2-14.聖地
私とクレアが慌てて戦場に戻ると、既に決着が着いていた。
辺りには冒険者や騎士達の亡骸がそのまま転がっており、
生きている者は既にその場には居なかった。
生きている騎士達は証拠隠滅をする余裕もなく
どこかに移動したようだ。
クレアに時間をかけすぎた!
ノアちゃんは?セレネは無事?
逃げた冒険者達と一緒にいてくれればいいけど。
私はノアちゃんを隠した場所に辿り着く。
「ノアちゃん!」
「アルカ様!」
そこに居たのは、ノアちゃんの上着を着たセレネだった。
「セレネ!ノアちゃんはどこ!?」
「ノアさんは私の代わりに敵を引き付けると言って・・」
セレネは泣きながらそう答える。
「その後は!?ノアちゃんはどうなったの!」
「まだ戻ってこないのです!」
ノアちゃんは自分で囮になったのか!?
大丈夫だ。落ち着け!
ノアちゃんの身体能力ならあの程度の騎士達に捕まることは無いはずだ!
「騎士達はどこに向かったの!」
「聖地の方角です!」
なんで今そっちに?
ともかくすぐに追いかけよう!
時間がもったいない。
私はセレネを抱えて飛行魔法で聖地に飛んでいく。
クレアは地上を走って着いてくる。
もうそう遠くはないはずだ。
魔力は心許ないが、言っている場合じゃない!
そして、ようやく地上に騎士達を見つけ、襲撃する。
数人を生かして拘束し、尋問していく。
「聖女をどこへやった!」
すると、司教と数人が聖女を連れて馬で聖地に向かったという。
この一団は遅れて追いかけていたらしい。
ノアちゃん捕まってる!
こいつらは聖女と思っているが、
当然その聖女は変装したノアちゃんだ。
聖女ではないとバレない限り直ぐには
命まで取られないけど急がないと!
私は追いついてきたクレアにセレネを任せて、
再び空に上がり、聖地を目指す。
そうして聖地に到着したが、
道中にノアちゃん達を見つける事はできなかった。
聖地には神殿があるだけだった。
周囲には建物もない。
神殿に突入し、開けた部屋に出たところで
人が集まっているのを見つける。
(ノアちゃん!)
ノアちゃんは騎士の一人に担がれていた。
どうやら意識が無いようだ。
私は気付かれないよう空から急接近し、
騎士を倒してノアちゃんを取り戻す。
「何をやっている!早く聖女を取り戻せ!」
「しかし!奴は空を!」
「関係あるか!早くしろ!」
「ノアちゃん!ノアちゃん!」
良かった怪我はない。
魔法で眠らされている?
解除魔法をかけると、ノアちゃんは目を覚ました。
「アルカ?」
「ノアちゃん!」
「アルカ!セレネは?セレネは無事ですか!?」
「大丈夫。今はクレアといるから。」
「クレアさん?なんでクレアさんが?」
「話は後にしましょう」
私は空中から、敵に向かって問う。
「あなた達の目的は何?」
「言うわけなかろう!早く聖女を返せ!魔女め!」
「そう。じゃあ用は無いわ」
私は爆撃魔法を放つ。
その時、騎士の一人が前に出て、私の魔法を自分の身で受け止める。
「!?」
爆炎が晴れると
その騎士は平然と立っていた。
なんでクレア以外にもあんなのいるのよ!
「何事だ!」
奥の部屋から一人の男が現れた。
何こいつ?妙な気配を感じる!
「エルドス枢機卿!魔女に聖女を奪われました!」
「ルキウス司教。君は相変わらず役に立たんな。」
「もっ申し訳ございません!」
「まあよい。ここまで連れてきただけでも十分だ。
君にしてはよくやった。」
「はは!」
枢機卿はこちらに向き直る。
「あんたがそっちのボスってわけね。」
「そういう貴女は冒険者のアルカ君だね。
クレア君は間に合わなかったのかな?」
「十分邪魔してくれたわよ!おかげさまでね!」
「そうかね。それは何よりだ。」
「ところで、君が抱いている子は聖女じゃないね?
これはいったいどういうことかな?」
「目ざといじゃない。そっちのアホよりはマシなようね。
この子は聖女じゃないわよ。もう帰ってもいいわよね?」
「それはできないな。
少なくとも、君は聖女の居場所を知っているのだろう?
それにその子からも聖女に似た力を感じる。
君達を捕らえてもこちらに損はないようだね。」
どういうこと?
聖女って力は無いんじゃなかったの?
ノアちゃんとセレネは顔が似ているだけじゃなかったの?
ともかく、相手をしてはいられない。
今は魔力も残り少ないんだ。
あの男からは妙な気配を感じる。
今戦ってはいけないと、頭の中で警報が鳴っている。
私は、視線をそらさないようにしながら後ろに向かって飛んでいく。
「逃さないと言ったはずだよ。」
枢機卿がこちらに手のひらを向けた瞬間、
私に向かって高速で闇の帯が迫ってくる。
何これ?魔法?闇属性?
私は急加速して、その場を離脱するが、
闇の帯は私を追跡して際限なく伸びていく。
しつこい!
爆撃魔法を放って迎え撃つが、
闇の帯に傷一つない。
無視して部屋から出ようとするが先回りされて進めない。
闇の帯は軌跡をそのまま残して伸び続けていく上に、
こちらからの干渉も受け付けない。
このままじゃ逃げ場がなくなる!
なにこの悪質な魔法!
そのまま逃げ続けるも、どんどん闇の帯の無い場所が無くなっていく。
マズイ!
「ずりいぞ!アルカ!何先に始めてやがる!」
「クレア!?気をつけてその帯干渉出来ない!」
「?何言ってやがる!こんなのぶった切っちまえ!」
追いついたクレアはためらわずに帯に斬りかかる。
そうすると、あっさり帯は切断され、切断面から消滅していく。
「なるほど。クレア君が。そういう事か。」
枢機卿が一人で納得している。
攻撃が阻止されたのに相変わらず余裕そうだ。
「良いのかい?クレア君。君はアルカ君と戦いたかったのではないのかい?」
「今はそれより、魔王を倒しにきたぜ!」
「なぜ君がそれを?知っていたのはアルカ君の方かな?
どうやら私は君を甘く見ていたようだ。
まさか、これから復活させようという所に勇者まで連れて来るとは。」
は!?




