17-17.呼び出し
私達は自宅を拠点にして各地に顔出しをしたり、
ギルドでの依頼をこなしていく事になる。
けれど、その前に急遽出来た用事を済ませる事にした。
昨日アリア達に買い与えてしまったチョーカーの件だ。
意図せぬこととは言え、やはり不味かっただろう。
そう思い、アリアの祖父である王様にも謝罪しようと思ったのだ。
翌朝、アリア経由でお願いしてアポ取りをしようとした所、
今すぐに王様と面会する事になった。
王様もこの件について早急に話をしたいと考えていたようだ。
「やっぱり不味かったかしらね・・・」
「まあそうでしょうね。
国王がそんな暇な訳がないもの。
それなのにすぐに来いってことは相当怒ってるんじゃない?」
「私達も一緒に謝りますから。
とにかく急いで行きましょう」
「ごめんね二人とも・・・
私が勘違いしてたばかりに」
「まあ、そもそもアルカが最初に店員に聞いていれば避けられた事態ではありますね」
「ごめんノア。それは私も同罪なの。
アルカと一緒に選んだのだから」
「いえ、すみません言葉が過ぎました。
二人が選んでくれたこれは私の宝物です。
そこでアルカが買うことを躊躇していたら手に入らなかった物です。
私にとっては最良の結果でした」
「ノア!愛してるわ!」
「はいはい。行きますよ」
感極まって抱きついたセレネをあしらって、
リヴィと手を繋いだノアちゃんがもう一方の手で私の手を握る。
セレネが私のもう片方の手を握ったのを確認し、
私はアリアの部屋に転移した。
二人とも今日はチョーカーをしていなかった。
流石に取り上げられたのだろうか。
アリアとルカにリヴィを預けて私達は王様のもとに向かう。
二人とも、昨日始めて見たリヴィの人間態には驚いていたけど、
もうすっかり仲良しだ。
新しい妹が出来たようで嬉しそうだ。
前回も通された華美な部屋で待っていると、
すぐに王様と宰相さんが現れた。
今回は二人だけのようだ。
私は真っ先に頭を下げる。
昨日アリア達に贈った物について謝罪に来たこと。
私が意味を正確に理解していなかった為に贈ってしまったこと。
決して二人を貶める意図は無かった事。
それらを説明して謝罪する。
王様と宰相さんは何も言わずに話を聞いてくれた。
話を聞き終えた王様と宰相さんが目配せを交わすと、
宰相さんから話を始めた。
「やはりそうでしたか。
アルカ殿のお顔立ちを見ればこの辺りのご出身ではないと伺えます。
ですから、ご理解されていなかったのだろうとは思っておりました」
宰相さんはそこで一息つく。
「ですが、それでは済まないのです。
王家の者に首輪をつけるなど、
冗談や知らなかったでは済まされません。
その点はご理解いただけますでしょうか」
「はい。承知しております」
「正直申し上げて既に問題となっております。
お二人とも、アルカ殿から贈られたことをとても喜んでおられました。
それこそ、城中の顔見知りに話して回る程に」
「そして、言葉を選ばずに申し上げますと、
我々としても、現在のアルカ殿には悪印象を持たざるを得ないのです。
お二人にも告げず長期間いらっしゃらなかった所にこの状況です。
そして、今この場でもう一点ございます。
その指輪の件です。
御三方ともに同じものをされていますが、
その意味はご存知でしょうか。
そして、幼子をその対象とする事の意味もご存知でしょうか」
「はい。知っています」
「であれば、こちらとしては警戒せざるを得ないのです。
貴方方のご関係を悪しざまに言いたくはありませんが、
あえて申し上げさせて頂きます」
「幼子への倒錯した感情をお持ちの方をアリア様達に近づけるわけにはいかないのです」
「何故この場にまで着けてこられたのでしょうか。
何故アルカ殿お一人でお越し頂けなかったのでしょうか。
何故御三方のご関係を隠されなかったのでしょうか」
「アリア様達を任されている事を理解しておいででしょうか。
当然、貴族や王族でもない貴方がたにそこまで厳しい作法を求めているのではありません。
人として最低限の配慮の話です」
「その行いは幼子を預かるものとして、配慮にかけるのではないでしょうか」
「無論、この件にアルカ殿個人の人間性は関係ありません。
例えアルカ殿にお二人を害する意図がなくとも、
関係の無い話なのです」
「この場に隠さずに来られたことそのものが問題なのです。
それは信頼関係を壊しかねない行為だとご想像いただきたかったものです」
「今までは我々との信頼関係があるからこそ、
特例としてアルカ殿の入城は認められておりました」
「ですが、これらの状況を鑑みますと、
国を守るものとして、王家を守るものとして、
貴方方をこの城に近づけるわけにはいかなくなるのです」
