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16-24.陥落

『昨日はお楽しみでしたね』



『流石にあなたがからかうのはどうかと思うわよ?

当事者の一人である自覚はあるの?』


『アルカこそ。

それがわかっているのなら、

嫌味を言いたくなる気持ちも理解していただけませんか?』


『そうね。私が悪いのよね。

ニクスを変えてしまったのは私なのよね。

決してニクスがチョロすぎるからじゃないのよね』


『アルカこそ本当に反省しているのですか?

私がアルカの脳内でノアの言葉を暗唱し続けてあげましょうか?

そうすれば鈍すぎるアルカでも心に染み込むかもしれません』


『やめなさい。

ノアちゃんの言葉をあなたに説かれたくなんてないわ』


『そうですね。

私もノアを揶揄するような事はしたくありません。

代わりに、アルカがやらかしそうな時は警告してあげます。

そうすればノアとセレネとも仲良く出来るかもしれませんし』


『随分と打算的な事を言うのね』


『きっとアルカ達が思っている以上に私はあの二人の事が好きなんですよ?

元々抱いていた想いもありますが、

それ以上に昨日の出来事は大きかったのです。

だから、二人に好かれるのなら、

出来ることは何でもしてあげます。

まあ、出来ないことばかりなのですが』


『なら定期的に体を貸してあげるわ。

あなた自身で口説き落としてあげて。

あの二人もニクスの事を受けいれるしかないと思っているから。

ニクスの事を好きになれれば少しはマシになるでしょうし』


『ありがたいですが無茶言わないで下さい!

私はアルカと違うんです!

そんな特殊技能持ち合わせていません!』


『神なのだし人心掌握くらいできそうじゃない。

あなた六百年前までは殆どの人に信仰されていたのでしょう?』


『それとこれとは別問題です!

大切な人に嫌われたと思い込んで数百年も引き籠もってたんですよ!

最近ようやく立ち直ったばかりなんです!』


『え!?』


『あ!?』


『引き籠もり?』


『何でもありません!聞き間違いです!』


『アムルに裏切られてショックを受けたの?

アムルは邪神に唆されたのよね?』



『・・・アムルが亡くなるまで気付かなかったんです。

邪神はアムルに力を与えませんでした。

私に気付かれないよう、

聖女自身の力を隠れ蓑にして少しずつ侵食したのです』


『最初はアムルに嫌われたと思い込んで引き籠もりました。

失われていく信仰に私の役目ももう終わるんだって思っていました。

あの方が堕ちていく事も止められず、

アムル達に全てを背負わせた私には相応しいのだと思いました。

やっとそんな辛い役目から開放されるんだとすら思っていました』


『アムルが亡くなった後、

汚され尽くしたアムルの魂を見て、

自分が何をしでかしたのか理解しました』


『アムルが苦しんでいる間、

私はアムルを信じずに勝手に絶望して引き籠もっていたのです。

アムルを裏切ったのは私の方なのです。

そうして、アムルの魂を癒やす事を口実に、

結局また引き籠もり続けていたのです』


『けれど、やっぱり私は神なのです。

そんな事を何時までもは続けられなかったのです。

どれだけ絶望しても、

引き籠もっても、

信仰を失っても

神としての職務を

この世界を見守るという役目を

本当に辞める事は出来なかったのです。

心を失うことも、折れてしまうことも出来なかったのです』



『ニクス・・・』


『ご安心を。

今喋りすぎた分は

昨日の修羅場でチャラにしましょう。

多分大丈夫です。

殆どが私自身の気持ちでしかありませんし。

既にセレネが知ってしまった事も大半です。

それでもなにか起きたらすみません』


『良いわ。

私が許してあげる。

災いが起きても私が何とかしてあげる。

だから話してくれてありがとうニクス。

これからもいくらでも聞いてあげるから。

きっと私が何とかしてあげるから』


『そういう所です!

アルカは本当に!本当に!

良い加減にしてください!

もうもうもうもうもう!!』




ニクスは最後に喚きちらしながら話しを終わらせてしまった。


と思ったら、またすぐに話しかけてきた。



『アルカ!

これだけは改めて言っておきます!

私は絶対にアルカを手放しません!

アムルにしてしまった事を繰り返すつもりはありません!

だからどれだけアルカが私を嫌おうとも無駄です!

絶対に振り向かせてみせます!

私に心を向けさせ続けます!

邪神なんてもう怖くありません!』


『たった今!私の心は決まりました!

もう絶対にアルカの事は逃がしません!

出来ることは何でもしますから!

体を借りる件もお願いします!

あの二人にも認めてもらいます!』



今度こそ、ニクスは言葉を止めた。

けれど、今までより気配をずっと近くに感じる。





その日の晩から、

毎日少しだけ、私の体に乗り移ったニクスがノアちゃんとセレネと親睦を深めることになった。



早速、一日目の親睦会が終わった途端、

私はセレネに詰め寄られていた。


「ア・ル・カぁ!」


「セレネ。もう受け入れましょう。

私達が何を言っても無駄なのです。

まさかたった一日でニクスを落とし切るなんて思いませんでした。

もうこんなの手の打ち様がありません。

流石のアルカも今回の事は不可抗力なのでしょう。

反省して意識するだけの時間が無かったのでしょう。

そう思ってあげましょう。

もう私は・・・」


私に縋り付いて泣き出すノアちゃん。

遂に限界を超えてしまった。



「ごめんねノア。

私が怒ってばかりだからそんな役目ばかりさせて・・・」


「ここまで来るともう、ニクスがおかしいのかもしれないわね。

私達だってそれなりの時間をかけて育てた想いなのにね。

私達が昨日その事を話してしまったせいかもしれないわよね」


「アルカも怒ってゴメンね。

アルカの優しい所だって大好きなのに。

それを否定してばかりだよね」


「もう悩むのは止めましょう。

受け入れて笑う方法を考えましょう。

きっとそんな風にした方が幸せになれるわ」


セレネも泣きながら抱きついてきた。




『すみません・・・

伝え方をもう少し考えるべきでした。

災いでもあるかもしれません・・・』


『いえ、悪いのは私なの。

今はもうこの二人に声をかけてあげる資格はないけれど』


『せめてそうやって抱きしめてあげてください』



少しだけニクスの気配が遠ざかるのを感じた。

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