16-25.顛末
あれからは大きな事件も無く、訓練の日々は続いた。
私が指輪を贈ったことをキッカケに、
いくつかの修羅場も続いてしまったが、
今ではそんな事など無かったかのように幸せに暮らしている。
けれど、それはきっと、
ノアちゃんとセレネの我慢の上に成り立つ幸せだ。
このままじゃいつかきっと破綻する。
そんな脆い幸せだ。
どうすればいいのだろう。
考えてもわからない。
誰かに優しくすることが誰かに好かれる事に繋がるのはわかる。
私がやりすぎてしまっている事もわかる。
じゃあ、どこまでなら許されるのだろうか。
人に必要以上に好かれずに寄り添い続ける方法なんてあるのだろうか。
きっと私は誰のことも手放せない。
リヴィもアリアもルカもレーネも。
クレアもグリアもルネルもエイミーも。
そしてニクスの事だって。
今更彼女たちと距離を置くことなど出来はしないのだろう。
けれど、いずれ誰かから特別な想いを抱かれるのかもしれない。
私はどうすれば良いのだろう。
想いを向けられても応えなければ良いのだと思っていた。
ノアちゃんとセレネにだけ私の想いが向いていればそれで良いのだと思っていた。
けれど、それでは足りないのだ。
他の誰からも私に強い想いが向いてはいけないのだ。
向けられた想いに背を向けるなど、
私には出来ないし、させたくないとノアちゃんは言う。
解決できないのなら、
せめて納得させて欲しいとセレネは言う。
わからない。
私はどうすれば良いのだろう。
二人を傷つけたくなんてないのに。
二人を苦しめたくなんてないのに。
本当に私がわるいの?
私だけがわるいの?
二人を手放さない為には
他の人は手放さなければいけないの?
そうしないといずれ二人は・・・
『アルカ!!!』
『ニ・・・ク・・ス?』
私の眼の前にはニクスがいた。
周囲は真っ暗だ。
眼の前のニクスだけが光り輝いている。
ニクスは私にキスをする。
なんでそんな事を?
私はノアちゃんとセレネのものよ。
ニクスだって勝手にやって良いことなんかじゃ!
『ニクス!』
『よかったぁ!アルカ!アルカ!』
ニクスの肩を掴んで唇を離すと、
ニクスは泣きながら抱きついてきた。
『ニクス?ここは?何してるの?』
『アルカが取り込まれそうになったの!
ちゃんと止められた!今度は私が止められたの!』
ニクスは興奮していて要領をえない。
少し落ち着かせる必要がありそうだ。
私はニクスの頭を撫でる。
抱きしめ返すのは少し躊躇した。
『落ち着いた?
何があったのかちゃんと話してくれる?』
『アルカが邪神に取り込まれそうになったの!
私がアルカの精神に干渉して止めたの!
ここはアルカの心の中よ』
まだ落ち着いていないようだ。
口調が戻っていない。
『どうやって出るの?』
『折角ならもう少しここにいない?
安心して!ここで何をしても外では一瞬で済むから!』
『その前にもう少し落ち着いて。
いつもと口調が変わってるわよ?
普段はまだ私にも距離があるの?』
『ごほん。失礼。
少し取り乱しました』
『少し?』
『仕方が無いのです。
ここでは私も肉体がありません。
いつもより心が剥き出しになってしまうのです』
『いつもとテンションは大差無さそうだけど・・・』
『そういう意味じゃありません!
気を抜くと思考が言葉にする前に伝わってしまうというだけです。
別に口調を変えているわけではありません。
特別興奮しているからでもありません。
というかアルカが変わらなすぎなんです!
普段から考えたそのままを言葉にしてるからです!』
『うぐ・・・
けど、私の体を使ってる時だって似たようなものじゃないの?』
『違います。
あれはあくまでも映写機で映しているようなものです。
本体は別の場所にいます。
けれど、今は肉体から離れてこの場にいます。
ここはアルカの心の奥底ですから、
潜り込むには必要だったのです』
『ちゃんと帰れるの?』
『・・・大丈夫です』
『少し悩まなかった?』
『かなり無茶しましたので』
『じゃあ、やっぱり帰れなくなる前に戻りましょう』
『仕方ないですね。
折角ここでなら触れ合えるのに』
『また今度付き合ってあげるから。
邪神の干渉があったのなら、
セレネ達も心配しているかもしれないわ』
『憶えていないのですか?
外であなたは今一人ですよ?
だからこそあんな思考を始めたのでしょう?』
『・・・そうだったかしら』
『まあ良いです。とにかく戻りましょう。
外の様子が気になる状態では私に集中してはくれないでしょうし』
『お願いね』
私の意識が再び落ちていくのを感じた。
一度意識が完全に途絶えた後、
再び目覚める感覚があった。
ニクスの言う通り、
私は部屋に一人だった。
ノアちゃんはセレネの所だ。
最近、よく二人だけで話をする時がある。
今もそれだろう。
そんな風に考えていたところに、
セレネとノアちゃんが駆け込んできた。
「「アルカ!」」
「大丈夫。ニクスが何とかしてくれたわ」
きっと邪神の気配を感じ取って慌ててきてくれたのだろう。
「本当に!?
いつものアルカなの!?
けど!でも!じゃあアルカのそれは!?」
「それ?」
「まるでニクスみたいな・・・
ニクス!?まさかアルカに成り代わっているの!?」
「何の話?」
『・・・アルカ』
『どうしたの?今セレネが』
『帰れません・・・』
「は!?」
「アルカ!?」
『アルカの心から出られません・・・
というより、多分この世界から・・・』
『帰れるって言ったじゃない!』
『出来ると思ってたんです!!!
来れたんですから帰れるはずじゃないですか!』
『まったく・・・』
「セレネ、落ち着いて。
今、私の中にニクスがいるみたいなの」
「すぐに帰してきなさい」
『捨て猫みたいに言わないで下さい!』
「なんか出られないって言ってる・・・」
「「はぁ!?」」
「16-19」の誤字報告を下さった方、ありがとうございます!
とても助かっております!