17-18.想定外
アリアとルカを引き取ると答えると、
そこからはあっという間だった。
宰相さんから少し説明を受けた後、
王様達に頼まれて、アリアの部屋に転移する。
どうやら私の姿をできる限り城の者に見せたくなかったようだ。
アリア達自身も今は部屋から出さないようにしていたらしい。
宰相さんが想像も交えて説明してくれた内容によると、
今回のことはルカの思惑だったようだ。
たった一晩で知れ渡ってしまったのもルカが意図的に広めたからだった。
ルカはそうして私との繋がりを周囲にアピールしたかった。
あわよくば既成事実化して私と一緒に暮らせるかと思った。
ただ、賢いとはいえ、
初戦は子供の浅知恵だ。
それをする事で、起こり得る周囲の反応を想像しきれているとは言い難かった。
私が英雄として持ち上げられているこの国でも限度があるのだと想像しきれていなかった。
こんな事をすれば、この城の人々と引き離される事は避けられない。
私が引き取らなくとも、どこか地方の貴族に預けられて身を隠さねばならなかったはずだ。
それに私やアリアの評価もルカの想像以上に落ちていくことになる。
まあ、私は事実なので別に構わないけれど。
アリアだって私との生活を望んでくれてはいるけれど、
この城の人達とも仲良くやってきたのだ。
それをこんな形で終わらせてしまうのは不本意だろう。
既に口さがない者達は噂している。
それは従者達だけではない。
この城に出入りする貴族達も同様だ。
ただでさえ、二人の出自を問題視する者達もいただろう。
その上で今回のような事があれば、
悪しざまに言う者達も増えることだろう。
王族がそれでは困るのだ。
二人の立場を守るためには、
そして周囲の悪影響から二人自身を守るためには、
ともかくこの城から離れるしかなかった。
少なくともその準備は既に進められていた。
宰相さんは以上の事を説明してくれた。
私はそんな事は全く想像もしていなかった。
この世界に来てからもうかなり長いのに、
未だに感覚がズレていたのかもしれない。
けれど、本当の問題はそんな事ではない。
今まで何度もノアちゃんとセレネに指摘されてきた事だ。
ギルド長達にだって、エイミーにだって言われてきた事だ。
グリアにもルネルにも言われたことがあるはずだ。
私は想像力が足りていない。
不安要素があるのなら、
せめてアリア達を送り届けた時に判断を仰ぐべきだった。
翌日慌てて動き出したのでは遅かったのだ。
そんな事もわかっていなかった。
今回の事がある意味自分で責任を取れる事だったからまだ良かっただけだ。
ルカに誰かを害する意図が無かったから良かっただけだ。
いずれは何か致命的なやらかしに繋がる可能性も高いのだろう。
宰相さんに指摘されたように、
それは私の立場や影響力を考えれば見過ごせない問題だ。
立場に見合った思慮深さを身に着けなければいけない。
そうでなければいつか破滅するのだ。
私一人だけならいくらでもやりようがある。
けれど、今はもう家族が増えたのだ。
今回の件で六人になる。
さらにレーネも加わるかもしれない。
この子達の未来を守り通さねばならない。
何時までも力だけでゴリ押していてはいけないのだ。
ノアちゃんとセレネに一緒に考えてもらえば済む話でも無い。
私自身が変わる必要がある。
宰相さんと国王はアリアとルカと話をしている。
アリアには詳しく状況を説明していなかったようだ。
その余裕もなかったのだろう。
けれど、当然ルカは察していた。
部屋に閉じ込められていた理由にも心当たりがあった。
周囲の反応を見て、ルカは気付いたのだろう。
自分の計画以上の事態が起きていることに。
もしかしたら、今朝私からの連絡があるまでは不安でいっぱいだったのかもしれない。
けれど、今はそんな様子も見つからない。
私から連絡があってからの短い間に、
私が引き取る事になるのも既に想定していたのだろうか。
後で少し話をする必要はあるだろう。
アリアは突然の事に混乱していた。
私との生活に憧れてはいても、
ここでの暮らしが終わってしまうことはちゃんと想像出来ていなかったのかもしれない。
アリアは私に似ているのかも。
いっそ説明しないまま連れて行くべきだったのだろうか。
けれど、王様も宰相さんもそうは思わなかったようだ。
アリアにも正確な状況を説明している。
念願だった私との生活も素直に喜べないようだ。
この状況で私についてくるという事は、
アリアもルカも暫くはこの国に帰って来る事ができない。
せっかく会えた家族にも会えなくなるのだ。
アリアなら仲良くなったメイドさんだっているのだろう。
突然、強制的に引き離されるのは想像していなかったのだろう。
ルカもアリアのそんな反応には困惑している。
アリアにそんな顔をさせるつもりは無かったはずだ。
一通りの話が終わったのを見計らって、
私は二人に問う。
「アリア。ルカ。
こんな形になってしまってごめんね。
けれど、それでも良かったら私と一緒に来てくれる?
一緒に暮らしてくれる?
少し早くなってしまったけど、
約束を果たさせてくれる?」
それを聞いて泣き出したアリアが私に抱きついてくる。
それを見たルカも続く。
今度はルカの涙の理由は何となく想像できる。
アリアへの申し訳なさや、
想定外の事態への不安。
そして、それが解消された事への安心感。
逆にアリアの涙の理由がわからない。
困惑が突き抜けてしまったのだろうか。
不安だったのだろうか。
純粋な喜びなのだろうか。
ともかく、最後にはアリアも納得してくれた。
二人が国に戻れるようになったら、
またギルドを通して私を呼び出すそうだ。
既に用意されていた二人の荷物を受け取り、
最後の挨拶を済ませた二人を連れて、
私達の自宅に転移した。




