16-22.白猫少女の反省
「座りなさい」
私はどうやら意識を失っていたようだ。
気付いた時には、ニクスと二人の会話は終わっていた。
目覚めるなり、静かに怒りを放つ二人に、
私は怯えながら言葉に従う。
「アルカ。私達はあなたを信じているわ」
「・・・ありがとう?」
「あなたが本当に優しさだけでニクスを口説き落としたのはわかっているの」
「口説いてなんて!」
「黙って聞きなさい」
「はい・・・」
「あなたは無自覚だったのでしょう。
けれど、やらかした事は事実なの。
それももう手遅れな程にね」
「もう時間の問題ですからね。
今はまだ初めての感覚に振り回されているだけですが、
近い内に私達と同じになるでしょう。
そうすれば、私達もライバルとして見るしかなくなります」
「本当にどうしてこのタイミングなのかしらね。
せめてもう数日くらいは新婚気分でいたかったのだけど」
「まあ、アルカと半年も心が通じていればこうなって当然でもありましたね。
私達も少し油断が過ぎたのでしょう」
「まさか神があんなチョロいとは思っても見なかったもの」
「しかも、本当に精神的には幼いですね。
かと言って老成している部分もあるのでチグハグです。
大人でもあり子供でもあるような。
アルカの好きそうなタイプですね」
「頭が痛いわぁ」
「それでどうします?
アルカのやった事は仕方がないとはいえ、無自覚とはいえ、
私達には責める権利があります。
それだけの事をアルカはしてしまいました。
アルカ?わかりますか?」
「・・・すみません。よくわかりません・・・」
「アルカの認識は間違っているのです。
ニクスはある日突然アルカに惚れ込んだのではありません。
アルカは半年かけて、少しずつニクスを口説き落としたのです。
これは私達への裏切りだとは思いませんか?
アルカに自覚があろうが無かろうが、そんな事は関係がないのです。
そうは思いませんか?」
「・・・仰るとおりです。
誠に申し訳ございませんでした」
「もはや謝って済む段階は過ぎました。
私達は今後の事を話し合わなければいけないのです」
「それって!?
お願い!ノアちゃん!お願いだから捨てないで!
嫌いにならないで!お願いだからぁ!」
「そんな事にはなりません。落ち着いて下さい。
悪いことをしておいて取り乱すのは卑怯ですよ?
絶対に私達はアルカを見捨てたりなんかしません。
ただ、反省と今後の方針を決めなければいけないのです。
当然、その後にはアルカへの罰も決めなければいけません」
「はい・・・すみません。
ちゃんと話を聞きます。
罰も全て受け入れます」
「アルカも状況の把握が出来たことだし話を進めましょう。
ノア。どうしようか・・・
ちょっと泣きたくなってきたんだけど」
「私もです」
「何で私達こんな人が好きなのかしらね」
「私もそう思いますけど言葉にするのは止めましょう。
どの道、私達はもうアルカから逃げられないのですから」
「そうね。一つずつ反省させて直していきましょう」
「直ればいいのですが・・・」
「道のりは長いけど私達には時間があるもの。
きっといずれは・・・」
「もういっそアルカのハーレムを認めてしまいますか?
その方が最終的には気楽かもしれませんよ?」
「少なくとも今はまだ嫌よ。
後千年はアルカを私達で独り占めするの!」
「・・・絶対に不可能な目標は止めましょう」
「ノアぁ~」
「はいはい。セレネ泣かないで下さい。
私も泣きそうなんですから」
「二人とも本当にごめんなさい・・・」
「アルカも。もうわかりましたから。
だからまずは私の考えを説明します」
「アルカは酷いことばかりします。
けれど、その殆どが優しさ故なのです。
アルカのそんな所が好きでもあるんです。
罰も反省も必要ですが、
無くして欲しいわけではないんです。
難しい事を言っているのはわかりますが、
アルカも変わらないでいて下さい。
けれど、もう少しだけ私達の事も考えて下さい」
「うん。ありがとう。ノアちゃん」
「まずは、ニクスの事についてです。
何も、冷たく当たれとは言いません。
むしろ優しくしてあげて下さい。
ニクスの心も受け止めてあげて下さい。
そうして、よく考えて、
私達に相談して、
アルカがどうするのかを決めて下さい。
どんな決断をしようとも認めてあげます。
私達もきっと泣いてしまいますけど、
アルカに怒ってしまいますけど、
その時は慰めて下さい」
「ノア!?何言ってるの!?」
「セレネ。ニクスはもはや時間の問題です。
あそこまでいってしまえば、
引き返すことなんてできません。
私達と同じ気持ちになるのです。
それはまず認めましょう。
そして、そうなった時に拒絶するだけでは、
ニクスがあまりにも可愛そうです」
「私はアルカに最低な人になってほしくありません。
自分で必要以上に近づいておきながら、
振り向いた途端に放り出すような最低な行いをしてほしくないのです」
「ある意味、ニクスも被害者なのです。
それは私達と同じです。
アルカが自分で撒いた種なのです。
ちゃんと責任を取らせましょう」
「そして、今後同じことを繰り返すのは決して許しません。
そう言いたいですが、きっと無理でしょう。
アルカはそういう人です。
だからこそ私達もアルカの事が好きになったのです」
「だから話し合いましょう。
次の被害者を出す前に知恵を出し合いましょう。
アルカ一人では無理でも、私達が一緒に考えましょう」
「ちゃんと一人一人と向き合いましょう。
リヴィとも、アリアやルカ、レーネとももっとよく話し合いましょう。
そして私達で止めましょう」
「アルカ一人に任せてしまうからこうなるのです。
私達が補い合えばアルカに気持ちが集中する事は少なくなるはずです。
私達なら兆しが視えた段階で手を打つ事も出来るはずです。
だから私達もアルカの助けたい人達を助けましょう。
アルカの会いたい人達には一緒に会いましょう。
アルカの隣には私達もいるのだと認識してもらいましょう」
「それでもどうにもならなかったとしても、
私達も関わっているなら仕方がなかったと納得できるはずです。
そうすれば、私達も必要以上にアルカを責める事はなくなります。
アルカの事も必要以上に変えてしまわなくて済むはずです」
「私達は一蓮托生なのです。
アルカの失敗は私達の失敗でもあるのですから。
私達も一緒に反省して一緒に努力しましょう」
「ノアちゃん・・・」
「これが私の意見です。
お二人はどうですか?」