2-15.魔王
「アルカ君の頑張りに免じて少し話をしようか」
エルドス枢機卿はそう語りだす。
なんで悪役って無駄に話したがるのだろう。
自分の功績を誇りたいのかな?
なら、誇れる事だけやってればいいのに。
私は、地上に降り立ちクレアを壁に魔力の回復に努める。
逃げるにせよ、戦うにせよ、このままじゃ魔力が足りない。
ノアちゃんとセレネを背後に庇い、警戒を続ける。
「遥か昔、魔王が勇者と聖女によって封印された。」
「その地がこの場所であり、神殿を建設して封印を守り続けてきた。」
「そんな中、我々はあることに気付く。魔王の力が
封印からほんの少しだが溢れ出していることに。」
「いつかまた封印が解けて復活してしまうのではないか。
そう考え、封印と魔王の力について研究を重ねてきた。」
「研究を重ねる内に、一部の者が魔王の力を利用できるのではないかと考え始めた。」
「その者らは、魔王の力の一端を取り込み、
それだけで強大な力を得る事に成功する。」
「しかし、人の身に魔王の力は過ぎたものだ。
大半の者が取り込みすぎると正気を失ってしまう。
しかも、一度取り込むと力におぼれて
より多く取り込もうとしてしまう。」
「これらは、枢機卿にのみ伝えられてきた事だ。
枢機卿となった者はこの研究を引き継ぐ義務がある。」
「聖女とは鍵だ。聖女の血だけが封印を緩めて
魔王の力をより多く引き出してくれる。」
「私は先代の聖女を使い多くの力を引き出した。
だが、まだ足りないのだよ。そこで、私は考えた。
今代の聖女であるセレネ君を使い、
魔王そのものを復活させてしまおうと。
そうして魔王を取り込み、今度は私が新たな魔王になろうと。」
「つまり、何が言いたいかと言うとだね。
どうか聖女を差し出してくれないだろうか。
今宵は条件が揃う千載一遇のチャンスなのだよ。
そして新たな魔王の誕生を共に祝おうではないか!」
「何言ってるの?
あなた自分でも言ってたけど
もう正気じゃないんじゃないの?」
「かもしれないね。だけどそれがどうしたと言うんだい?」
「なんで私達が魔王の誕生を望むと思うのよ!」
「そんなことか。魔王の力に触れてみればすぐにわかるとも。
そうすれば、きっと君たちにもこの素晴らしさが伝わるはずだ。」
「話にならないわね。」
何こいつ・・・
本気で言ってるのがわかる。
魔王の復活を、そして誕生を万人が祝福すると本気で考えてる。
「そもそも、こっちには勇者がいるのでしょう?
魔王と仲良くは出来ないんじゃない?」
「そうかもしれないね。
けれど、クレア君は魔王と戦いたいのだろう?
復活に強力してくれれば思う存分その力を味わえるよ。」
「クレア!聞いちゃダメよ!」
「?話はもう終わったのか?
長すぎて聞いてなかった。
話終わったんなら戦おうぜ!
このおっさんもめっちゃ強い匂いがするんだ!」
クレアはクレアだった。
え?本当にこいつが勇者なの?蛮族じゃなくて?
「交渉は決裂のようだね。
ならば仕方ない。魔王の力の一端を見せてあげよう。
そうすれば君たちもすぐに理解できるはずだ。」
「行くぜ!」
言うなり、クレアは斬り掛かっていく。
エルドスは今日がチャンスとも言っていた。
つまり、今日を逃せば魔王復活は難しいのかもしれない。
最悪、今晩逃げ続ければ時間は稼げるのだろう。
だが、ここで止められなければいずれまた
同じ事が起きるだろう。その時には私達が止められないかもしれない。
やはり、ここで禍根を絶っておかなければ。
私はエルドスとクレアの戦いを観察して
戦い方を見極める。
さっきの帯には私の攻撃は効かず、
クレアはあっさり切断した。
なにか勇者の力に秘密があるのだろう。
クレアが本当に勇者なら。
無闇に攻撃してもダメージにならないかもしれない。
クレアの戦いからなにかヒントを見つけなければ。
エルドスの放つ魔法はクレアに切り裂かれて届かない。
クレアが斬り掛かっても、なにかに阻まれてこちらも届いていない。
走り回りながら切りつけていくクレア。
その場を動かずクレアに魔法を放つエルドス。
「なんだぁこいつ?アルカより切れる気がしねえ!」
流石のクレアも攻めあぐねているようだ。
「セレネ。なにか得意な魔法とかない?」
一応ダメ元で聞いてみる。
「無いですね・・・魔法自体使ったことがないです。」
やっぱだめか。
どうやらノアちゃんも魔法の才能が無いみたいなんだよなぁ。
あいつの言葉を信じるなら、
ノアちゃんにも聖女の才能があるようだ。
才能というか血なのかな?鍵だって言ってたし。
ノアちゃんとセレネはどこか遠い先祖が同じなのかもしれない。
聖女の力とは魔法では無いのだろう。
現代の聖女は力が無いのではなく、
使い方を知らないのでは?
どこかで継承されなかったのかもしれない。
エルドスの口ぶりからするなら、
過去の聖女達も枢機卿達が力を得るための犠牲にされてきたのだろう。
だから奴らは聖女を取り合っていたのだ。
そうして聖女から力が失われていった。
クレアも、さっきの騎士も、エルドスも不自然な強度だ。
そういえば騎士達は?
あっちも静観の構えだ。
一人だけうろたえているけど。
クレアとエルドスの戦いを観察していると、
なにか力の壁のようなものを纏っているようにも見える。
あれが頑丈さの正体なのだろう。
あれはなんだ?
なぜ魔王と勇者に共通しているんだ?
過去の勇者はどうやってあれを突破したんだ?
考えろ!なにか手はあるはずだ。
勇者は一度勝っているのだから。
過去の勇者は聖女と共に戦った。
聖女にはあの力場に干渉する力があるんじゃないのか?
だとしてもそれをどうやって引き出す?
都合よくセレネとノアちゃんが覚醒してくれるわけがない。
私が二人の力をなんとかして引き出すしか無いんだ。
とにかくいまはあの力の正体を見つけるしか無い。
それがきっとヒントになるはず。