17-4.精神と女神の部屋
結局、レーネを迎えに行くことにした。
私は正直、二人から言われたことが飲み込みきれていない。
とにかく私の好きにして良いと言ってくれた。
その上で、二人も我慢しない方法を模索すると言っているのだと思う。
随分と長い事かけて説明してくれたけど、
たぶん重要なことはその二点だけなのだと思う。
そのためにレーネを実験台みたいに扱うのは嫌だけど、
かと言って何時までも約束をすっぽかすわけにはいかない。
ノアちゃんも言った通り、
私達の関係をちゃんと説明しよう。
その上でどうするのか決めてもらおう。
まずは話はそれからだ。
その時が来たら私にも意味がわかるらしい。
二人はそうまとめてくれた。
『ご安心を。
私も一緒にサポートします。
今の私はアルカだけのナビゲーターです!』
『あなた頻繁に転職するわね。
前は守護神じゃなかったっけ?』
『アルカの為なら何にでもなれるのです。
二人も認めてくれたのですし、
そろそろ愛人としても採用してくれませんか?
なんなら愛玩人形でも構いません。体はありませんが』
『あなたね・・・
ところでニクスの体って今どうなってるの?
腐ってたりしない?』
『問題ありません。
神の肉体はそんなやわではありませんから。
それに、あっちはあっちでちゃんと働いてくれているはずです』
『どういう事?』
『オートモードみたいなものです。
本当なら私の帰還もサポートしてくれるはずだったんですが・・・
とんだポンコツちゃんですね』
『あなたの肉体でしょ?
というかそれ大丈夫なの?
反旗を翻されたんじゃないの?』
『そんなわけありません!
オートちゃんにそのような意思はありませんから』
『なら他の誰かに肉体を利用されている可能性は?
邪神とか候補はいるのでしょう?』
『それも心配ありません。
神の座のセキュリティは万全です!
いかな邪神と言えど、侵すこと敵わずです』
『じゃあ、あなたそのセキュリティに弾かれたんじゃないの?
パスワード忘れたとか?』
『・・・さてそろそろ話題を変えませんか?
あまり話しすぎると災が訪れるかもしれません』
『図星なのね?』
『だってしょうがないでしょ!
あそこから出たことなんて無かったんですから!
アムルとだってここまでした事なかったんです!
アルカの為だから特別だったんです!
アムルもあの方も救えなかったからアルカの事だけはって!
絶対に失敗したくなかったんです!』
『わかったから。落ち着いて。
ニクスが頑張ってくれたのはよくわかったから。
私のために頑張ってくれてありがとうニクス。
ニクスの事も大好きよ』
『アルカぁ!!!』
『なんで泣き出すのよ!?』
『だっでぇ!!!』
『ほら。よしよし』
『口だけじゃなくてちゃんと撫でて下さい!』
『無茶言うわね!?
あなた体無いじゃない!』
その直後、意識が急激に沈んでいった。
目覚めると真っ暗な空間だった。
前にも来たことがある。
私の心の中だろう。
そして、光り輝く幼女が体育座りで浮かんでいた。
「これで良いのでしょ?」
「わかったわよ。
おいでニクス」
飛びついてきたニクスを受け止める。
「やっと抱きしめてくれたぁ」
「まだここで会うの二回目じゃない」
「アルカぁ!アルカぁ!」
ダメだ聞いていない。
私の胸に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。
「キスして下さい」
「調子に乗りすぎよ!
ダメに決まってるでしょ!」
「良いじゃないですか!
二人だって見逃してくれるんでしょ?
なら何も減らないじゃないですか!」
「減るのは二人の好感度だけじゃないのよ!
私の精神もすり減るの!」
「そんなに言わなくても・・・」
「今はこれで我慢して」
「アルカふかふかです。
気持ちいいです」
「ふか!?」
「これが人のぬくもりなのですね。
どうして神は持っていないのでしょう。
こんなに素晴らしいものだけがどうして手に入らないのでしょう」
「・・・」
「アルカがぎゅってしてくれましたぁ!
幸せですぅ・・・・zzz」
「ニクス?ニクス?
寝ちゃったの?」
「すぴー・・・zzz」
どうしよう・・・
ここからどうやって出るのかしら。
ここで何をしても外では一瞬って言っていたし、
気にしなくても良いのかな?
まあ、少し位は感謝を伝えるのも必要だしね。
大丈夫。私はまだニクスに特別な思いは抱いていない。
少しくらい甘やかしたって揺らいだりしない。
それよりこの孤独な神様を癒やしてあげよう。
この空間には何も無い。
真っ暗闇がどこまでも続いている。
ニクスは普段こんな場所にいるのか・・・
もう少し頻繁に会いに来てあげよう。
もっといっぱい話しかけてあげよう。
早く元の体に帰してあげよう。
いっぱい抱きしめてあげよう。
私はニクスを抱えたまま横になる。
そう意識して力を抜くと、
空中に寝転がるような感じになる。
不思議な感覚だ。
重力は感じるのに、どこの高さでも固定できそう。
そもそも床がないのだろう。
自分が立とうと思った所が床になるのだろう。
ここでの感覚に慣れるのは時間がかかりそうだ。
けれど、それくらいならニクスと一緒にいてあげよう。
私は胸の中で眠り続けるニクスの額にキスをする。
今はこれだけ。