギルドでは、資金稼ぎ以外の目的もある。
ギルド長達には地下の町の件でも沢山お世話になった。
その恩返しもしておきたい。
私が大きめの依頼をこなしていけばギルド長達も喜ぶだろう。
そして最後に、
ギルド本部にいる、私に敵対的な人達への牽制だ。
勤勉に働き続ければ敵意を反らせるかもしれないし、
数年間も冒険者としての活動をサボっていたので、
改めて力を示しておくのも有効だろう。
ギルド本部なら、実績からそれなりに読み取ってくれるはずだ。
家族の安全を確保する事については、
一先ずノアちゃんとセレネに幼少組を鍛えてもらうことになる。
力の流れを視る事ができる、覚視の習得が最初の課題だ。
これさえ習得できれば次以降の課題がずっと楽になるし、
敵意を持つ者に気付けるから、
騙されたり不意打ちされたりする危険が大きく減らせる。
とはいえ、そう簡単な話でもない。
私達ですら最低限、習得して使いこなすまでに一年近くかかっているのだ。
元々戦う力もないアリアとルカが習得するまでに何年かかるか定かではない。
それに、いずれはレーネも加わるかもしれない。
人魚であるレーネはそもそも地上ではまともに立つ事すら出来ない。
人間態となった時の足の筋力ってどうなっているのだろう。
人魚時の下半身に応じて変わるのだろうか。
筋力をつけるところからだとより多くの時間がかかるだろう。
私もできる限り練習に協力しよう。
重力軽減魔法をかけて少しずつ慣れていけばきっと早いはずだ。
レーネの場合はいっその事、
先に魔法を教えて自分で使ってもらうのもありかもしれない。
何れはアリアとルカにも魔法を教えたい。
本人達の希望次第ではノアちゃんに接近戦の仕方を教わるのも良いだろう。
神力の代わりにバフでも憶えてもらえば、
ルネルや私達以外に遅れを取る事もないだろう。
安全の為には皆を強くする以外にもするべきことがある。
私に敵対的な意思を持つ人達をどうにかしなければいけない。
その中でも、ドワーフの魔道具を持つ一味は要注意だ。
もう既に殆ど組織としては壊滅させたはずだけど、
逃げ延びた者達がいる可能性は高いのだ。
何れは組織を潰した私に復讐を企てる者も出てくると考えている。
どうにかして先手を打ちたいところだ。
現状、一番情報を持っているのはギルド本部だろう。
何とかして連携できないだろうか。
ともかく、暫くはギルド長さん経由で情報を得つつ、
精力的に働いてギルド本部の味方を増やすしか無いだろう。
どこかに情報屋みたいな組織でもいないのかしら。
自分で作るべき?
組織運営なんてしたくはないけど、
何千年も生き続ける気なら今のうちから作っていくべきかもしれない。
何時までも冒険者として稼ぐだけではダメなはずだ。
情報集めのついでに勝手に稼いでくれるくらいはさせたい。
数百年単位でそんな組織を作る計画も考えておこう。
そうでなければ、
きっとルネルのようにエルフの国にでも住まわせてもらうか、
未開拓地の深部に隠れ住むしかなくなるかもしれない。
エルフの国は現状出禁のままだし、
未開拓地も何千年もあのままとは限らない。
いっそ、私達だけの楽園を何処かに作っても良いだろう。
手頃な無人島でも探して開拓してみよう。
考えてみるとやりたい事がいくつも出てくる。
どの方針で行くべきかはノアちゃんとセレネにも相談しなければ。
先々の事を考えるなら片っ端から手を出すべきかもしれないけど。
レーネに再度会いに行き、意思確認する事については、
あと数日したらまた顔を出す事になっている。
レーネはどんな選択をするのだろうか。
場合によっては人魚の王様との話し合いも必要かもしれない。
ニクスの信仰を集める事については、
現状、教会ごとグリアに任せきりだ。
ニクス曰く、今のペースでも何れは集まるだろうけど、
それなりに時間がかかるそうだ。
セレネが教会に帰る時は手伝いに行こう。
私を通せばニクスも話ができる。
教会の役にも立てるだろう。
ニクスを体に戻して、体ごと手に入れる必要もある。
こっちは数百年は猶予があるようだけど、
どちらかというと、これは私がそうしたいだけだ。
早くニクスとも触れ合いたい。
ノアちゃんとセレネとの触れ合いも良かったなぁ。
けれど、暫くはアリア達を優先しよう。
引き取ったばかりなのだから、
慣れるまではもっと気を使うべきだ。
もう少ししたら町も離れて、
別荘のある森の中で生活する事になるだろう。
あの子達は大丈夫だろうか。
出来る限り側で見守っていてあげたい。
一通り落ち着いたら皆で住む大きな家も準備しておこう。
やることは盛りだくさんだ。
『私も力になるよ』
『いっそゴーレムにでも乗り移ってみる?』
『可愛いの作ってくれたら考えてあげる』
『ニクスならどんな姿でも可愛いわ』
『限度があるよ!?』




