17-12.領分
私達はひとまず休むことにした。
久しぶりの自宅でもあるし、
少し掃除などもしておきたい。
一応転移が使えるようになってからは戻ったこともあったけど、
まだゆっくり過ごせる程ではなかった。
この一年間は殆ど来れなかったくらいだ。
ノアちゃんはとても張り切っている。
私達もできる限り一緒にやろう。
ともかく、これから暫くはこの家を拠点に動き回る事になる。
相変わらず教会はグリアに任せきりだ。
セレネも一度帰すべきなのだろうか。
なんか嫌だなぁ。
もう離れたくなんて無い。
状況が落ち着いたらまた教会にお邪魔しよう。
セレネ一人送り出すなんてもう耐えられない。
とりあえず、ニクスの信仰の件は後回しだ。
ニクスが私のものになった以上、
もとい、私の心に住み着いた以上、
今のところ急いで動かずとも良いはずだ。
一番最初にセレネがニクスの信仰を集めようとしたのは、
私に謝罪させることが目的だった。
その目的自体は既に果たされている。
ニクス本人が出会った最初に謝ってくれたのだから。
次の目的はノアちゃんとセレネのパスをどうにかすることだった。
セレネがニクスから聞き出した情報によれば、
二人の中に封印された初代聖女、アムルの魂が関係しているようだ。
まあ、ニクスも危険視していないので、
とりあえずは大丈夫だろう。
本当に?ニクスはうっかりも多いのよ?
二人になにかあったらどうしてくれようかしら。
『絶対!絶対大丈夫だから!
信じて!お願いアルカ!』
仕方ない。そこまで言うのなら信じてあげよう。
何かあったらタダじゃすまさないけど。
私はニクスになら何でも出来るから、
万が一でもあれば、ニクスも本気で何とかしてくれるだろう。
『うん!絶対よ!私が責任持つ!』
『それはそうと、
ノアちゃんを苦しめたことについては、
今度個人的に復讐させてもらうから』
『なんで!?
当のノア本人が許してくれたのに!?』
『ノアちゃんは私のものよ。
私のものを傷つけたのだから当然でしょ?』
『もう時効でしょ!
十五年くらい前の話だよ!』
『なんでそんなのあると思ったの?』
『そんなぁ!』
次の目的は邪神の干渉を防ぐ事だった。
けれど、これも既に気にする必要はない。
邪神の代わりに愛神が住み着いたのだし。
影響大差なくない?
精々破壊衝動とかないだけでしょ?
他の神に知られたら討伐されたりしない?
現在のニクスは職務放棄しているようなものだ。
後任でも就いたらありえない事でもないだろう。
『大丈夫だから!
あと数百年はそんな心配いらないから!』
『つまり数百年以内になんとかしないと起こり得るのね?』
『・・・話せません』
『やっぱり教育が足りないのかしら』
『お願い!信じて!
本当にアルカの為に話せないの!
本当の本当にアルカの事が大好きなの!
愛しているの!だから巻き込めないの!
罰が怖くて言ってるんじゃないの!』
『わかったわ。
信じてあげる。
良い加減、少しイジメすぎたものね。
私もニクスの事が大好きよ。
早く抱きしめてキスをしてあげたいわ。
どうにかならないのかしら』
『今なら無くもないけれど・・・』
『どうせ話せないのでしょう?』
『うん・・・
だからアルカ自身が気付いてくれるの待ってるね。
早く私を迎えに来てね』
『指輪を持っていくわ』
『アルカぁ』
『ともかく、問題は信仰よね。
まだ必要なの?』
『うん。とにかく集めて欲しいの。
そうすれば私の体の事も自分でどうにかできるし、
アルカ以外にもこの世界は守らなければいけないものがあるの。
詳しくは話せないけど、そのために私の力が必要なの』
『わかった。
協力してあげる。
ニクスも私のものだもの。
ニクスの望みは何でも叶えてあげるわ』
『じゃあもうイジメないでくれる?』
『それはニクス次第ね』
『そんなぁ』
『けれど、もうそうそうイジメたりはしないわ。
十分にわかってくれたみたいだし。
虐めるのは好きだけど、
普通に愛し合うのも好きなのだもの。
本当はもっと仲良くしたいのよ?』
『そうだよね!
ありがとう!アルカ!
とっても嬉し・・・
え!?なんで今!?
だって!?嫌!?
止めてアルカ!』
『冗談よ。
何だかゾクゾクしてしまったの。
今度こそ本当にもう何もしないわ』
『・・・アルカ嫌い!
もう嫌だぁ!ここから出してよぉ!
どうして虐めるのぉ!』
私は自分の意志で心の中に潜り込む。
「ニクスごめんなさい。
やりすぎたわ。
ニクスこっちを向いて」
私は心の表層にいたニクスを抱きしめて無理やりキスをする。
「あるかぁ・・・
こんなの嫌だよぉ。
もっと幸せになりたかったのにぃ」
「ニクスが撒いた種じゃない。
私がこんな風になってしまったのはあなたのせいよ?
責任取ってくれないの?」
「だってぇ・・・」
「もう無闇にイジメたりしないわ。
今度こそ本当よ。
ニクスの泣き声は好きだけど、
そんな風に泣かせたいわけじゃないの。
だからもうしないから。
愛してるわニクス。
あなたが望むのならまた心の奥底まで行ってもいいわ。
今度はずっと愛してあげる。
またニクスに虐められてあげる。
だから私を捨てないで?
出ていくなんて言わないで?
ずっと側にいてくれるのでしょう?」
「ほんとう?
もういじめない?
あいしてくれるの?」
「ええ。
ニクスの望む通りに何でもしてあげる。
キスだっていくらでも。
だからもう泣き止んで。
その泣き方は嫌よ」
「アルカのせいなのに・・・」
「だからこうして抱きしめに来たじゃない」
「というか何でそんな事まで出来るの!?」
「当然じゃない。
またニクスに引きずり込まれたら脱出しなきゃいけないもの。
対策は用意するに決まってるわ」
「でも一緒にいた時はそんな事出来るようにならなかったのに!」
「きっとニクスへの愛が成せる技ね!
今ならニクスを思い通りにするためなら何でも出来る気がするの!」
「あげた能力でもそこまで出来るはず無いよ!?
こんなの人間の力じゃ・・・
まさか能力を自分で作り変えたの!?」
「ああ。そういう事なのね。
今の私は本当になんでも出来るのかも。
でも、多分ニクスに関わる事だけだわ。
なんかそんな感じがする」
「アルカ!それはダメ!
これは真剣な話なの!
お願いだからもうその力は使わないで!
どれだけアルカが凄くても、
人には、この世界の存在には超えてはいけない領分があるの!
あの能力で出来ないことには意味があるの!
私が元に戻すから!
もう絶対にやってはダメだからね!」
「・・・ダメ?
不老魔法まで使えるのに今更じゃないの?
それにこの力はニクスと一緒にいるために必要なのよ?
それを取り上げてしまうの?
もう会いに来ては行けないの?」
「アルカ!お願いだから!
アルカが望むなら私がやってあげるから!
もう絶対に閉じ込めたりしないから!
お願いだから約束して!」
「・・・わかったわ。
もうしない。
ニクスがダメだというものは手放すって約束する」
「ありがとう!
アルカ大好き!」




