17-3.道標
「訓練はこれまでじゃ。
アルカも十分な力を取り戻したようじゃしの」
私の新しい力が馴染んだ頃、
ルネルはそう一方的に言い放って旅立った。
まあ、私が魔法を取り戻した以上、
確かに必要はないのだろう。
アクシデントとはいえ、
ニクスが私の心に住み着いたので邪神の心配もいらない。
本当にいつもありがとう。ルネル。
お陰でまた歩き出せる。
私達も何時までものんびりしているわけにもいかない。
色々とやらねばならないこともある。
「レーネに会いに行きましょう」
「良いのノア?」
「ええ。私達の心を強くするためにも、
荒療治が必要だと思うのです。
ニクスは姿が見えませんから。
ちゃんと目の前にいるライバルが必要です」
「そんなのレーネに悪いじゃない。
一方的に利用するみたいだわ」
「いいえ。ちゃんと宣言しておくのです。
一緒にくればきっといつかアルカに落とされる事。
私達はアルカのパートナーである事。
その上でアルカが欲しくなったのなら相手になる用意がある事。
きっと時間の問題ですから。
その方がレーネに対しても誠実だと思うんです」
「それはただの惚気にしか聞こえないんじゃないかしら・・・」
『「「まだわかってないの!?」」』
「ノア!やりましょう!
なんならいずれはアリアも加えてもいいわ。
どうせ勝手に会いに行ってしまうのだし、
なら私達の目の届く所にいてもらった方が良いものね」
「ええ。やりましょう。
どうせ止められないのなら私達で作り上げて手綱を握りましょう」
『名付けて!アルカハーレム計画!』
『「「お~!」」』
「何言ってるの・・・
まだ信じてくれないの?
私が愛してるのはノアちゃんとセレネだけって言ってるのに・・・」
「わかっています。
心の底からそうであると信じています。
だからこそなのです」
「アルカに寂しい思いをして欲しくないの。
アルカに好きなだけ誰かと仲良くなって欲しいの」
「だから、まずは枠組みを有耶無耶にしてしまいましょう。
アルカのなりたい関係と相手のなりたい関係がズレて苦しむのなら、
そんなものは無くしてしまいましょう」
「恋人だとか友達だとかそんな事はどうでも良いのよ。
アルカにとって好きな人かそうでないのか。
特別なのかそうでないのか。
ただそれだけでいいの」
「当然、アルカの中にもそれぞれに差ができることでしょう」
「私達は常にアルカの一番で居続けるわ」
「それは揺るがせません」
「けれど、他の子達にもチャンスをあげましょう」
「アルカにも我慢なんてさせません」
「その上で私達は」
「アルカの一番であり続けます」
「これはアルカを信じているからこそなの」
「アルカが私達を一番だと思ってくれているからこそなのです」
「「私達がそう信じているからできる事なの」」
「二人の言ってる事はわかるけど!
それで私が他の子も好きになったら私が苦しむのよ!
罪悪感で辛くてたまらなくなるの!
きっとそうなるわ!私は二人のことが本当に大好きなんだから!」
「その時は私達が許してあげます」
「私達が慰めて上げる」
「けれど、嫌なら止めて構いません」
「無理強いするつもりなんてないの。
他の方法を一緒に考えましょう」
「他の子がアルカを好きになって」
「アルカがほんの少しだけでも応えてあげたいと思ったのなら」
「今の話しを思い出して下さい」
「その時は私達も受け入れられるんだって」
「だからアルカは我慢しないで下さい」
「苦しまないで欲しいの」
「そのためなら何でもします」
「アルカが幸せに、私達全員が幸せになれるならなんだってね」
「だからこれは逃げ道でもあるのです」
「アルカが迷った時の道標なの」
「それでも動けなくなったら私達が手を引きます」
「アルカの事を立ち上がらせて連れて行って上げる」
「だから安心して好きなようにやってください」
「今もそうよ?アルカの望むままに私達の事を愛してね」
「私達も望むままにアルカを愛します」
「アルカは私達の事を愛していてくれるなら、
他の誰を愛してもいいの。
もちろん愛さなくてもいい。
全部アルカの好きにしていいわ。
けれど、私達だってアルカの一番だけは譲らない」
「アルカが罪悪感に苦しみたくないのなら、
私達がアルカに目移りなんてさせません。
だから私達のいる場所で他の子と仲良くなって下さい。
私達がアルカ自身の罪からアルカの心を守ってあげます」
「私は!二人にだって我慢させたくないんだってば!」
「我慢なんてしないわよ?」
「一番を譲る気は無いんですよ?」
「そのために出来ることは何でもするの」
「アルカの気を引き続ける為に何でもします」
「我慢せずに好きにやらせてもらう」
「だからアルカも我慢しないで下さい」
「それは違うでしょ!我慢する事が消えるわけじゃない!
違うことで発散するって言っているだけじゃない!」
「最初はそうなるでしょう」
「けど必要なことだもの」
「だからレーネに協力してもらいましょう」
「ダメだったらその時に他の手段も考えましょう」
「アルカにも逃れられない宿命なのだと理解してもらう必要があります」
「アルカはそれだけ魅力的な人なの。
誰からも求められる事になるのは避けられない事なの」
「アルカは優しい人なんです。
誰のことも手放したりなんて出来ないのです」
「それをアルカ自身にも自覚してもらう必要があるの」
「そうしなければ、いつか私達以外の子が苦しむのです」
「ニクスはちょっとおかしいから気にしなくてもいいわ」
「もっと普通の子が私達には必要です。
私達も大概ですから」
「もし私達の杞憂で終わるのならそれでも良いのだしね」
「だからアルカが望むのなら、レーネとは友達のままでい続けて下さい」
「正直無理だと思うけど。
けれどレーネなら利害関係の一致もあるし、
アルカから言い寄る事がないのもわかってるもの」
「レーネが勝手にアルカに惚れるだけです。
私達はそう予測して、何かあっても責任を取れるようにしているだけです」
「それに、ちゃんと宣言するのだしね。
レーネがアルカも言ったように惚気ているだけと受け取ってもそれはそれよ」
「私達は精一杯の礼儀を尽くすのです。
多少利用する意図があっても、お互い様です」
「レーネの地上で暮らしてみたいって夢の代償だもの。
それに今話した内容を全て伝えたっていいのだし」
「その上で付いてきたいのか問いましょう」
「きっと来ると言うわね」
「だからアルカは何一つ罪悪感など感じる必要はないでしょう?」
「さあ、どうする?
アルカが嫌なら全部忘れて構わないわ。
けれど、レーネとの約束も守りたいのでしょう?
私達は言った通り準備が出来ているのだから好きに判断していいわ」
「・・・もうどうすれば良いのかわかんなぁい」
「ちょっと急に詰め込みすぎたわね」
「ごめんなさいアルカ。
まずは忘れて下さい。
少しずつゆっくり考えましょう」