「アルカ殿がこの国の恩人であろうとも、
あのお二人にとっての恩人であろうともそれは変わりません。
武力や人間性と社会性は別の話なのです」
「仰るとおりです。
配慮にかける行為でした。
申し訳ございません」
「アルカ殿もまだまだ年若い。
至らぬこともあるのでしょう。
ですが、今回の件はそれだけでは済まないほどに事が大きいのです」
「老婆心ながら申し上げさせていただきますが、
これはこの場に限った話ではございません。
これからも同様の事は起こり得るのです。
貴方にはそれだけの立場が、名声があるのです。
どうかお気をつけ下さいませ」
「ご忠告感謝いたします」
そこで、王様と宰相さんが少しだけ話し合いを始めた。
「実はルカ様から事前に話があったのです。
ルカ様は今回の事は自分からアルカ殿に願ったことだと。
その意味を知っていて、黙っていたのだと。
だから、アルカ殿を罰しないで欲しいとの事でした。
これは事実でしょうか」
「・・・事実です。
ですが!」
「いえ、それ以上は結構です。
ルカ様の賢さはこちらも存じております。
この様な場面で嘘をつくような方ではないことも理解しております。
ですがやはりそうでしたか・・・」
そこで王様が口を開く。
「アルカ殿。あの子達は貴方を必要としている。
少しの間だけで良い。二人と共に暮らしてもらえないだろうか。
ほとぼりが冷めるまで匿ってほしい」
「それで良いのですか?
私は自分の娘達に手を出しました。
それを否定する気はありません。
これが一般的には理解されない関係である事も承知しております。
その様な者を信用できるのですか?」
「正直な所それは難しい。
だが、例えそうなった所であの子達は不幸になるだろうか。
あの子達は継承権も無い。
出自が出自だ。政治の道具としての価値も低い。
ならば英雄に嫁ぐのもまた一興とも思うのだ」
それを聞いた宰相さんが頭を抱えてしまう。
王様のアドリブだったのだろうか。
『助けて!ノアちゃん!セレネ!
なんかわけのわからないこと言い出した!』
『気にすること無いよ!
くれるって言うなら貰っちゃおうよ!
あんな美少女他にいないよ!』
『王様からの問いかけです!
とにかく何か返してください!
私達も考えておきますから!』
『アルカ~!あれ?アルカ~!』
『そうね!
とにかく時間を稼いでアルカ!』
『アルカ~!ねえ!アルカってば!』
「ほとぼりが覚めるまでとは、どの程度を想定されているのでしょうか」
『アルカ~!
お~い!アルカ~!
無視してるの?
それはダメだって!
流石に泣いちゃうよ?
アルカの嫌いな方の泣き方だよ?
もうセレネでもノアでも良いから答えてくれない?
お~い!』
私が王様との話を続ける裏で、
セレネとノアちゃんの念話会議が始まる。
『セレネどうしましょうか・・・』
『ここで断れば最悪二度とあの二人とは会えないわ。
少なくとも私が向こうの立場ならそうするでしょう。
会わせられないのであれば徹底して近づかせず、
忘れさせてしまうのが一番よ』
『セレネ~!』
『それは・・・嫌ですね。
私だってアリアとルカを妹のように思っているのです』
『そうね。私もよ。
仮に今は断って、
アルカの力でこっそり会ったり、
誘拐してしまえば、この国との関係は悪化するでしょう。
そうすれば、最悪アリア達はまた家族を失うことになるわ』
『ノア~!』
『それもあり得ない選択です』
『ならもう受け入れるしか無いわね』
『誰か~!』
『流石に一気に増え過ぎじゃないですか?
いくら私達でもかなり行動が制限される事になります。
ならもういっそ、全員で別荘の方にでも行って修行でもします?』
『そうね。その場合、私達で留守を守ることになるでしょう。
アルカにはあっちこっち行ってもらわなきゃだしね。
ノアはその自信はある?
レーネも含めれば、
非戦闘要因三人を抱えて修行をつけて、
そんな事を何年も続けられる?
しかもその全員が将来のライバルよ?
いつかアルカを取られてしまうかもしれないのよ?
アルカの側に居るための力を私達が与えるのよ?
そんな事我慢できる?』
『やりましょう!』
『『ニクス!良い加減にしなさい!』』
『やっと返事してくれたぁ!』
『セレネ。やっぱり私はそれでも受け入れたいです。
あの子達を受け入れるのは元々想定していた事です。
それが少し早まっただけなのです。
そもそも、アルカが我慢できるわけがありません。
ここで断れば勝手に会いに行くことでしょう。
そんな事をすればどちらの意味でもより状況は悪化します』
『そうね。私もそう思う。
だから私も異論はないわ』
「やはり難しいかね?」
「いえ。是非、引受させてください」




