16-23.傷の舐め合い
「私に異論はありません。
二人とも本当にごめんなさい。
もうしないなんて言葉に意味がないのもよくわかりました。
だから、ノアちゃん。セレネ。
どうか私を助けて下さい。
私の罪を一緒に背負って下さい。
どうか見捨てないで下さい」
「・・・ちょっと考えさせて。
ノアの言い分は正しいと思う。
けれど、やっぱりすぐには受け入れられないの」
「そうですね」
「アルカは本当に反省してね。
決して見捨てないけど、
私達を苦しめて楽しいわけではないでしょ?
そういう嗜好なら頑張って耐えてあげるけど。
冗談ではなく本気でそう思えるくらい私達はアルカの事が大好きなのよ?
そんな私達にこの仕打ちはあんまりじゃない?
ここまで言ってくれたノアに今後どう誠意を見せるのかちゃんと見届けるからね?」
「はい。肝に銘じます」
「口では何とでも言えるの。
今までも、アルカが悪いところを指摘されても直せないのは何度もあったことなの。
直せないのなら、
せめて私達を納得させて見せて。
たとえ悪いところでも、
それがアルカの魅力なのだと信じさせて。
それが出来なければ私達は苦しみ続けるからね?
アルカにそんな姿を見せつけたって決して離れてはあげないんだからね?」
「はい」
「それでいいわ。
今のアルカから何を言われたって私は納得なんて出来ないもの。
少しはわかってくれたみたいね」
「・・・はい」
「一旦話は終わりにしましょう。
少し甘えさせて欲しいわ。
もう昨日から気持ちがガタガタなの。
二人もそうでしょう?
少し傷の舐め合いでもしましょう」
「言い方はともかく賛成です。
反省も必要ですが、気持ちを切り替える必要もあります。
このままでは訓練もまともに出来ないでしょう。
ルネルさんには悪いですが、
そう伝えて今日は休みにしてもらいましょう」
「私が伝えてくる。
アルカとノアはこのまま私の部屋に行って頂戴。
二人が使ってるこの部屋でもいいのだけど、
なんだか色々ありすぎたから場所を変えたいの」
「わかりました。お願いします。
さあ、アルカ行きましょう」
「うん」
私はノアちゃんに手を引かれて立ち上がる。
そうして今度はセレネの寝室に向かう。
「ノアちゃん。
さっきはありがとう。
いいえ。いつもありがとう。
本当に真剣に考えてくれて嬉しい。
私もノアちゃんに同じ喜びを感じて欲しい。
だから頑張るから。
まだ信じてなんて言えないけど。
だけどどうか見守っていてね」
「大丈夫です。信じています。
アルカはやればできる子ですから」
「ふふ。それ久しぶりに言われたわね」
「あの頃はアルカがこんな人だなんて思っていませんでしたからね」
「失望した?」
「もう何度も」
「それでも好きでいてくれるの?」
「当然です」
「ありがとう。ノアちゃん。
愛しているわ」
「私もです」
「うん。いっぱい感じてる」
「それは何よりです」
私達はセレネの寝室に到着し、
ベットの上で座り込む。
私が枕元の中心で壁に寄りかかって、
ノアちゃんが私に寄りかかった。
「セレネを待ちましょう」
「そうね」
「勝手に始めては可愛そうです」
「うん」
「少しだけ久しぶりですね」
「そうかも」
「毎日キスはしていますが、
こんな風にゆっくり全身で甘えるのも良いものです」
「私もそう思う」
「忙しかったですものね」
「リヴィもいたしね」
「ドラゴンの時は気にならなかったのですが、
人間の姿になってからは、
流石に目の前でこうするのは憚られました」
「今では可愛い娘ね」
「リヴィにまで手を出すのですか?」
「私にそんなつもりはないのだけど・・・
けど、もう何も言えないわ」
「そうですね・・・
私にも手を出してしまいましたしね」
「今更関係も無いのだけど、
二人にだって自分からそう思ったわけではないのよ?」
「わかっています。
最初は私達の一方的な想いでした」
「最初はすっごく戸惑ったわ」
「そうでしたね」
「どうにかして二人を思い留まらせなきゃって思ってたの」
「そのための条件は結局二つとも守られませんでしたね」
「・・・本当にね。
どうして私はこうなのかしら。
そんな所も二人を不安にさせている原因なのよね」
「ですが、それを無理やり破らせたのは私達自身です。
そして、ニクスもいずれはそうするでしょう」
「わかったわ。
ちゃんとそのつもりで考える」
「そうしてください。
アルカがニクスの想いに押し切られてしまってから相談されたのでは辛すぎます。
ちゃんとそうなる前に私達と話し合ってくださいね?」
「うん。そうするわ」
「きっと泣きますよ」
「そうね。私もそんな二人を見たくなんて無い」
「だからってニクスの事を無碍に扱うのは認めませんからね。
そんなアルカは私の好きなアルカじゃありません」
「うん」
「どれだけ私達を泣かせても、
それでアルカが辛くても、
アルカはアルカのままでいて下さい。
私達が大好きなアルカのままでいて下さい。
その上で私達の事も泣かさないで下さい」
「うん」
「大変だとは思いますけど頑張ってください。
アルカはやれば出来る子です。
頑張ればきっと上手くいきます」
「うん」
「私達の事も遠慮なく使って下さい。
私達はアルカのものです。
私達はアルカの一部です。
私達はアルカ自身でもあるのです」
「うん」
「私達はアルカの為に何でもします。
私達はアルカの救いたい人を救います。
私達はアルカの好きな人を好きになります。
私達はアルカの為に幸せになります」
「うん」
「それだけは忘れないで下さい。
いつも一番に思い出して下さい。
そうすればきっと上手くいきます。
三人で一緒に頑張れば絶対に上手くいきますから」
「うん。ありがとう」
「信じています。愛しています。
愛しいアルカ」
「私もよ。ノアちゃん」
「セレネも良い加減入ってきて下さい」
「気を使ったのに」
「必要ありません。
セレネの前で言えないことなんてありませんから」
「そう。ありがとうノア」
「セレネ、こっちに来て下さい」
「ええ」
セレネが私により掛かる。
「もう少しこっちに来て顔をよく見せて下さい」
「ノアと同じ顔じゃない」
そう言いながら、少し身を乗り出すセレネ。
ノアちゃんは同じように身を乗り出すと、
セレネの唇にキスをした。
「え?」
「大好きです。愛しています。セレネ。
これで私達は本当に三人一緒です」
「けど、だってノアから何も伝わって・・・」
「パスがあったって心が動かなければ伝わりませんよ?
セレネだってそんな事はわかってるでしょ?」
「でも・・・」
「私にとってはもう特別なことなんかじゃありませんから」
「ノアぁ」
「なんで泣くんですか!?
セレネずっと心がグチャグチャだからどの理由だかわかりませんよ!」
「当たり前じゃない!私はもういっぱいいっぱいなの!
そんな時にこんなの!泣くに決まってるじゃない!
一回じゃ足りない!もっとしてノア!アルカも!」
私達は代わる代わるセレネにキスをする。
段々とセレネの方に二人で寄りかかっていく。
キスだけでなく、セレネの顔も舐めていくノアちゃん。
そうやって、慰め合いながら、
たまに話をしながら、
その日は寝食を忘れて一晩中そんな事を繰り返していた。